三笘薫が見せた「妖精のような動き」 途中出場2得点でブライトンを救う
3日前の9月21日、ヨーロッパリーグ(EL)の開幕戦でAEKアテネと対戦したブライトン。欧州ランク20位のギリシャリーグ覇者に対して、まさかの敗戦を喫していた。
ELは初出場。昨季のプレミアリーグ6位もクラブ史上最高の成績。チームは未知なる世界を歩み出したところだ。ロベルト・デ・ゼルビ監督にはシャフタール・ドネツク時代(2021〜22シーズン)、チャンピオンズリーグ(CL)のグループステージを戦った経験がある。しかしその時は、レアル・マドリード、インテル、シェリフと同じ組を戦い、6試合で勝ち点2しか挙げることができなかった。
いわゆる泡沫候補として戦った経験はある。だが、ブライトンは今季がEL初出場にもかかわらず、ブックメーカーからリバプールに次いで優勝候補の2番手に推されている欧州の強豪だ。プレミアリーグでもCL圏内を狙う有力チームのひとつである。
攻撃的サッカーを標榜する優秀な監督であると、衆目の一致する評価を得ているゼ・デルビながら、欧州レベルに昇格し、おのずと試合数も増えそうな今季は、やりくりする力も求められることになる。各試合の強弱をどうつけるか。選手の出場時間をどう管理するか。多くの選手を使いながら、つまり選手層を厚くしながら勝っていく術が求められている。
ここで失敗するチームをこれまで何度となく見てきた。晴れてCL、ELに出場したものの、選手のやりくりがうまくできず、国内リーグでも必要以上に失速するチームである。そうした意味でも、これまでの三笘薫はいささか出すぎだった。AEK戦まで6試合すべてスタメン出場を飾り、そのうち4試合でフルタイム出場を果たしていた。
9月24日(第6節)ボーンマスとのホーム戦。
第5節を終わった段階でブライトンの順位は5位。CL出場圏内からわずかにはみ出した位置にいた。圏内である4位以内を意識すれば、絶対に負けられない試合となる。しかし、相手のボーンマスは15位だ。こう言っては何だが、いかに手を抜きながら勝利を収めるかがこの試合のコンセプトだった。
【悪い流れを断ち切れず後半から投入】
三笘は休ませるべき選手だった。地元メディアは3日前に行なわれたAEK戦で、すでに三笘をベンチスタートと予想していた。その予想は外れることになったわけだが、結果的に試合にも敗れた。
三笘はブライトンのアタッカー陣の中で出場時間が最も多い選手である。中心選手といっても過言ではない。その選手をあえて出場させた結果、試合に敗れた。失点シーンには三笘のミスも絡んでいた。デ・ゼルビ采配はどちらかと言えば失敗に終わっていた。というわけで、ボーンマス戦のスタメンに三笘の名前が見当たらないことにむしろ安堵したものである。その4−2−3−1の「3−1」には以下の4人が並んだ。
エバン・ファーガソン(1トップ/アイルランド代表)、ダニー・ウェルベック(1トップ下/元イングランド代表)、サイモン・アディングラ(左/コートジボワール代表)、ファクンド・ボオナノッテ(右/アルゼンチン代表)。
しかし、世の中はうまくいかないものだ。前半25分、ブライトンはGKバート・フェルブルッヘン(オランダU−21代表)が、迂闊にもボールをさらわれ失点を許す。前半の追加タイムに相手のオウンゴールで同点とするも、気品溢れるパス回しをベースにした、持ち前の攻撃的サッカーを披露することはできずにいた。AEK戦から続く悪い流れを断ち切れていない様子だった。三笘が後半の頭から投入された理由である。
ボーンマス戦に後半から出場、2得点をあげた三笘薫(ブライトン)
それにしても三笘は胸のすくような動きをする。水面をスイスイと移動するアメンボのようにピッチを軽く、滑るように動く。メルヘンチックに言えば妖精のようだ。「ピクシー」と言えばドラガン・ストイコビッチの愛称として知られるが、変幻自在なドリブルで相手を陥れる三笘のほうがイメージ的に近いのではないか。そんな思いに浸っているうちに、三笘は登場するや、さっさとゴールを決めてしまった。
