井端弘和が語る熾烈なセパのCS争い「短期決戦ならいい戦いができる」「一気に引き離す可能性もある」チームは?
井端弘和「イバらの道の野球論」(22)
プロ野球の2023年シーズンが佳境を迎えているが、両リーグでクライマックスシリーズ(CS)進出をかけた争いが熾烈を極めている。現役時代、球史に残る名ショートとして中日や巨人で活躍し、引退後も解説者や指導者として活動する井端弘和氏に、各チームのこれまでの戦いと、CS本番も見据えた今後について聞いた。
(※)チームの順位、選手の成績は9月25日時点。
現在のセ2位は広島、パ2位はソフトバンクだが、それぞれ3位と4位の差はわずかだ
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――セ・リーグは阪神がリーグ優勝を決め、広島、DeNA、巨人が三つ巴でCS進出を争う状況でした。そんな中、現在2位の広島がいち早くCS進出を決めましたが、今シーズンの戦いをどのように見ていますか?
「主力選手の故障者が多く、現在も離脱している選手もいますが、メンバー同士でカバーし合ってきましたね。その経験がこの終盤のCS争いでも生きている印象です。
投手は、床田寛樹や九里亜蓮など先発投手陣を中心になんとか回していました。中継ぎ陣ではホールド数でリーグトップ(38ホールド)の島内颯太郎が頑張って、開幕から出遅れた栗林良吏の代わりに矢崎拓也が抑えを担ったことで、層が厚くなったと思います。
野手陣はより苦しく、西川龍馬や秋山翔吾など核となる選手たちが戦列を離れる中でよく耐えました。現在4番で好調の堂林翔太、末包昇大などが主力選手とそん色のないプレーを見せたことが、今の位置をキープしている要因ですね」
――打撃不振でシーズン序盤に出場選手登録を抹消された小園海斗選手も、7月の一軍再昇格から徐々に調子を上げて、9月は打率.363(9月25日現在)と好調です。
「今は打率が2割8分あたりまできましたから、一軍に戻ってきてからの打率は相当に高いんじゃないでしょうか。CSを含めてチームのカギを握る選手のひとりですが、2年前からそのくらいの成績を残している選手ですから、もっと上にいってもらわないと。まだ23歳ですし、気は早いですけど、来季以降は一年を通して安定した成績を残してほしいです」
――広島と1.5ゲーム差の2位、DeNAに関してはいかがですか?
「先発の東克樹がとにかく負けない(15勝2敗)ですし、あとは今永昇太の状態が上がれば、CSに進出した場合の戦いも見通しが立てやすいですね。打線も得点能力が高いので、2位に上がってCSをホームで迎えることができたら、勝ち進んで阪神と戦う可能性はかなり高まると思います。対阪神という視点でも、状態がいい時は投打ともに阪神に負けない、もしくは上回る戦力がある印象ですし、短期決戦ならいい戦いができるはずです」
――ケガで離脱中のトレバー・バウアー投手が、CSファイナルで復帰するという報道もありますね。
「そればかりはわかりません(笑)。ただ、シーズンを通して"しっかり投げる投手"だと思いました。中4日で先発していましたから、それが他の先発投手のサイクルに影響が出ることもあったでしょうが、シーズンが進んで『もう少し休ませたい』という投手が出てきた時に大きな助けになったと思います。しかも、球数を制限するわけではなく、最後まで投げ切ろうとする姿勢もよかった。
トレーニングを含めて、自分で自分を管理している選手なんでしょう。聞いた話ではありますが、試合後にはすべてのデータに目を通し、打たれた打者に対する配球も考えているそうです。投げる球もストレートが強く、どの変化球も一級品で"さすが"のひと言。いろんな組み立てができて、CSでその投球を見られるならうれしいですが、来シーズンも日本で投球が見たいですね」
――DeNAまで3ゲーム差、4位の巨人はCS進出がかなり厳しくなりました。
「ただ、ズルズルいきそうでいかない、何とか踏みとどまっていることからも、『チームとしての力はある』と感じます。爆発力もありますから、もうひと山、ピークを持ってこられるかどうかですね」
――巨人が今の位置に踏みとどまっている要因は?
