Jリーグでスゴイと思ったDFトップ10 元日本代表・大黒将志が選んだ「アフリカ人みたい」「1シーズン30点分は止めていた」選手たち
Jリーグ通算177ゴールのストライカー、元日本代表の大黒将志さんインタビューの後編。ここでは、自身が対戦したり、これまで見てきたなかで、「これはすごい!」と感じたJリーグの歴代DFトップ10を選んでもらった。
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大黒将志さんが過去の対戦相手やチームメイトからJリーグ歴代DFトップ10を選んだ
10位 冨安健洋(アーセナル)
一応、順位をつけるために10位にはしていますけど、冨安くんは10位の選手ではないですね。アビスパ福岡でデビューした新人の頃に対戦したことがあるんですが、すごく落ちついていて、能力が高いのはすぐにわかりました。
よく覚えているのが、開始3分くらいで冨安くんの背後を取ってGKと1対1の場面になったんです。でもその後すぐにそこを修正していて、賢いなと思いましたね。新人でそこまですぐに対応できる選手なんてそういないですよ。
学習能力がものすごく高いんでしょうね。ミスしてもそれを次に生かして、同じミスをしない。僕が背後を取った時も「ああいう時は、ああやって行かれるんだ」みたいな独り言をぶつぶつ言っていて、すぐに修正していました。瞬時に分析して、次のプレーで実行できる。試合中にものすごいスピードで成長していて、その修正能力はずば抜けていると思います。
そこが、プレミアリーグのアーセナルというビッグクラブでプレーしている理由だと思いますね。プレミアには身体能力が高い選手がゴロゴロいるので、そのなかで生き残っていけるのは、一つひとつのプレーを大事にして向上していく能力がすごいということだと思います。
9位 坪井慶介(元浦和レッズ、湘南ベルマーレ、レノファ山口)
慌てん坊の坪井さんですね(笑)。フィードをミスするんですが、それを自らカバーして足の速さでミスをなかったことにする。そんなのツボさんにしかできないですよ(笑)。背後を取られても、ポジショニングをミスしても、全部スピードで解決しちゃうんですから。とにかく足の速さはすごかったですね。
対戦した時も、僕は裏を取るのが得意なのでそうなるんですけど、ツボさんは絶対に追いついてくるんですよ。だからこっちも「ツボさんなら来るやろうな」と思ってプレーしていましたね。本当に日本人にはあんまりいない、アフリカ人みたいな選手でした。
【サッカーセンスあふれるDFたち】8位 森重真人(FC東京)
森重は本当にうまい選手で、一つひとつのプレーに意味があるし、ボランチをやっていたこともあるくらいなので足元はうまいし、フィードの能力はとくに抜群でしたよね。攻撃の組み立てでは「そこつけるんか」というようなところにパスを通せました。
守備ではとにかく賢いんですよ。FC東京で一緒にプレーした時も、練習で背後を取ろうと思っても、普通なら背後を取れる場面でも森重はちゃんとついて来ていました。そういう時にこっちを見てニヤっと笑うんですよね。「オグリさんわかってるよ」って顔をするんですよ。こっちのやりたいことがよくわかっているんですね。そんな選手は森重くらいでした。
あれで中澤佑二さんくらいの高さがあれば、さらにすごい選手になっていると思いますね。今でもセットプレーの時にヘディングで決めたりしますけど、もう少し高さがあればもっと決めていると思います。森重に足りないところはそれぐらいだと思います。
7位 田中マルクス闘莉王(元浦和レッズ、名古屋グランパスほか)
闘莉王は本当にいい選手で、7位に挙げるような選手ではないですよね。足元の技術が高くて、フィードは正確で、パスセンスも高かった。スペースへ持ち上がることもできるし、サッカーIQが本当に高かったですよね。
あと、ヘディングの強さは攻守にめちゃくちゃ効いていました。センターバック(CB)だけど前線にも上がっていって、点もよく決めていました。初めて対戦したのが、高校3年の頃の国体だったと思います。その時からいい選手で、DFの背後に蹴られた高いボールを胸トラップしてシュートとかしていて、めちゃくちゃうまかった。
ちょっとうるさすぎですけどね(笑)。面白かったのが浦和と対戦した時に、闘莉王がうるさすぎて浦和の選手たちがちょっとうざがっていたこと。それであんまりいいプレーができてない時があって、僕は相手だったので「面白いやつやな」と思って見てました(笑)。
京都サンガF.C.では一緒にプレーしました。年齢は1個下だけど、態度は5個上くらいでしたね(笑)。監督とか年下の言うことは聞かないのに、僕の言うことは聞いてくれて、おもろいやつでした。
6位 栗原勇蔵(元横浜F・マリノス)
勇蔵は男気溢れるジェントルマンですね。おもろいやつだし、先輩、後輩思いなところもあって、人間性が本当にいいやつなんです。あんな強面なのにめちゃくちゃ優しいんですよ。あと酒が弱いのに、よく酒を飲むんですよね(笑)。
DFとしては中澤佑二さんのいい相棒でした。マリノスに移籍してきた当初、CBコンビの強さに驚きました。フィジカルが強くて、スピードもあって、パスセンスもあるんですよ。いいフィードを蹴るので、勇蔵からアシストしてもらったこともあります。サッカーセンスがありましたよね。
【ガンバ大阪に欠かせなかった】5位 宮本恒靖(元ガンバ大阪、ザルツブルク、ヴィッセル神戸)
