「戦車がロシア製?うちの国のいかがですか!」 世界で進む兵器の「脱ロシア化」波に乗る国 乗れるか日本?
ウクライナに旧ソ連製やロシア製の兵器を供与し、これにより自国の兵器を一気に入れ替えて近代化を図る動きが、ひとつのトレンドになっています。この波に乗って売り込みも活発化。では、輸出実績を作りたい日本はどうでしょうか。
イスラエル戦車で「脱ロシア兵器」なるか?
2023年6月15日付のイスラエルの新聞「ザ・タイムズ・オブ・イスラエル」は、同国政府がキプロス共和国、モロッコ王国両政府との間で、自国開発した戦車「メルカバ」の輸出に向けた交渉を行っていると報じました。実現すればメルカバの国外輸出は初となります。
イスラエルの戦車メルカバMk.4。ただ輸出されるとすれば、これより旧式のメルカバになる見込み(画像:イスラエル国防省)。
「ザ・タイムズ・オブ・イスラエル」など複数のメディアに対してイスラエル国防省のヤイール・コレス氏が述べたところによれば、キプロスとモロッコに対する輸出交渉が行われているのは現在イスラエル国防軍が運用している最新仕様のメルカバMk.4ではなく、国防軍が予備保管状態に置いている1世代前のメルカバMk.3と、2世代前のメルカバMk.2だそうです。
キプロスは1990年代初頭にロシアからT-80U戦車を27両導入しています。2023年7月現在、どれだけのT-80Uが戦力として機能しているのかは不明ですが、「ザ・タイムズ・オブ・イスラエル」など複数のメディアは、ウクライナ軍も使いなれているT-80Uをウクライナに供与し、その補充戦力としてメルカバの購入を検討していると報じています。
果たして本当にキプロスがメルカバを導入するのかはいまだ不透明ではあるものの、これは兵器マーケットにおける“トレンド”に乗るものといえます。それは兵器の「脱ロシア」化です。
旧東側陣営に所属していた時代に導入した旧ソ連製兵器や、東西冷戦の終結後、特に関係は深くはなかったものの、旧西側陣営の兵器に比べて安価であったため購入されたロシア製兵器は、多くの国にあります。それらをウクライナに供与し、その補充としてロシア以外の国から兵器を購入しようとする動きが活発になっているのです。
ただ、兵器の「脱ロシア」化を進めている国々も事情は様々です。冷戦時代には旧ソ連を盟主とする軍事同盟「ワルシャワ条約機構」に加盟していたものの、冷戦終結後はアメリカを盟主とするNATO(北大西洋条約機構)に加盟した東ヨーロッパ諸国は予算が乏しく、NATO加盟後も冷戦時代に旧ソ連から供与された兵器に改修を加えて、主力として使用してきました。
「ロシア製兵器を引き取ります」のドイツ 一気に“爆買い”のポーランド
ドイツは2022年から、旧ソ連(ロシア)製兵器を引き取ってウクライナへ供与し、旧ソ連(ロシア)製兵器をドイツに引き渡した国に代償としてドイツ製の兵器を引き渡す「指輪の交換」と呼ばれるプログラムを開始しています。
「指輪の交換」は当時のドイツが政治的な理由から、直接ウクライナに自国の兵器を供与することが困難であったことから生まれた苦肉の策です。しかし、老朽化したT-72戦車をウクライナに供与する代償としてドイツからレオパルト2A4戦車14両を入手し、新型のレオパルト2A7の購入交渉権も得たチェコのように、東ヨーロッパ諸国の中にはこのプログラムをうまく利用して、急速かつ安価に自国軍の兵器の「脱ロシア」を達成した国も出現しています。
同じ東ヨーロッパのポーランドは、2022年に韓国からK2戦車980両、K9自走砲648門、FA-50戦闘機 48機を“爆買い”しています。
韓国製の兵器はNATO基準に準拠している上、欧米の同等の製品に比べて安価で納期も早いことから、ポーランドはこれらを利用して、ドイツとの「指輪の交換」をあてにせず「脱ロシア」を図っています。
防衛装備品の「脱ロシア」を進めているポーランドが韓国から導入したFA-50GF軽戦闘機(画像:KAI)。
兵器マーケットにおける「脱ロシア」の動きはアジアにも広がりつつあります。
インドはアジア太平洋地域の中でもロシア製兵器への依存度が高い国の一つですが、同国のナレンドラ・モディ首相は2023年2月に、従前から進めていた兵器の国産化をさらに推進して、ロシアだけではなく、外国製兵器への依存からの脱却を図る方針を示しています。
日本も「脱ロシア」の波に乗れるか?
他方、ベトナムもインドと同様、ロシア製兵器への依存度が高い国の一つですが、同国はインドほど兵器の国産化が進んでいません。
ベトナムの首都ハノイで2022年12月に開催された防衛装備展示会「VIDEX」の開幕式でファム・ミン・チン首相は「安全保障上の課題に対応するため、兵器の調達チャンネルの多様化や外国の技術の導入を進めていく」と明言しました。
ロシアとの関係を断絶するつもりはないものの、これまでベトナム人民軍が兵器を調達してこなかった欧米諸国などのメーカーからの兵器の調達や、共同開発などにも積極的に取り組んでいく――という意向を示しています。
ベトナム人民陸軍の主力戦車T-90SK。同戦車を含めてベトナム人民軍の装備にはロシア製のものが多いが、ベトナム政府は装備の調達先の多様化などを模索している(竹内 修撮影)。
筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)はVIDEXを取材しましたが、ロシアで兵器の輸出などを手がけるロスオボロンエクスポルトのパビリオンが、外側に数点の小型無人機や模型を展示して招待客以外立ち入り禁止となっていたのに対し、豊富な展示品を持ち込んだインドや、趣向を凝らした展示を行った日本の防衛装備庁のパビリオンには、ベトナム軍関係者を含めて多数の来場者が訪れていました。
日本の防衛装備品の輸出は防衛装備移転三原則の制約や経験不足もあって、今のところ低調ですが、全世界的な「脱ロシア」の流れを利用すれば、商機を拡大できる……かもしれません。