相手ボールで始まった後半。キックオフから2本目のパスを、三笘とともに後半頭から出場したアンス・ファティが引っかける。相手の右CBイリア・ザバルニー(ウクライナ代表)が、ヘディングで押し返したボールを拾ったのが三笘で、スイスイとした快活なドリブルで前進するや、左に開いたアンス・ファティにパスを送り、自らはまさに妖精が乗り移ったかのように中央に走り込んだ。
【ハットトリックの可能性もあった】
そのリターンが三笘の足もとに入る。膨らみを持たせながらトラップに及んだそのタッチが秀逸だった。1、2メートル先にわずかに広がるオープンスペースを見つけるや、そこにボールを送り出すようにセットすると、後はゴールに流し込むだけだった。DFの足に絡みながらボールは枠内に吸い込まれていった。開始わずか15秒の出来事である。
三笘以外できそうもない、切れ味満点、すばしこさ満点、シュートシーンから逆算したような、計算高いしたたかなドリブル&シュートだった。
2−1と、ブライトンはあっさりと逆転した。だが、三笘の活躍はこれで終わらなかった。
後半32分。中盤で相手ボールを拾ったスコットランド代表の22歳、ビリー・ギルモアは、同じタイミングで掛け寄ることになった三笘に、中央に入れと指示を送る。腕を掲げゴール方向を示すと、ギルモア自身は左サイドに開いた左SBペルビス・エストゥピニャン(エクアドル代表)にパスを展開した。
エストゥピニャンの左足センタリングは正確無比。完璧そのものだったが、ギルモアの指示に従い、中央に走り込んだ三笘の動きもシャレていた。ザバルニーに悟られないように、足を偲ばせるように侵入。ウクライナ代表CBがボールウォッチャーになった瞬間、その身体は軽々と舞った。ヘディングシュートはきれいな弾道でゴール右隅に吸い込まれていった。
見せ場はもう一度あった。後半44分。交代で入った期待の新加入選手、19歳のカルロス・バレバ(カメルーン代表)から左サイドでパスを受けると、ドリブルで加速。対峙する相手右SBマックス・アーロンズ(元イングランドU−21代表)を軽々と縦に外すと、MFデービッド・ブルックス(ウェールズ代表)を抜きにかかった。
楽々抜いたかに見えた瞬間、手が掛かった。そうでもしなければ三笘はシュートに持ち込んでいただろう。ハットトリックの可能性は大いにあった。そこで激高しないところがまたおシャレだった。格の違いを見せつける恰好になった。
喜ばしい話ではある。しかし、後半追加タイムの6分間を加えた計51分というこの日のプレー時間は、やっぱり長い気がした。せいぜい15分に収めたかった。中2日でリーグカップのチェルシー戦が控えているからだ。
過密日程とどう向き合うか。その中には日本代表戦も含まれる。代表戦は10月(親善試合)、11月(ワールドカップ予選)と立て続けに組まれている。11月に呼ぶなら10月は招集しないとか、毎度の招集は避けるべきだ。これは欧州のカップ戦に出場している他の選手にも言えることだが、代表監督は欧州組のスケジュール管理と真剣に向き合う時期に来ている。スポンサーやテレビ局の要請に屈し、ベストメンバーを毎度並べる時代は終わった。
それはサッカー後進国がすることだ。所属クラブの間合いに合わせるべきなのだ。日本は欧州から最も遠い国であり、W杯予選の環境が世界で最も緩い国であることを忘れてはならない。そうでないと選手が痛む。贔屓の引き倒しになる。貫くべきはプレーヤーファーストの精神である。
特に欧州人に混じると華奢に見える三笘は、ガラス細工のように扱うべきだ。たとえるなら、重要文化財の域に達しつつあると筆者は見ている。