ラグビーワールドカップ
バトンを継ぐ者たちへ〜日本代表OBインタビュー
第3回・真壁伸弥 後編
前編を読む>>元ラグビー日本代表・真壁伸弥が明かす強豪・南アに勝利した要因と現在の日本代表へのエール


2019年に現役を引退。ユーモアあふれるブログ「Maka Sampo」が人気。

──日本代表のワールドカップ登録メンバーを見て感じたことをお願いします。

「リーチ(FL/NO8リーチ マイケル)や堀江さん(HO堀江翔太)といった歴史を知るベテランが選ばれたことはポジティブにとらえています。他にも2019年大会で結果を残したメンバーもいて、そこに若手の選手も入ってきたので、バランスがとれているいいチームになっています。FWに関しては、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が本当に信頼を置いている選手で固めたな、という印象を受けますね」

──真壁さんがプレーしたポジション、LO(ロック)には今回のメンバー選考の前後から負傷者、または負傷していたものの復帰しつつある選手が多く含まれています。

「そこですよね。私としてもケガは非常に気になるところです。また、これはあくまで個人的な意見ですが、もっと仕事人のようなLOが欲しかったなと感じています。たとえば大野均さん(元日本代表)のような運動量で勝負するLOを入れてくれてもよかったのでは、と思ってしまいました」

──当然ながら真壁さんはLOの重要性を十二分に理解されています。

「今回の相手、イングランドとサモアは特にそうなのですが、セットピース(主にスクラムとラインアウト)が非常に重要です。特にフィジカルで勝負してきて、相手をしっかり潰そうとしてくるイングランドには、それに対して真っ向勝負できる人間が揃わないと厳しいのでは、と思っています」

──8月までに関しては、日本代表はスクラムとラインアウトの安定感が今ひとつというのが正直なところでした。

「パシフィック・ネーションズシリーズ(7月のサモア戦、トンガ戦、8月のフィジー戦)は各ポジションにケガ人が多く出ていたことによってタイトなゲームが多くなったと感じています。代表資格のルール変更で元ニュージーランド代表選手などがサモアやトンガの代表になったのも苦戦した一因でしょう」

──日本代表33選手の中で、真壁さんが今大会で特に注目、または期待されている選手をFW(フォワード)、BK(バックス)それぞれお願いします。

「FWはPR(プロップ)垣永真之介選手ですね。彼とは代表でもサントリーでも一緒にやってきて、ワールドカップは惜しいところで落選していたのですが、今回は再び日本代表に、しかもワールドカップメンバーに選ばれたので、個人的にも応援しています。同じテストマッチでも大会前の試合と大会中の試合はまったくの別物です。彼もワールドカップの試合に出れば人生が変わると思いますし、ぜひその景色を見てもらいたいです。

 BKはSO(スタンドオフ)松田力也選手ですね。FWを動かして前に出させる、というところでもSOの活躍は欠かせませんので、やはりSOは重要です。ワールドカップ前のテストマッチではSO李承信選手が1本目(ファーストチョイス)になることが多かったのですが、ここぞという試合では2019年大会を経験している松田選手が個人的には一番いいのではないかと思っています」

──ハーフ団に関して、大会前はSH(スクラムハーフ)齋藤直人選手とSO李選手の若手ハーフ団の起用が目立ちましたが、大会本番ではSH流大選手とSO松田選手の組み合わせになることも十分考えられます。

「僕もまさにその組み合わせがいいのではないかと思います。そのコンビではないとしても、どちらかのベテラン(SH流、SO松田)をミックスさせた組み合わせにしたいところですね。もちろんSH齋藤選手もスキルの高いすばらしい選手なのですが、SH流選手の方が裏(のスぺース)や選手の行動など状況をよく見ていますので、僕は流選手の方がいいと思っています」

