50代は、定年退職を迎えるまでに約10年という期間があります。この期間を有効活用し、老後資金を集中的に準備していきたいものです。しかし、定年までの時間が短いからといって、ただお金を貯めていくだけでは、この貴重な期間を充分に生かすことはできません。

そこで50代の方も、来年から始まる「新NISA」を老後資金の準備に活用してみましょう。今回は、50代が新NISAを使う場合の活用方法や注意点を解説します。今から運用を始めた場合の資産額のシミュレーションもご紹介しますので、制度を利用する際の参考にしてください。

50代が新NISAを始めたら、定年までにいくら貯められる?

■新NISAの仕組みや特徴とは

通常、株式や投資信託などの金融商品に投資すると、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して、約20%の税金がかかります。NISAは、NISA口座内において、毎年一定金額の範囲内でこうした金融商品を購入すると、そこから得られる利益が非課税になるという仕組みです。

NISAには、いわゆる「一般NISA」のほか、「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3つの種類があります。それぞれのNISAは、年間に購入できる金額と非課税で保有できる期間が異なり、以下のように決まっています。

・一般NISA…株式や投資信託等を年間120万円まで、最大5年間

・つみたてNISA…一定の投資信託を年間40万円まで、最大20年間

・ジュニアNISA…株式や投資信託等を年間80万円まで、最大5年間

なお、現行のNISAは制度が終了するため、新規口座開設は2023年までです。

そして、2024年1月からは、現行のNISAがバージョンアップした「新NISA」がスタート。新NISAは、以下のような特徴を持つ制度です。

まず、新NISAには「つみたて投資枠」と「成長投資枠」が新設されます。つみたて投資枠は現行のつみたてNISAにあたり、成長投資枠は現行の一般NISAにあたるものです。また、現行のNISAではつみたてNISAと一般NISAは併用不可となっていましたが、新NISAでは、つみたて投資枠と成長投資枠を同時に使うことができます。

そして、新NISAでは年間投資枠が拡大します。つみたて投資枠は年間120万円まで、成長投資枠は年間240万円まで、合計で年間360万円まで非課税で投資できるようになります。

さらに、新NISAでは1,800万円の「生涯投資上限額」が設定されます。上限額まで投資したとしても、NISA口座内で購入した金融商品を途中で売却すれば、その分の枠が復活して再利用することもできます。

そのほかにも、制度が恒久化するため期限を気にせず始められるようになること、非課税保有期間が無期限化して課税口座への移行や「ロールオーバー」のような手続きをしなくて済むことも新NISAの大きな特徴です。

■50代が新NISAを運用するメリットとおすすめの活用方法

50代になると、子どもの独立や学費に目途がつく時期を迎えます。家計に余裕ができ、まとまった資金を投資に回せる家庭も多いでしょう。

投資は早い時期から始めて時間を味方につけたほうが有利ですが、比較的多くの投資資金を用意できる50代は定年までのラストスパートがかけられるため、新NISAを運用するメリットは充分にあります。

50代の方が定年までの10年間で、新NISAの「生涯投資上限額1,800万円」を使い切ろうとするなら、年間の積立金額は180万円、月々の積立金額は15万円になります。

年間の積立金額が180万円ということは、つみたて投資枠の年間投資枠である120万円を超えてしまいますが、積立投資をメインにしたい場合でも問題はありません。つみたて投資枠だけでなく、成長投資枠でも積立投資は可能だからです。

毎月15万円を積み立てるためには、「つみたて投資枠10万円+成長投資枠5万円」のように両方の枠を使っていきましょう。

では、50代は、具体的にはどのように新NISAを運用すればいいのでしょうか。

まず、40代と同じように、50代の方にも複数種類の資産に投資する「バランス型ファンド」の購入をおすすめします。バランス型ファンドとは、投資対象が株式や債券など複数の資産に分散され、投資エリアも複数の国に分かれている商品です。

また、「個別株にもチャレンジしてみたい」という場合は、つみたて投資枠で安定的に運用しながら、成長投資枠で多少のリスクを取りつつ個別株の投資に挑戦することもできます。

基本的にはどちらの枠でも投資信託の積立購入をおすすめしますが、ご自身の投資に対する考え方に合わせて投資対象を選んでみるといいでしょう。

■50代が新NISAを使うときの注意点

50代の方が新NISAを始める場合、若い年代よりは投資できる期間が短くなります。そのため、つみたて投資枠だけでなく成長投資枠も充分活用し、定年までや退職金の運用で非課税枠を使い切るプランを意識しましょう。

ただし、成長投資枠で個別株に投資したいと考える場合は、注意したい点もあります。それは、個別株は銘柄によって株価が大きく変動するうえ、企業業績や売買タイミングを見極めなければならないため、ある程度の知識が必要ということです。

ですので、これまでに個別株の投資経験がなく自信がない人は、成長投資枠でも投資信託を積立購入してみましょう。

また、老後資金の準備に力を入れるなら、iDeCo(イデコ)との併用も考えましょう。iDeCoは「個人型確定拠出年金」の愛称で、公的年金に上乗せして資金を積み立てられる私的年金制度です。

iDeCoにもNISAと同じく、税制優遇が適用されます。新NISAの税制優遇が運用時のみなのに対し、iDeCoでは運用時のみならず、掛金の拠出時、年金や一時金の受取時の税金もお得になります。新NISAとiDeCoを併用するなら、それぞれ性質の異なる資産を運用し、分散投資するのがいいでしょう。

ただし、iDeCoは老後資金をつくる制度であり、原則として途中解約できず、60歳まで資金の引き出しはできません。新NISAとiDeCoの特徴やメリット、デメリットをよく理解し、そのうえで上手に活用していきましょう。

■50代から新NISAを始めるといくらになる?

では、50代の方が新NISAを活用して投資を始めると、将来的にはどのくらいの資産額が見込めるのでしょうか。

10年間、年利3%で積み立てしたらいくらになる?

ここでは、55歳から65歳までの10年間、年利3%で(1)毎月10万円積み立てた場合、(2)毎月15万円積み立てた場合の2パターンのシミュレーション結果をご紹介します。

(1)55歳から65歳までの10年間、年利3%で毎月10万円積み立てた場合

10年間で積み立てた投資元本は「10万円×12ヶ月×10年間」で合計1,200万円、運用益は194万4,800円、10年後の積立資産額は1,394万4,800円という結果になりました。

若い年代の人と比べれば投資できる期間は短くなりますが、シミュレーションの結果によれば、10年間の積立でも200万円弱の運用益を得ることができます。

投資できる金額は人それぞれですが、できる範囲で最大限の準備をしていきたいですね。

(2)55歳から65歳までの10年間、年利3%で毎月15万円積み立てた場合

10年間で積み立てた投資元本は「15万円×12ヶ月×10年間」で合計1,800万円、運用益は291万7,199円、10年後の積立資産額は2,091万7,199円となりました。

毎月15万円は決して小さな積立額ではありませんが、10年継続できれば、300万円弱もの運用益が得られ、2,000万円以上の資金を貯めることができます。

なお、ご紹介した金額はあくまでもシミュレーションであり、実際の運用では、必ずしも同じ結果が得られるわけではない点にご注意ください。

■よりよい老後生活に向けて、新NISAを活用しよう

定年退職が見えてきた50代でも、老後資金の準備はまだ間に合います。定年までの貴重な10年間を目いっぱい活用し、よりよい老後生活のため新NISAで資金形成していきましょう。また、老後を迎えたら、資金をできるだけ長持ちさせるため、運用しながら資産を取り崩すことも大切です。

武藤貴子 ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント 会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中 この著者の記事一覧はこちら