9月8日からラグビーワールドカップ2023フランス大会が開幕し、チリ(世界ランク22位)に42ー12で勝利した日本代表(同14位)。ボーナスポイント(4トライ以上取れば勝敗に関係なく与えられるポイント)も獲得し、チームとして理想的なスタートを切った。初戦を欠場した主将FL(フランカー)姫野和樹も17日(日本時間18日4時)のイングランド戦で復帰する見込み。開幕2連勝に向けてさらに期待が高まった。

 前編に続き、熱いトークを展開させたのは日本テレビの笹崎里菜アナウンサーと、忽滑谷(ぬかりや)こころアナウンサー。チリ戦を振り返りながら、FL/NO.8(ナンバーエイト)リーチ マイケル選手のアスリートとしてのすごみ、イングランド戦以降の展望、ラグビー取材歴6年の笹崎アナに自身がやってみたいポジションなどを聞いた。


「日テレ女子アナラグビー部」では笹崎アナウンサーは忽滑谷アナウンサーをSOに指名

◆前編>>笹崎アナと忽滑谷アナが語り合う それぞれの「エモポイント」は?

──忽滑谷さんは、チリ戦ではどんなプレーが印象に残りましたか?

忽滑谷:リーチ選手の、後半13分に奪ったボーナスポイント(4トライ以上取れば勝敗に関係なく与えられるポイント)を確定させるトライが印象深かったです。今後の戦いにおいて、こういった追加の勝ち点一つひとつが重要になってきますし、特に日本より世界ランクの低いチリからは絶対取っておきたかったので、本当に大きなトライだったのではないかと感じています。

 それも15年イングランド大会、19年日本大会でも中心選手だったリーチ選手が決めたというところに、ものすごく感動しました。自分が仕事をするんだという意地と闘志がむき出しになった、人間性が現れたトライだったなと感じていて。なんだか日本チームのいいプレーの要素が、このリーチ選手のトライにすべて詰まっていたんじゃないか、そう思えてなりません。

笹崎:またこの場面は、後半10分にHO(フッカー)堀江翔太選手が交代で入ってきたことが、日本に流れを呼び込めたと思います。直前の後半8分に、CTB(センター)ディラン・ライリー選手がシンビン(イエローカード)で10分間退場。日本が14人になり、同8分にトライも奪われ「ちょっとまずいかな...」という空気が漂いましたが、堀江選手投入直後、得意の速いテンポでの攻撃が復活。リーチ選手のトライにつながりました。この一連の流れを見て、リーチ選手や堀江選手、彼らのようなベテランの存在がいかにチームにとって大事か、というのを改めて実感しました。

忽滑谷:ベテランの中にはきっと、ボロボロの体で戦っている選手もいるはずですよね......。

笹崎:そうだね。だけど、リーチ選手は日本代表として過ごしてきた中で、いまが一番コンディションがいいって言っていました。

忽滑谷:え!? リーチ選手の体はどういうシステムで構築されているんですか?

笹崎:この4年間は満身創痍の状態が続いていたそうで......。19年大会も本当はプレーするのもけっこうキツイ状態で、それでもリーチ選手は戦い続けた。そして新型コロナウイルスが流行し始めた頃から手術をしてラグビーができなくなり、心身ともに落ち込んでいたそうで...。引退を考えた時期もあったといいますが、そこを乗り越えていま再びフィールドに立っている。本人も「ここまでこられたのは奇跡」だと話していました。きっと、再びジャージを着るまでに色々な想いがあったと思います。

忽滑谷:そんなギリギリの状態から、キャリアの中で最高のコンディションにまで引き上げられるなんて......。すごすぎます。

笹崎:メンタルがものすごく強いんだと思います。8月に開催された壮行会の会見でも、ピリッとした空気感だったので他の選手は少し緊張した顔つきでしたけど、その中でリーチ選手はユーモアを交えながら話していました。それが逆にすごいなと。あとはオンオフの切り替えが上手なことも、ひとつの要因。オフの時にはカラオケ、お笑い、ハードワークを大事にしていて、ラグビーから離れることで心を整えられているんじゃないかなと。

──チリ戦はリーチ選手含めたベテラン勢のほか、若手の活躍も光りましたね。

笹崎:今回、最後に追加招集されたFL下川甲嗣選手とLO(ロック)/FLアマト・ファカタヴァ選手がスタメン出場してすばらしい働きをしていました。FL福井翔大選手やCTB長田智希選手も出ていましたし、層の厚さを感じましたね。

 若手選手もベテラン選手も活躍するバランスのいいチームが出来上がったのは、19年大会での活躍があったからこそだと思うんです。SO(スタンドオフ)李承信選手も同大会を大学の寮で見て、心を動かされたひとり。彼のように「あの舞台に自分も立ちたい」と思った当時の学生たちが、今回の日本代表の一員として加入してプレーしているんです。

──ワールドカップでの活躍は、次の世代を作る大きなきっかけになるわけですね。

笹崎:そう思います。それに若い選手たちはみんなメンタルが強くて。初めてのワールドカップで相当なプレッシャーがあるはずなのに、李選手は「それを受けるのが楽しみ」と(笑)。「勢いあるな!」と思います。

──後半終了間際に出場したLOワーナー・ディアンズ選手も、試合後に「楽しかった」と笑顔で言っていました。

笹崎:ワーナー選手、最年少ですよ!?

