FCバルセロナの至宝、スペイン代表FWアンス・ファティ(20歳)がプレミアリーグ、ブライトンに期限つき移籍することが発表されている。買い取りオプションはついていない。つまり、帰り道のチケットがついた移籍で、"武者修行"が目的となる。

「クラブの財産」

 バルサのシャビ・エルナンデス監督もそう明言しており、ファティが場数を踏むことで、覚醒することを望んでいる。バルサは2027年6月末までの契約を結んでおり、移籍違約金は10億ユーロ(約1600億円)。手放す気は一切ない。だからこそ、チェルシー、トッテナムなどビッグクラブの好条件のオファーも断り、DFマルク・ククレジャ、MFアレクシス・マック・アリスター、モイセス・カイセドなどを次々と飛躍させているクラブを選んだというわけだ。

 ファティはブライトンで活躍できるのか?

 ファティは、いわゆるシューターである。巧みにマークを外し、ボールを呼び込み、足を振る、単純なその回路で他を圧倒している。動きがあまりにスムーズなだけに、ゴールが簡単に映るほどだ。

「伸び悩み」

 そうとも指摘されるが、19歳で迎えた昨シーズンはカップ戦も含めて10得点を記録している。カタールW杯のスペイン代表メンバーにも選ばれていた。ゴールゲッターとしての天性は格別だ。プレミアで暴れまわるだけの素質はある。

 もっとも、そのポジションは保証されているわけではない。成功のカギは日本代表アタッカーである三笘薫との共存にもあるだろう。


日本代表のドイツ戦に出場した三笘薫。次節はマンチェスター・ユナイテッドと対戦する

 今シーズン、ブライトンでは三笘が世界的なセンセーションを巻き起こしている。ウルヴァーハンプトン戦で5人の相手選手を切り裂いて決めたシュートは、伝説的だろう。ギアがいくつあるのかわからないスピードアップでディフェンスを置き去りにし、シュートでも心憎いほど間合いで落ちつき払っていた。同じレベルの崩しができるアタッカーは、キリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)やヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリード)など、欧州全体でも限られている。

【トップ下に定着できるか】

 三笘はあらゆるコントロール&キックがゴールに結びついていて、トップスピードでも精度が落ちない。ひとりで完全に止められるディフェンダーはおそらくいないだろう。左から遊撃兵のように守備陣を脅かすことで、勝機は生まれる。直近のニューカッスル戦ではギャップで受けてドリブルを始めると、周りのディフェンスをくぎづけにし、エヴァン・ファーガソンのゴールをアシストした。

 つまり、三笘のアシストを受けられたら、ファティもゴールを量産できるということだ。

 もともとファティは勘のよさも含めて、プレースピードに優れたアタッカーである。三笘のリズムにもついていけるだろう。ワンツーやフリックなど瞬間のひらめきで、お互い触発し合えるはずだ。

 懸案はポジションにあるだろう。

 バルサではユース時代、ファティはクラブ伝統の4−3−3で左アタッカーを担当していた。トップに入ることもあったが、サイドからのゴールパターンを得意とした。これはバルサFWでは特別なことではなく、同じ下部組織のボージャン・クルキッチ、ムニル・エル・ハダディも前線だったらこれというポジションはないに等しかった。トップチームでもダビド・ビジャは左FWだった。

 しかし、ファティはトップチームで、ケガやライバルの存在もあったにせよ、居場所を見つけられていない。左アタッカーには基本的に崩し役になるウィンガーか、ガビのように戦える選手が重く用いられた。トップではロベルト・レヴァンドフスキのように、ポストプレーやサイドに流れたり中盤に落ちたりする総合的なストライカーが上位だった。

 その点、ブライトンは基本が4−2−3−1で、トップ下のポジションがある。ファティはそこで勝負できるか。

 ファティはラ・リーガでの経験もまだ少なく、プレーテンポが異なるプレミアに適応するのは簡単ではない。言葉の壁もあるし、スペインで実績のある選手でも、当初はプレー強度の高さには面食らう。縦に速く、高さを用いる相手も多く、パワー勝負に適応する必要もあるだろう。