久保建英、今季4得点目で現地紙も「勢いが止まらない」 終盤には「魔法」のプレーも見せた
「久保建英はレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)で開幕から4得点し、現在ピチーチ(チーム得点王)になっている。ヘタフェ戦ではまたしても攻撃で重要な選手になった。勢いが止まらない」
スペイン大手スポーツ紙『アス』は、久保を絶賛している。数字の力は強い。問答無用だ。
久保自身も数字に対して積極的に取り組んできたのだろう。「ゴールやゴールに絡むプレーがもっとほしい」とイマノル・アルグアシル監督が注文をつけていたが、あっという間に完了した。はっきり言って、クラブが予測した以上の成長ぶりだろう。
では、久保は何が進化しているのか?
ヘタフェ戦で先制ゴールを決めた久保建英(レアル・ソシエダ)
9月24日、サンセバスティアン。ヘタフェを本拠地に迎えたラ・レアルだが、実は四苦八苦していた。先発組は欧州の強豪チームとも互角に戦えるところを見せたが、控え組が入ると極端にパワーダウン。レアル・マドリード戦もインテル戦も、後半に怒涛の反撃を受け、先制しながら勝ちきることができなかった。
「イマノルは何をしているんだ! もう限界じゃないのか?」
2、3試合結果が出ないだけで、アルグアシル監督はじわじわと批判に晒されていた。
そこでこの日、アルグアシル監督は一計を案じている。先発組のミケル・オヤルサバル、ミケル・メリーノ、マルティン・スビメンディをベンチスターターに選択。交代の切り札にした。
「Aチーム、Bチームなど我々に存在しない」
監督本人はそう断っているが、ひとつの賭けだった。そもそも、オヤルサバルは90分もたない状態だし(大ケガからの復帰でまだフィットしていない)、メリーノも波が激しいところがある。スビメンディはインテル戦の前日は腹痛により1日中ベッドで過ごしており、完調には程遠かった。苦肉の策といったところか。
だが、代わりに入ったウマル・サディク、ベニャト・トゥリエンテス、ウルコ・ゴンサレスは、フィットしていない。サディクはまともにポストワークができず、トゥリエンテスは奮闘だけが目立ち、ウルコはビルドアップのところで力不足と、劣勢に陥った。
【真骨頂は試合終盤に】
「久保とブライス(・メンデス)のふたりで、敵将のプランを打ち砕くのに2分もかからなかった。久保のゴールはすばらしかった」
スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』がそう記述しているように、久保が窮地を救った。
2分、ブライスがボールを持ち上がると、久保はうまくペースを合わせながら右サイドで受け、左足のダイレクトでゴールのファーポストに蹴り込んでいる。とてつもない技術精度だった。トップスピードで味方と歩幅を合わせ、オフサイドにかからず、ボールにかける回転を見極め、同時にGKと DFの位置を確認し、瞬間的に空いたコースに蹴り込んだ。
これだけでも十分にヒーローだが、真骨頂はこの後だった。
ラ・レアルは前半で2点を返され、逆転される。やはり控え組が綻びを見せた。後半になっても流れは変わらない。ヘタフェの、老獪に足を削り、ひっぱり、こづくというプレーを前に、本来のリズムが出なかった。
久保は右サイドでボールを受けると、ポゼッションを守りながら、時折、孤立無援のドリブルに入る。しかし、常に相手の左サイドバックの密着マークを受け、さらに左センターバック、左ボランチ、あるいは左MFに包囲される。ジャブのように相手の脇腹を痛めつけるが、ダウンさせるには至らない。それでも果敢に仕掛けたが、左足首を削られた。
そこで59分、アルグアシル監督が動いた。オヤルサバル、メリーノ、スビメンディに入念な指示を与えた後の3枚替え。これでチームは息を吹き返す。敵陣でのプレーが長くなって、次々に"事故"を引き起こした。61分、ブライスが誘って得たPKを、オヤルサバルが確実に決める。さらに66分、クロスに出た相手GKがボールに触れられず、それをブライスが押し込んで逆転に成功した。
そして88分、久保が右サイドでマーカーと対峙しながら、背後からのボールをコントロールだけで置き去りにする。そこからインサイドにボールを入れ、それをブライス、オヤルサバルとつないで4点目となる追加点。久保はチャンスメーカーにもなっていた。
【光るブライス・メンデスとのコンビ】
この直後にも、久保は左サイドに回り、ギャップでボールを受けると、振り向きざまにモハメド・アリ・チョに左足で出し、折り返しでネットを揺らした。オフサイドの判定だったが、瞠目(どうもく)に値するプレーだった。散歩でもするようにゆったりとした動きで、わずかにタイミングをずらし、滑りすぎない回転をかけたボールは、インスピレーションが横溢(おういつ)していた。
それは、引退したダビド・シルバのプレーを彷彿とさせる、パウサ(休止)を使った"魔法"だった。少しも力みはいらない。背番号14はダビド・シルバの影まで纏おうとしているのか。
試合はこの後、ヘタフェが1点を返し、スペクタクルな展開で幕を閉じた。久保の八面六臂の活躍で、ラ・レアルは勝利を収めた。とりわけ、ゲームMVPに選ばれたブライスとのコンビは光った。ふたりの関係をどこまで広げていけるか。それがラ・レアルの命運の鍵を握るのだろう。
この日の久保は、苦慮しながらも、サディク、チョなどの力を引き出そうと、盛んに声をかけていた。今後は総力戦になることを承知しているのだろう。勝利を求めるリーダーとして、誰も置き去りにできない。
次節は敵地でバレンシア、続いては本拠地でアスレティック・ビルバオとのバスクダービーが控える。地元では、ビルバオ戦はレアル・マドリード戦、インテル戦よりも注目度は高い(実際に観客数も最多を記録している)。その勝負はシーズン全体の布石になる。
開幕以来、凄まじい勢いで駆け上がる久保が新たなフェーズへと挑む。