フランス軍機なぜ“飛んで埼玉”入り? 目的地は入間じゃなくて「所沢」か トム・クルーズもしがみついたA400M
2023年7月下旬に初めて来日したフランス空軍機が、埼玉県の空にも姿見せました。筆者は入間基地で並んだ日仏両国の輸送機を見比べているうちに、以前聞いたA400Mのトリビアも思い出したそうです。
埼玉・所沢の空を飛んだ日仏の大型機
2023年7月28日、埼玉県にある航空自衛隊入間基地にフランス空軍(正式名称フランス航空宇宙軍)の主力輸送機A400Mがやってきました。この機体は、7月26日から29日にかけてフランス空軍が航空自衛隊と行っていた「日仏共同訓練」に参加するために来日したもので、フランス空軍の主力戦闘機「ラファール」2機や、空中給油・輸送機A330MRTTとともに宮崎県の新田原基地に展開していました。
なぜ宮崎県から埼玉県へと飛んできたのか。そこには入間基地の近傍、埼玉県所沢市にある所沢航空記念公園で行われていたイベントが関係しています。
入間基地に並ぶC-2輸送機(手前)とA400M輸送機(布留川 司撮影)。
所沢航空記念公園は、今から100年以上前の1911年に日本初の飛行場として開設された所沢飛行場の跡地に造られた公園です。ここは「日本の航空発祥の地」といえる場所ですが、当時、日本で飛行機に関する技術育成に深く関わっていたのが、フランスでした。1919年には日本が招へいする形でフランス航空教育団が来日。それを記念し、当時団を率いていたフォール大佐の胸像が今も公園内に設置されています。
こういった経緯から、「日仏共同訓練」の一環で上空通過飛行が行われ、日仏両国の友好関係をアピールしたそうです。
こうして、所沢市の上空を飛んだA400Mは、ともに飛行した航空自衛隊のC-2輸送機とともに入間基地へ着陸しました。同基地では日本とフランスの主力輸送機が翼を並べることになり、その様子は報道陣にも公開されました。C-2とA400Mを同時に見られる機会は非常に貴重だといえます。
入間基地のエプロンに並べられたC-2とA400M。最初に目に付くのは両機の色です。前者は水色と薄いグレーを基調とした制空迷彩ですが、後者は軍用機らしい濃いグレー系塗装の単色カラーリングで、迷彩にはなっていません。
サイズはほぼ一緒 でもA400Mならではの凝ったところも
C-2とA400M、両機とも軍用輸送機としては定番の形となっており、遠目から見れば全体的なフォルムは共通点が多いです。主翼は胴体上部に配置された高翼機で、尾部も水平翼が垂直尾翼上部に付いたT字翼です。
機体サイズも近似しており、全長×全幅×全高で比べるとC-2が43.9m×44.1m×14.2mなのに対して、A400Mは45.1m×42.4m×14.7mです。多少の差異はありますが、機体規模的にはほぼ同じなのがわかるでしょう。
入間基地に並ぶ日仏の輸送機。向かって左が航空自衛隊のC-2輸送機、右がフランス航空宇宙軍のA400M輸送機。エンジン構造こそ違うものの、サイズ的にはほぼ一緒(画像:フランス航空宇宙軍)。
輸送機としてもっとも重要な最大積載重量は、スペック値になりますが、C-2が36tでA400Mが37t(両方ともプロモーション映像から引用)。こちらも近い数字となっています。
ただ、両機で一番異なるのは航空機としての推進方式で、C-2ではターボファンエンジン2基なのに対して、A400Mはターボプロップエンジン4基です。これは外観上でも両機を見分ける上で一番の特徴ともいえます。
A400Mのプロペラは1基につき羽根が8枚あり、それぞれが湾曲して効率化と騒音低減の効果がある「シミタープロペラ」となっています。航空自衛隊にもターボプロップエンジン搭載の輸送機として、C-130「ハーキュリーズ」があります。しかし、A400Mの特徴といえるのが、4基のエンジンの内、2基が逆回転で回っている点でしょう。これはエンジンの回転で発生する反力を交互に回転させることで打ち消す効果があるそうで、なおかつこれにより騒音低減や機体サイズの小型化にも貢献しているそうです。
「映画とは違うんだよ」フランス軍人がトビラ開閉を実演
ちなみに、A400Mはある映画に出演したことで有名となりました。それが2015年に公開されたトム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』です。
この映画では、トム・クルーズ演じる主人公「イーサン」が、滑走するA400Mの側面の空挺扉の風除けにしがみつき、そのまま離陸するというシーンがあります。トム・クルーズはこのシーンの撮影でスタントマンを使わずに自ら行い、なんと実際にA400Mの機体側面にしがみついて空を飛んだのです。
劇中では、イーサンの仲間が飛行中のA400Mにハッキングを仕掛けて、遠隔操作で空挺扉を開くことに成功。イーサンは機内に侵入することに成功します。しかし、撮影ではトム・クルーズは離陸から着陸まで機体左側面で過ごし、強烈な風圧に耐えて生還しています。
入間基地に飛来したフランス空軍のA400M輸送機。共同訓練では航空自衛隊のC-2輸送機との合同飛行も行われた(布留川 司撮影)。
筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は過去、アメリカに滞在していた際にエアショーで展示されていたフランス空軍A400Mで、前出の『ミッション:インポッシブル』の登場シーンについて聞いたことがあります。
そこに居たA400Mのクルーに「トム・クルーズの乗った輸送機だよね」と聞いてみると、最初は「その質問、何度目だ……」といった感じで苦笑いしていましたが、やがて「映画とは違う本当の事を教えてあげよう」と筆者を機内に招き入れてくれました。
そして、トム・クルーズが撮影でぶら下がった左側の空挺扉の前に行くと、「あの映画では仲間がハッキングして、スイッチひとつでこの扉が開いたよね?」というと、空挺扉を力いっぱいに持ち上げて「この扉は人力でしか開かないんだ!」と笑いながら教えてくれました。
ちなみにそのクルー曰く、劇中で描かれたようなハッキングで機体を制御するのは「無理だろう」とのこと。今回の入間基地での取材では、残念ながらフランス空軍の隊員を含むA400Mの関係者と話す機会はありませんでしたが、間近で同機を再び目にして思わず前述のエアショーでのやり取りを思い出してしまいました。
こうして、再び出会うことができたフランス空軍のA400Mも、冒頭に記したように一緒に来日した戦闘機「ラファール」2機や空中給油・輸送機A330MRTTとともに29日には日本を離れています。
次にフランス空軍の戦闘機や輸送機が来日するのはいつになるのか。昨今の国際情勢を鑑みると、ひょっとしたら案外日数を置かずして再び見られるかもしれません。