ツネさんはガンバユースの大先輩で、ユース時代から憧れていました。トップに上がってからもことあるごとにアドバイスをくれて、僕がのらりくらりやっていたら「お前、ちゃんとやらんとあかんぞ」とか、Jリーグで点を取り出したら「オグリ、こんどは代表に入らなあかんぞ」とか、そうやって道標になってくれました。
だから僕もなにかあったらツネさんに相談していました。すごく気配りができて、食事会がある時も隅々まで見ているし、根っからのキャプテンですよね。みんなツネさんの言うことは必ずよく聞いていたし、ありがたい存在でした。
もちろん、DFとしてもラインコントロールがうまくて、ポジショニングは的確だし、読みも鋭いので大事なところをしっかりと潰してくれていました。また、フィードもうまかったので攻撃面でも大事な存在でした。ガンバの攻撃的サッカーには欠かせない人でしたね。
4位 山口智(元ガンバ大阪、ジェフユナイテッド市原ほか)
智さんは1対1が強くて、カバーリング能力も高くて、足元のテクニックもうまかったですよね。セットプレーでもよくゴールを決めてくれていました。
だいたい危ない時は、智さんがカバーしてくれていました。あの頃はシジクレイが右CB、ツネさんが中央、智さんが左CBで3バックをやっていましたけど、智さんは逆サイドのシジクレイのところまでカバーしていました。
当時のガンバは攻撃的なサッカーで2005年にはリーグ優勝していますけど、智さんは攻撃のスタートとしてかなり重要でしたね。あの効率的なサッカーをする上で、智さんから前にいいパスをつけてくれたり、スペースにうまく運んでくれたり、そういうプレーがあってガンバの攻撃はうまく回っていました。
攻撃に人数をかける分後ろはいつも少なくて、守るのは大変だったと思いますけど、そのなかで智さんの攻守の貢献度は本当に大きかったですね。
3位 松田直樹(元横浜F・マリノス、松本山雅FC)
松さんも本当にうまかった。安易にクリアしないんですよ。なんでもパスにして、相手の縦パスをインターセプトして、そのままこっちへの縦パスにできるし、前にスペースがある時はドリブルで運べるんですよね。
代表の時に一緒にやらせてもらいましたけど、ミニゲームでは元FWらしくて足元の技術がめちゃくちゃうまかった。フィードの精度も抜群でしたし、パスをつける場所も抜群でした。
すごく熱い人なんですけど、そのなかにも優しさがあって、人間的にもいい人でした。代表のBチームで一緒に紅白戦をやった時に、Bチームが勝つと「こっちのほうが強いんだよ! こっちのほうがいいサッカーしてんだよ!」とか言うんですよ(笑)。「松さんそんなこと言って大丈夫なんですか」って、本当に面白い人でしたね。
【間違いなく日本歴代ナンバーワン】2位 井原正巳(元横浜F・マリノス、ジュビロ磐田、浦和レッズ)
アジアの壁ですね。昔、小学生の頃にサインをもらったことがあって、それはうれしかった思い出です。選手として対戦させてもらった時は、マリノスではなく、浦和レッズでボランチとかをされていたんですけど、それもうれしかったですね。子どもの頃に憧れていた選手と一緒にプレーできて感動しました。
DFとしては相手の縦パスに対して強く出ていけるし、対人守備もうまかったし、ヘディングの競り合いも強かったですよね。攻撃面でもフィードの精度もすごく高かったと思います。
日本代表でプレーされている時もずっと見ていましたし、井原さんが止める姿はすごく覚えています。僕はFWですけど、井原さんはポジションとかではなく、サッカー選手としてすごく尊敬しているし、憧れていました。
1位 中澤佑二(元横浜F・マリノス、東京ヴェルディほか)
マリノスでも日本代表でも一緒にやらせてもらいましたけど、本当によくブロックしてくれるし、止めてくれるので、マリノスの時はだいたい失点はゼロか1なんですよ。だから多少守備をサボっても守ってくれるし、結構サボっていました(笑)。
もちろん、まったく守備をしていなかったわけではないですよ。ある程度パスコースを限定しておけば、あとは佑二さんが止めてくれるので。僕の感覚では1シーズンで30点分くらいは止めてくれていたと思いますね。それくらいの安心感があったし、僕は攻撃に専念させてもらえていました。
練習の時に、ちょっとでもコントロールがずれるとボールを突かれていました。そういうちょっとのミスも逃さない感覚は、佑二さんくらいしかありませんでした。また、対戦相手としてやった時も、クロス対応でニアを消しながらファーも守れるんですよ。それができるのは、佑二さんと闘莉王くらい。
最初はニアを消すようなポジションから、ファーにボールが来てもあの高さでちょっとだけ触れるんですよね。そのちょっとだけでボールの軌道がめちゃ変わるので、それによってシュートが打てなくなるんです。だからあのボンバーヘッドはそのためにあるんじゃないかと思いますね(笑)。
井原さんと並んで、間違いなく、日本歴代ナンバーワンのDFだと思います。
大黒将志
おおぐろ・まさし/1980年5月4日生まれ。大阪府豊中市出身。ジュニア時代からガンバ大阪の育成組織でプレーし、1999年にトップチームに昇格。ストライカーとして頭角を現し、2004年は得点ランク2位の20ゴール(日本人最高)、2005年はJ1初優勝に貢献。同年は日本代表のW杯予選でも活躍し、翌年のドイツW杯に出場した。2006年からフランスのグルノーブル、イタリアのトリノでプレーした後、2008年にJリーグに復帰。東京ヴェルディ、横浜FC、FC東京、横浜F・マリノス、杭州緑城(中国)、京都サンガF.C.モンテディオ山形、栃木SCに所属しゴールを取り続け、2021年に引退。現在はガンバ大阪のアカデミーコーチを務めている。