「チームのホームラン数がリーグ断トツ(163本)など、長打力を含めた打線の力、それと連敗を止めることができる先発投手、戸郷翔征と山粼伊織の働きが大きいですね。加えて、グリフィンやメンデスも安定していて、赤星優志もここにきて上り調子。抑えの大勢も状態は心配ですが戻ってきましたし、もしCSに進出できたら面白いと思います」
――ただ、もしCSに進出してファーストステージを勝てたとしても、待ち構えている阪神との今シーズンの対戦成績は6勝18敗と大きく負け越しています。
「ペナントレースとポストシーズンは別物ですからね。僕が現役時代の時も、2009年のCSファーストシリーズ第2戦で、シーズン中に苦手にしていた(1勝3敗)ヤクルトの先発・館山昌平に勝てたこともありましたし。阪神は投打ともにいい状態で終盤を迎えていますが、何が起きるかわからないのが短期決戦。どのチームが勝ち進んでもいい戦いができると思いますよ」
――続いてパ・リーグですが、ロッテとの直接対決で連勝し、単独2位に浮上したソフトバンクのここまでの戦いはいかがですか?
「ロッテが落ちてきて、結果的に2位に浮上した形ですね。打線は軸がしっかりしていますし、本来であればもう少し貯金があってもいいチームだと思うのですが、投打のバランスがよくない印象です」
――確かにチームでの得点はリーグトップの510点ですが、それがうまく勝ちに結びついていないのでしょうか。
「打線と投手陣の調子の波が合わないこともあるでしょうが、特に投手陣の苦戦が目立ちますね。
先発陣は、千賀滉大(ニューヨーク・メッツ)という柱が抜けた部分をなかなか埋められなかった。ひと昔前のソフトバンクは、千賀の後に石川柊太や東浜巨といった力のある先発投手が何人も控えていて、今のオリックスに引けを取らないほど強力でした。シーズン中に大崩れすることもありませんでしたが、今シーズンは10勝以上している投手がいませんから。
中継ぎ陣が打たれて逆転されるケースも見られました。(リバン・)モイネロの離脱が大きいですが、それでも代わりの投手が出てくるのがソフトバンクという印象でしたけど......地力はあるチームだと思うので、最後にそれが噛み合うかどうかですね」
――7月中旬から2位をキープしていたロッテは、楽天とゲーム差なし、勝率差で4位となりました。
「ここまで今の位置を維持できたのは投手力によるものでしょう。特にシーズン前半は佐々木朗希をはじめとした先発陣の頑張りがあり、中継ぎ陣も安定していた。極力失点を押さえながら、打線が点を重ねていく。足を絡めながら、ジリジリと点を取る野球がチームに浸透していますね。相手チームからすると、リードしても大きく引き離すことが難しいので、かなり嫌だったでしょう」
――ただ、佐々木投手が左わき腹肉離れで一軍登録を抹消されて以降は少しずつ貯金を減らし、ここ数日も特例2023で登録抹消される選手が相次ぐなど苦しいですね。
「佐々木が長く離脱した中でよく耐えてきた、というところでしょうか。9月は連敗もあって厳しいですが、ここ数試合で先発の美馬学の状態がようやく上がってきた。種市篤暉も1カ月以上勝ちがついていませんが、もうひと踏ん張りできるかですね」
――徐々に上位との差を詰め、3位まで上がってきた楽天の印象は?
「一番勢いがあり、野手、ベンチも一丸になっている雰囲気があります。長く調子が上がらなかったベテランの島内宏明や、中日から移籍の阿部寿樹が打ち出してきたことが大きい。小郷裕哉、村林一輝といった今シーズンにブレイクした選手たちもさらに乗っていくと、ここから一気に引き離す可能性もあると思いますよ」
【プロフィール】
井端弘和(いばた・ひろかず)
1975年5月12日生まれ、神奈川県出身。堀越高から亜細亜大を経て、1997年ドラフト5位で中日に入団。2013年には日本代表としてWBC第3回大会で活躍した。2014年に巨人に移籍し、2015年限りで現役引退。現役生活18年で1896試合出場、1912安打、56本塁打、510打点、149盗塁。ベストナイン5度、ゴールデングラブ賞7度、2013年WBCベストナインなど多くのタイトルを受賞した。2016年から巨人内野守備コーチとなり、2018年まで在籍。侍ジャパンでも内野守備コーチを務め、強化本部編成戦略担当を兼務している。