日本最西端の与那国島に続いて太平洋上の北大東島にも配置が計画されている航空自衛隊の移動式レーダーサイト。展開部隊が保有する各種装備はどんなものでしょうか。なかにはキャンピングカーみたいなクルマもありました。

全国に4つしかないレア部隊

 中国の海洋進出が拡大するなか、防衛省は従来レーダーサイトがなかった、いわゆる「警戒監視の空白域」といえるエリアをカバーしようと、沖縄県の端や小笠原諸島に航空自衛隊の移動式警戒レーダーを配置しようと動いています。

 特に、中国や台湾とそれほど離れていない沖縄県では急ピッチでその動きが進められており、台湾に最も近い日本最西端の島、与那国島には2022年3月末から移動式警戒レーダーを装備した部隊「第53警戒隊与那国分遣班」が常駐するようになっています。

 このような流れの中、防衛省は次のステップとして、沖縄本島から東へ約360kmの太平洋上に位置する北大東島に、与那国島と同じく移動式警戒レーダーを展開させようとしています。

 これら離島に配置される移動式警戒レーダーとはどんなものなのでしょうか。以前、取材したので改めて振り返ってみましょう。


航空自衛隊入間基地に所在する第2移動警戒隊のJ/TPS-102Aの空中線装置(柘植優介撮影)。

 取材したのは、埼玉県の航空自衛隊入間基地に所在する第2移動警戒隊です。航空自衛隊は全国を4つのエリアに分け、北から北部、中部、西部、南西の各航空方面隊を置いています。

 各々の航空方面隊には、1つずつ「航空警戒管制団」と呼ばれるレーダーサイトや防空指令所(DC)の管理運営を担い、なおかつそれらを用いて要撃管制を実施する部隊が編成されています。この航空警戒管制団の隷下にある「移動警戒隊」という部隊が、取材した移動式警戒レーダーを運用する専門部隊になります。

 ちなみに部隊番号は北から順番に振られており、北部航空方面隊には第1移動警戒隊が、西部航空方面隊には第3移動警戒隊が、そして南西航空方面隊には第4移動警戒隊がそれぞれ編成されています。

最初から長期展開を想定

 第2移動警戒隊の主要装備は「J/TPS-102A」という移動式3次元レーダー装置です。アンテナ部である「空中線装置」だけを見ると、巨大な円柱を乗せたトラックのように思えますが、システムはこのほかに航跡データなどを処理する「監視処理装置」、そして空中線装置や監視処理装置に電力を供給するための「発電機」、この3つで構成されています。

 アンテナである空中線装置は、F-2戦闘機の機首レーダーなどにも採用されているフェーズド・アレイ方式のレーダーシステムを搭載しているのが特徴で、周囲に配置されているアンテナ素子から照射される電子ビームの走査方向を変えることで回転しなくとも全周索敵が可能です。

 第2移動警戒隊では、前出のJ/TPS-102Aを始めとした各種車両を必要な場所に展開させ、地上から既存のレーダーサイトのバックアップをしますが、実はそのバックアップは有事に限らず常日頃から行われているとのことでした。


航空自衛隊第2移動警戒隊に配備されている先導車(手前)。市販のトヨタ製SUV「ランドクルーザー」に所要の艤装を施したもので、人員輸送などにも使用するとのこと(柘植優介撮影)。

 隊員の説明によると、全国にあるレーダーサイトも定期的にメンテナンスが行われているとのこと。そのとき止むを得ずレーダーを停止させることがありますが、そうなると監視に穴が開いてしまうため、代わりに移動警戒隊のJ/TPS-102Aなどが展開して警戒網をカバーするそうです。

 ほかにもレドームの建て替えや、レーダーシステムを新しいものに更新する際も一時的にレーダーを止める必要があるため派遣されるとか。その場合は長期間の展開になりますが、展開場所によっては水や電気、通信インフラなどない場合が想定されることから、移動警戒隊は「自活車」と呼ばれる車両も保有しています。

 自活車は、いうなればキャンピングカーのようなものです。内部は寝台列車のようなつくりで、上下2段のベッド計6床のほかにシャワールームやトイレなどを備え、流しや冷蔵庫、エアコンやテレビも設置されていました。

北大東島だけでなく小笠原・父島にも計画

 また、第2移動警戒隊にはトヨタ・ランドクルーザーをベースにした「先導車」なる車両もありました。こちらはJ/TPS-102Aなどが展開する際、それら車両を先導するために用いるものです。なお、市販車を転用した支援車両であるため、日常の連絡業務や人員輸送などにも多用するそうです。

 ルーフ上部にはお椀をひっくり返したような半円形のものがありますが、これは衛星通信装置とのこと。携帯電話だけでなく既存の無線なども通じない場所においても通信を確保するために装備しているとのハナシでした。


第2移動警戒隊が装備するJ/TPS-102Aの監視処理装置(左奥)と発電機(右手前)。空中線装置と合わせ、この3台で1セット(柘植優介撮影)。

 冒頭に記した北大東島では、2023年7月20日に地元住民を対象にした説明会が開かれています。このとき、防衛省側が行った説明では、島内の村有地計8ヘクタールを取得し、そこに業務並びに居住用の隊舎などを設置。約30名の隊員とともに移動式警戒レーダーを展開させるとのことでした。

 防衛省ではこの北大東島以外にも、太平洋側の「警戒監視の空白域」を埋めるために小笠原諸島の父島にも移動警戒隊を配置しようと計画しています。

 このような情勢を鑑みるに、「自走式レーダーサイト部隊」と形容できる移動警戒隊の重要性は、今後より一層増えることは間違いなさそうです。