忽滑谷:21歳とは思えませんね(笑)。

笹崎:身長201センチあるらしいけど、まだ伸びているらしい。

忽滑谷:それでタックルされるのを考えたら...、すごすぎます。

笹崎:彼のようなフィジカルが大きい選手が加わると、攻撃のバリエーションが増えるのでとても楽しみです。ジェイミー・ジョセフHCも「これから、日本代表の未来を担う選手」と話していました。

──今大会での活躍はもちろん、それ以降の日本代表の成長もさらに楽しみです。次戦は強豪イングランドとの対決になりますが、おふたりはこの試合をどのように捉えていますか?

忽滑谷:やはりプールDを勝ち抜くうえで、次戦が最大の正念場になってくると思います。これに勝つか負けるかで、その後のサモア戦、アルゼンチン戦の試合の流れに大きく影響すると思うので。イングランドは、キャプテンのSOオーウェン・ファレル選手とFLトム・カリー選手がレッドカードを受けて出場できない。それがどう影響するのかがポイントかもしれません。

 ただ、逆にそのようなマイナスのシチュエーションが怖いんです。というのも、私、先日のFIBAバスケットボール・ワールドカップ2023をスポーツキャスターとして担当・取材していたのですが、日本代表は八村塁選手の欠場、さらには格上が揃うグループでの戦いと決して余裕ではない条件での戦いでした。でもだからこそ、チームがグッと団結し、そのピンチさえも強さに変えることができ、パリオリンピック出場を決められたのだと思うんです。だから主力を欠いたイングランドも、この状況だからこそよりチーム力が深まって100%以上の力を発揮してくるのではないか、と恐れています。


バスケW杯でもスポーツキャスターとして担当・取材した忽滑谷アナウンサー

──確かに、日本代表も姫野選手を欠いたなかでの内容ある勝利でした。それを踏まえて、どんな試合展開が予想されますか?

笹崎:イングランドは初戦のアルゼンチンとの試合で、SOジョージ・フォード選手が全27得点を、しかもすべてキックで決めていました。おそらく、次戦も同様にPG(ペナルティゴール)やドロップゴールで得点を積み重ねてくると思いますし、ハイボールをたくさん使ってプレッシャーをかけてくると思います。それに対して、日本も対策をしっかりしているそうですし、ペナルティがあれば、ラインアウトからプレーを再開してトライを狙いにいく。そういったまったく正反対のスタイルでのぶつかり合いになったらすごく面白い内容になるのではないでしょうか。

 もちろん、日本としてもキックは重要になるはずですから、チリ戦でコンバージョンキックを100%決めたSO松田力也選手には期待ですね。

忽滑谷:それと、最後のアルゼンチン戦にも注目しています。アルゼンチンはFWの体が大きく、BKの足が速く、全体的にバランスが取れていて、強いチームの典型だと思うんです。イングランドには負けてしまいましたが、日本にとっては同じプール内で最大の壁のひとつであることは間違いありません。ここ数年で日本は決して侮れない相手だと、すでに世界に認知されているはずですから、そのうえで、全力で挑んでくるアルゼンチンに対していまの日本がどう戦い、どう日本ラグビーの強さを証明するのかをすごく楽しみにしています。

──笹崎さんはYouTubeで「日テレ女子アナラグビー部」のHC(ヘッドコーチ)として、女性アナウンサー一人ひとりに相応しいポジションを任命されていますよね。もしご自身が選手側だったら、どのポジションになりますか?

笹崎:んー、とても迷いますね......。最後の砦のFB(フルバック)もいいですけど、やっぱりFLですかね。このポジションは圧倒的に仕事量が多いですし、攻守の要にもなります。それに何より、リーチ選手をリスペクトしているというのと、ピーター・ラブスカフニ選手が大好きなんです。加えてジェイミー・ジョセフHCも現役時代はFLだったというのもありますし。ポジションとしての立ち位置、好きな選手が担っている役割という要素を踏まえて、もしできるのであればFLをやってみたいですね。

──今後、"日テレ女子ラグビー部HC兼FL"という肩書きでよろしいでしょうか。

忽滑谷:仕事量がかなり多い!(笑)

笹崎:私、なんでもやります! BKもやります! WTB(ウイング)レメキ(ロマノ ラヴァ)選手のような感じで。必殺仕事人としてよろしくお願いします(笑)。


「日テレ女子ラグビー部」のHC兼FLに意欲を見せた笹崎アナウンサー

──最後に、日本代表へ応援メッセージをお願いします。

忽滑谷:バスケに続いて、ラグビーもいい流れで開幕したと思うので、ぜひ日本中に希望を与える戦いぶりを見せてほしいです。頑張ってください!

笹崎:今回、選手が目標にしている優勝、私も信じています。選手のみなさんが「僕たちを信じてついてきてください」と言ってくれたので、信じてついていきます。だから、日本代表のことをみんなで信じて応援しましょう!

【プロフィール】

笹崎里菜 ささざき・りな
日本テレビアナウンサー。2015年入社。
2017年からラグビー班に所属。同社のYouTubeチャンネル「日テレスポーツ【公式】」にて公開中の「日テレ女子アナラグビー部」にも出演。現在の担当番組は「スポーツ中継(ラグビー)」、「日テレNEWS」など。

忽滑谷こころ ぬかりや・こころ
日本テレビアナウンサー。2020年入社。
学生時代はラクロスやダンスなど様々なスポーツに打ち込んだ。先日まで開催されていたFIBAバスケットボール・ワールドカップ2023も担当。現在の担当番組は「Going! Sports&News」、「news every.」など。