橋岡大樹は日本代表で「満足しているつもりはない」 ドイツ戦勝利で祝福されるも「悔しい気持ちがあった」
ドイツとトルコを相手に、世界を驚かす連勝を飾った日本代表。特にドイツを4−1で下したインパクトは強かったようで、代表での活動を終え、シント・トロイデンへと戻った橋岡大樹は、チームメイトからこんな言葉をかけられたという。
日本は強いな――。
「ロスタイムも合わせて10分くらいでしたが、その試合に出られたのは自分のなかでも大きいと思っていますし、みんなからも『あそこで出られたのはよかったね』って言われました」
そう話す橋岡は、今回の9月シリーズ2試合に出場。ドイツ戦は後半84分から、トルコ戦は後半開始から、いずれも途中出場ながら出場機会を得ている。
ワールドカップ後、初めての代表活動となった3月シリーズでは、橋岡の出場はウルグアイ戦の1試合のみで、それも89分から。続く6月シリーズでは招集自体がなかったことを考えれば、今回は充実した活動になったと言えるのかもしれない。
「3月の時よりは出場機会も増えましたし、コツコツやっていけば出場機会をゲットすることができると思います。日頃の練習や試合からいいプレーを見せていれば自然と代表にも選ばれると思いますし、代表の練習でもまた、しっかり活躍すれば試合にも出られると思いますし。すべてがつながっていると思うので、毎日気を引き締めながらやっていくことが大切なのかなと思います」
そんな決意を後押しするかのように、代表活動直後のシント・トロイデンでの試合で、橋岡に待ちに待った"ご褒美"がもたらされた。
ベルギーリーグ第7節メヘレン戦。先発で右ウイングバックに入った橋岡は前半33分、左サイドでパスがつながれる間に右サイドを駆け上がると、最後は同じく右サイドに走り込んでいたヤルネ・ステウカースからのパスを受けて、低く鋭いシュートをファーサイドに叩き込んだ。
シント・トロイデン移籍後、初ゴールを決めた橋岡大樹
2021年にシント・トロイデンへ移籍して以来、ようやく生まれた待望の初ゴールである。橋岡がうれしそうに口を開く。
「いや〜、やっとかって感じですね(笑)。もう2年半(シント・トロイデンで)プレーしていて、ゴールを決めていなかったので」
喜んだのは、チームメイトも同じだ。浦和レッズ時代の橋岡の後輩であり、今夏シント・トロイデンに移籍してきた鈴木彩艶も、「ここに来てゴールを決めていないって言っていたし、この前の試合でもチャンスがあったなかで決められなくて、本当に悔しがっていた。決めてくれてうれしい」と、自分のことのように声を弾ませた。
橋岡が公式戦でゴールするのは、2020年8月のJ1第13節大分トリニータ戦(2−1)以来、およそ3年ぶり。その時のゴールもまた、前半33分というのも因縁めいていて面白い。
当時の試合をベンチから見ていた鈴木は、橋岡の"Jラストゴール"もしっかりと記憶している。
「埼スタで、(試合の)前半でしたね。(右)斜めからの(山中)亮輔さんの強烈なFKを(橋岡が)頭でちょっと触って入ったのは覚えています」
ゴール後、山中のFKが直接ゴールインしたと勘違いした周囲に向かって、「オレ、オレ!」と必死のアピールを繰り返していた橋岡の姿が微笑ましく、印象的なシーンとして記憶しているファンも多いかもしれない。
橋岡自身、「3年ぶりくらいですか? 長いですね」と苦笑する、久々のゴールである。
「(3年前のゴールは)ヘディングですよね、たぶんFKからの。だいぶ経っていますね。シントに来て初めてのゴールなんで、ゴールする気持ち、感覚をちょっと忘れていました。(ゴールを決めたあとも)どう喜んでいいのかわからなかったんで。これから、ゴールを決めたあとは、もっとスマートにできればいいかなと思います(笑)」
だが、記念すべきベルギー初ゴールも、現在のシント・トロイデンでの橋岡の役割を考えれば、生まれるのは時間の問題だったのかもしれない。
右ウイングバックがスタートポジションの橋岡も、試合のなかでは前線の選手とポジションチェンジする機会が多く、高い位置にとどまる時間が少なくない。つまり、ゴールに直結するポジションにいることが多いからだ。
「(チームとして)ボールを保持できていて、時間があるので、どんどん前に出ていく数も多くなってきている。僕にもチャンスが結構回ってきていると思うので、ゴールできるチャンスも多くなっているのかなと思います。アシストの数は増えていたんですけど、ゴールがなくて、これを機会にまたゴールもアシストも増やしていければいいかなと思います」
前半33分に橋岡が、後半63分に伊藤涼太郎が、いずれもベルギー初ゴールを決め、2−0とリードしたあとも、シント・トロイデンはカウンターから追加点のチャンスを何度も迎えた。
その度、橋岡は懸命にスプリントを繰り返し、ゴール前に駆け上がる。当然、疲労は蓄積したが、「(足が)ちょっとつりかけちゃったんですけど、交代するのも嫌だった」。
2−0での勝利を告げるホイッスルと同時にピッチに倒れ込み、チームメイトに足を伸ばしてもらっている姿は、橋岡が持てる力を決して出し惜しみしなかったことを物語っていた。
先の日本代表戦2試合に出場したことで、周囲からは称賛の言葉も受けた。しかし、橋岡は「僕はそれで満足しているつもりはないです」とキッパリ。
「スタメンで出て活躍する、試合に出続けるっていうのが僕のひとつの目標なので。みんなにおめでとうって言われましたけど、自分はちょっと悔しい気持ちがありました」と言い、こう続ける。
「満足できなかったこの悔しさを糧にしてやっていけたらいいかなと思ってます」
日頃の練習や試合が日本代表につながっている――橋岡の覚悟が、記念すべき初ゴールを生み出した。