南仏で「ブレイブ・ブロッサムズ(勇敢な桜の戦士たち/ラグビー日本代表チームの愛称)」の矜持は、世界のファンに見せることができた。しかし、「ラグビーの母国」の壁は高かった──。

 9月17日、ラグビーワールドカップの予選プール2戦目を迎えた日本代表(世界ランキング14位)は、フランス・ニースで優勝経験のあるイングランド代表(同6位)と激突した。過去の対戦成績は日本代表の0勝10敗。ワールドカップでは1987年の第1回大会以来(7-60)となる対戦となった。


イングランド相手に日本はスクラムで負けていなかった

 昨年11月にアウェーで対戦した時は、FW戦で後手を踏んで13-52で完敗。しかし、日本代表を率いるジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が「ベストなFWパック」と話すとおり、この日は最高のメンツをピッチに送り込んだ。

 キャプテンNo.8姫野和樹を筆頭に、PR稲垣啓太、PR具智元、HO堀江翔太、FLリーチ マイケル、FLピーター・ラブスカフニと、フロントローとバックローにはワールドカップ経験者がずらり。さらに強靭なFW作りに欠かせないセカンドローにも、仕事人のLOジャック・コーネルセンと初戦で2トライを挙げたLOアマト・ファカタヴァを組み合わせた。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)

 だが、それでもイングランドには及ばなかった。結果は12-34。

「私たちのプランを遂行しようとした選手たちを誇りに思う。キッキングゲームではイングランドを驚かせた部分もあったし、相手にプレッシャーをかけてチャンスを作った」(ジョセフHC)

「全員が100%の力をベストのパフォーマンスを出してくれた」(姫野)

 試合後、彼らは胸を張って語ったように、日本代表のパフォーマンスが昨年とは見違えるほどよかったのは事実だ。特に課題だったFW陣は、前半からスクラムや接点で奮闘し、試合をしっかりと作ったのは大きい。

【ノッコンに惑わされた日本代表は勢いを失った】

 日本の夏を感じさせるような25度・湿度80度のなか、日本代表はSH流大やSO松田力也が相手の裏のスペースにキックを蹴る戦略を選んだ。イングランド相手に臆することなく果敢にトライを狙う姿勢を見せ、前半は松田がPG(ペナルティゴール)を3本決めるなど必死にくらいつき、わずか4点差の9-13で折り返した。

 ハーフタイムでは選手たちが「ゲームプランどおり」と口を揃えたとおり、日本にとって悪くない流れだった。さらに後半14分にも松田がPGを決めて12-13と1点差に迫ると、ここから勝つ流れにもっていける......と思えた。

 その矢先だった。

 直後の後半16分、イングランドにボールを継続され、最後はPRジョー・マーラーがノックオンしたかに思われたが、ビデオ判定の結果、頭にしか当たっておらず(※頭はノックオンにならない)、そのままFLコートニー・ロウズにトライを許し、12-20と点差を広げられてしまった。

「(ノッコンだと思って)自己判断でプレーを止めたことによって、流れがちょっと変わってしまった」(WTB松島幸太朗)

 このワンプレーによって、試合の流れはたしかに大きく変わった。残り20分、日本は選手を入れ替えても勢いを取り戻すことはできず、逆にイングランドのプレッシャーを受けて2トライを献上。結局、4トライ以上のボーナスポイントも与える内容でノーサイドとなった。

「プレーのひとつひとつの判断、精度、クオリティなど(の差で)、タフなチームに得点につなげられてしまった。もっと研ぎ澄ませていかないといけない」

 試合後、姫野主将は悔しそうな表情を見せて語った。

 キック主体のアタック戦術で、イングランドを驚かせることはできた。しかし結局、トライには結びつかなかった。PGで得点を重ねていくだけでなく、数少ないチャンスでしっかりトライを取りきらないと、奇跡は起こせない。

 ただ、この試合で日本代表としてワールドカップ15試合目の出場となり、トンプソン ルークを抜いて歴代最多となったリーチからは、前向きな言葉も聞けた。

「チャンスボールの使い方、そこをうまく使えば、もっと点数は取れると思う」

【スクラムを制してサモアとアルゼンチンに勝つ】

 日本代表は2戦を終えて1勝1敗。ただ、決勝トーナメントへの道はまだ残されている。9月29日のサモア戦、10月8日のアルゼンチン戦に連勝すれば、予選プールを2位で突破できる可能性は高い。

 この両国ともFWの接点やスクラムが強いチームだけに、イングランドと互角に張り合えたことは日本代表にとって大きな収穫だ。FW陣の自信になったことも間違いない。

「前半はイーブン。うしろの5人がどれだけ押すかを意識した」(堀江)

「8人セームページ(同じ画)で組み、自分たちのスクラムが上がってきたので、自信がどんどんついてきています」(リーチ)

 スクラムの出来に関して、堀江やリーチは語気を強めて主張する。

「残念な結果だったが、選手たちはこの1週間、非常にモチベーション高く、これ以上ないほど努力をしてくれた。ここからまた次のステップが始まる。改善の余地はある。多くのプレッシャーに対処できたことは、次のサモア戦とアルゼンチン戦につながる」(ジョセフHC)

「100パーセント準備ができて、自分たちに期待していたが(負けてしまったので)前を向いて進んでいくしかない。ただ、下を向く時間はない。ワールドカップが終わったわけではない。ロッカールームで少しビールでも飲んで(チーム)前向きにしていこうかな(笑)」(姫野)

 彼らの気持ちは、すでに次へと向いている。