──東京サンゴリアスでは齋藤選手が先発し、流選手はリザーブに回る機会が増えています。

「あくまで僕個人の考えですが、齋藤選手のスキルは極めて高く、最初からやろうとしたミッションを遂行する力は群を抜いています。チームとしてこれをやろう、という時にそれにしっかりとコミットできるので、重宝されているわけです。

 流選手が後半から出てくることが多いのは、これも僕の考えですが、全体を見渡して『どうやったら勝てるか』という判断ができる、つまり状況に応じて柔軟に対処できる選手だからです。周りの選手の特徴を肌で感じて理解しながらプレーしています。それってすごく大事なことなんです」

──そういう意味ではこれまでの経験値も大事になる大会になりそうです。

「今大会は前回の日本大会と違ってアウェー(国外)です。もちろん実際に現地でやってみないとわからないことですが、やはり経験値が必要な大会になるでしょう」

──2019年大会はホームという地の利を生かして日本代表史上最高の8強、決勝トーナメント進出という結果を残すことができました。

「日本開催でしたから、何としても大会を成功させるという強い思いがバックグラウンドにあったので、勝つという目的意識が自ずと芽生えていたと思うのですが、今回のフランス大会は何のために戦うのか、それを選手一人ひとりがどう考えているかがさらに重要になってくると思います。

 ラグビーワールドカップはメンタルの勝負だと僕は思っています。そこで一番大事なのは、繰り返しになりますが"何のためにやるのか"に尽きます。日本大会はそれ自体が勝つ目的になっていましたが、今回の2023年大会は何のために勝つのか、今はまだ外から見ている限りそれがわかりづらいというのが率直な思いです」

──前回大会以上の結果を残せるかどうか期待と不安が入り混じりますが、真壁さんはどのような結果になると考えていますか?

「前回と同じベスト8入りを期待しています。ただ、最近は危険なタックルが厳しく取り締まられるようになり、大会前には日本代表やイングランドにもレッドカードが出ました。カードが出ると日本は相当不利になりますので、気がかりですね。サモアのような大きい相手に対しては懐にタックルに入るのに勇気がいりますし、そのためには慣れや経験も必要です」

──最後に今の代表への期待、メッセージをお願いします。

「今はいろいろな国から"ジャパンは強い"と見られていて、ターゲットにされています。ですからそれ相応のメンタルと体の準備が不可欠です。それが相手への礼儀であり、必要になってくることだと思っています。代表に選ばれていることは本当に名誉なことで誇りに思えることですから、思いっきりワールドカップを楽しんでもらいたいです。

 ワールドカップはメンタルの勝負、と言いましたが、自信がなかったらワールドカップではプレーできません。日々やってきたトレーニングが自信を作り上げてくれるので、今大会もそのようなメンタルで臨んでほしいと思います」

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 日本代表は今回のワールドカップの前のテストマッチで1勝5敗と思うような結果が残せなかったこともあり、真壁さんからは厳しい意見も飛び出したが、自身の経験を踏まえたアドバイスも忘れなかった。初戦を白星で飾った日本代表の快進撃を、前回大会以上に期待している。

【profile】
真壁 伸弥(まかべ・しんや)
1987年3月26日生まれ、宮城県仙台市出身。現役時代のポジションはLO。仙台工業高校でラグビーを始め、恵まれたサイズを活かして高2でU17東北代表に選出。その後U19日本代表にも選ばれキャプテンも務めた。中央大学でも活躍しサントリー(現、東京サンゴリアス)に加入すると、主力として、またキャプテンとしてチームを牽引。トップリーグ4回、日本選手権5回の優勝に貢献した。2009年に日本代表デビューし、2015年のラグビーワールドカップに出場。南アフリカ戦を含む3勝の立役者のひとりに。スーパーラグビーのサンウルブズでもタフな働きを見せた。2019年11月、現役引退を表明。日本代表37キャップ。現在はサントリーの社員、東京サンゴリアスのパートナーシップ、解説者、ウイスキープロフェッショナルなど様々な立場で活躍中。