イーハンは深圳市内に空飛ぶクルマの組み立て工場やメンテナンス拠点を設置する。写真は開発中の「EH216-S」(同社ウェブサイトより)

中国広東省の深圳市が、「空飛ぶクルマ」の関連産業を集積させる「低高度空域経済圏」の建設に向けて動き出した。同市の宝安区政府は7月13日、空飛ぶクルマの開発を手がける億航智能(イーハン)および峰飛航空科技(オートフライト)の2社と、低高度空域経済分野における提携の覚書を交わした。

宝安区には(華南地区のハブ空港の1つである)深圳宝安国際空港があり、深圳市における航空関連産業の集積地となっている。

空飛ぶクルマとは、一般的には電動モーターでプロペラを駆動し、人を乗せて垂直離着陸が可能な飛行機械を指す。イーハンとオートフライトは、その商用化に向けた取り組みで先行する代表的な中国企業だ。

イーハン、オートフライトが進出

イーハンによれば、同社と宝安区政府はイーハンが開発中の空飛ぶクルマ「EH216-S」の商用運航の実現に向けて協力する。

具体的には、宝安区政府がイーハンに対して、深圳市内での部品調達、(工場や研究開発拠点を建設する際の)ファイナンスやリース、(発着場などの)インフラ建設などについて全面的なサポートを提供する。

それを後ろ楯に、イーハンは宝安区内に空飛ぶクルマの組み立て工場、研究開発センター、メンテナンス・サポート拠点などを設置する計画だ。

もう1社のオートフライトは、(宝安区政府との提携を契機にして)2023年10月に深圳市と(珠江を挟んだ対岸にある)広東省珠海市を結ぶ空飛ぶクルマのテスト運行路線を開設する計画だ。


オートフライトは深圳市と珠海市を結ぶテスト運行路線の開設を計画している(写真は同社ウェブサイトより)

「珠江デルタ地域は経済発展の水準が高く、人口規模も大きいが、珠江下流の(複雑に水路が入り組んだ)水域が地域間の地上交通の妨げになっている。空飛ぶクルマにとっては理想的な営業地域だ」。財新記者の取材に応じたオートフライトの関係者は、そう期待を示した。

耐空証明の取得がハードルに

今回の提携の背景には、深圳市政府が2023年の政府活動報告(施政方針に相当)の中で示した成長戦略がある。同報告は、深圳市に低高度空域経済圏を建設し、関連する製造業や運輸サービスなどを新たな成長産業として育成する方針を初めて打ち出した。

とはいえ、その実現は容易なことではない。空飛ぶクルマの商用運航にあたっては、機体の安全性を証明する耐空証明を航空安全当局から取得することが大前提だ。

中国では、イーハンのEH216-Sがすでに中国民用航空局の審査プロセスに入っており、現時点では商用化に最も近いポジションにある。だが、空飛ぶクルマの審査基準については国際的な共通認識がまだ形成されておらず、耐空証明の発給がいつ頃になるのか予測がつかないのが実情だ。

(財新記者:方祖望)
※原文の配信は7月14日

(財新 Biz&Tech)