子どもたち待望の夏休みですが、つい叱りたくなってしまう場面も……(写真:Fast&Slow/PIXTA)

子どもたちは夏休み真っ最中ですね。親御さんたちにとっては一番大変な時期だと思います。私のもとにも「叱りたくないのに叱ってしまう」という声が届いています。夏休みのみならず、これは子育てをしている親御さんから本当によく聞く言葉です。

感情的に叱って後悔した経験は誰にもあるはずです。自分が積み上げてきた積み木を自分で崩してしまったと感じて、自分にがっかりする人も多いようです。しかも、子どもも落ち込みますし、反発するようにもなります。それで親子関係が悪化したり、子どもの自己肯定感が下がったりもします。

感情的に叱らないための合理的な工夫

このようにならないために、私が提案したいのは合理的な工夫をしましょうということです。つまり、子どもが苦手でできないことについて、叱るのではなく、工夫をしてやりやすいようにしてあげることが大切なのです。

例えば、食事中に食べ物をこぼしてばかりの子どもがいました。親はいつも「なんでこぼすの!」と叱っていましたが、あるとき「本当に、なんでこの子はこぼすのだろう?」と冷静に観察してみました。すると、食器の縁の形に問題があることや子ども用の椅子が高すぎることなど、いくつか原因が見つかりました。そして、そこを改善したらこぼすことが減りました。

これはひとつの例ですが、同じことが他のことでも言えます。子どもにできないことがあるとき、「なんで!」を子どもにぶつけるのではなく、「なんで?」と親自身への冷静な問いかけにしてほしいと思います。そうすれば、原因と解決法が見えてくる可能性が高まります。

実は、よく叱られる子も、叱られる内容の9割は毎日同じだったりします。新しいことで叱られることは意外と少なく、毎日同じ時に同じ所で同じことで叱られます。それは生活の中に“工夫がない”ということも要因のひとつであり、叱る・叱られるのパターンができてしまっているのです。

ですから、叱る前によく観察したり考えたりしてみてください。そして叱らなくてもすむ工夫をしてみましょう。私はこれを「叱らないシステム」と呼んでいます。あといくつか具体例を挙げます。

「叱らないシステム」をつくるには

枕元にペットボトル

A君は毎朝トマトとアサガオに水をやる約束になっていました。でも、忘れがちで叱られていました。親はそこで一計を案じて、水を入れたペットボトルを枕元において寝るようにしました。たったこれだけのことで、朝の水やりが進んでできるようになりました。

“お支度ボード”

やるべきことを順序よく確実にやれるようにするために、効果的なのが“お支度ボード”です。


(写真)ある小学生のきょうだい2人のお支度ボードの実例

例えば、「かおをあらう」「はみがき」「うんち」「きがえ」などのカードを磁石プレートで作り、ホワイトボードに貼ります。できたらひっくり返して貼り、好きなキャラクターのイラストが見られるようにするなど、ちょっとしたお楽しみも用意すると効果的です。

「模擬時計」

時間にルーズな子に効果的なのは、本物のアナログ時計の近くに画用紙で描いた時計の絵「模擬時計」を貼ることです。

Tさんの家では、リビングの時計の横に宿題開始の時刻を指した模擬時計を貼ってあり、「宿題スタート」というタイトルもつけてあります。

Tさんは「模擬時計があることで、宿題を始める時刻が近づいてくると子どもも徐々に心の準備ができるよう、取りかかりが楽になりました」と言っています。この他にも、朝食を食べ終わる時刻・入浴時刻・寝る時刻などの模擬時計を貼ってあるそうです。

朝食前にとりあえず1分

夏休みの宿題を朝食後にやると決めてあるなら、朝食前にとりあえず1分やるようにすると効果的です。

例えば、書き取りをやるなら書き取り帳と漢字ドリルを開いて、1字だけ書いておきます。算数のプリントをやるなら、プリントに名前を書いて1問だけやっておきます。1字書いたり1問やったりするときに、全体量が目に入るので見通しがつきます。

見通しがついてから朝食を食べます。すると、朝食後に本格的に取りかかるときの心理的ハードルがかなり下がります。大人の仕事でもそうですが、見通しがつかないときは必要以上に大変に感じてやる気が出てこないものですが、見通しがついた途端にやる気が出てきます。子どもの宿題も同じです。

スマホアプリで解決できることも

ついでに歯ブラシ

食後の歯磨きを忘れてばかりの子には、親が食事の支度で食器やお箸を出すとき、ついでに歯ブラシも出しておきましょう。これにより食後にやることが見える化されます。たったこれだけのことで、自分から歯を磨けるようになった子がたくさんいます。

「ポケモンスマイル」を活用

ポケモンスマイルというアプリで、楽しく歯磨きできるようになった子もいます。実際に子どもにやらせてみたEさんは次のように言っています。

「このアプリを使い始めてちょうど1年になります。顔が認識されるとキャップが現れ、磨く位置などもガイドしてくれるので1人で歯を磨くトレーニングにとても役立ちました。上手に磨けるとポケモンを捕まえてコレクションすることができ、磨いている間に自動撮影された自分の写真もデコレーションすることができます」

ランドセル裏に「メモ紙」

B君は学校から体育着や上靴を持ち帰るのを忘れがちでした。そこで、それらを持ち帰る日にはランドセルの蓋の内側に「体育着」「上靴」と書いたメモ紙を貼るようにしました。こうしておけば、学校で帰宅の準備をするためにランドセルを開けるときに、必ず目に入ります。これによって持ち帰るのを忘れなくなりました。

以上、いくつか例を挙げました。ぜひ、各家庭のお子さんの実情に応じて「叱らないシステム」をつくってください。私は教師時代にたくさんの親御さんと接してきましたが、自分の仕事では日々いろいろな工夫をしているのに、子育てや教育についてはただ叱ってすませている人が多いと感じました。ぜひ、工夫で乗り越えるという発想をもって実行してほしいと思います。

たとえうまくいかなくても、こうした工夫をすることにはとても大きな教育的な効果があります。

親が工夫する姿勢をみせることで伝わるものがある

1つは、子どもが親に感謝の気持ちを持つということです。叱ってすませることもできたのに、そうしないで自分を助けるためにひと手間かけてスペシャルな工夫をしてくれたのです。子どもはそこに親の愛情を感じますし、それによって親への信頼感が高まります。

2つめは、親の工夫する姿を見ていると、子どもは「何かうまくいかないことがあったときは工夫することが大事だ」と学ぶということです。これは子どもにとって実に大きな学びです。というのも、人生において工夫することは本当に大事だからです。仕事においてもプライベートにおいても、工夫を重ねることでよい結果が出せるようになるのですから。

逆に、親が工夫することなく叱ってすませていると、どうなるでしょう? 子どもはそれを見て「何かうまくいかないことがあったときは、それを理由に相手をとがめればいいのだ」「キレて叱れば相手をコントロールできる」などということを学んでしまいます。

親はこういうことを教えるつもりはなく、自分から宿題をやったり朝顔に水をやったりできるようにしたいという意図で叱ったのです。でも、多くの場合こうした意図した教育は成し遂げられずに、意図せぬ教育が成し遂げられます。なぜなら、親が目の前で見本を見せているからです。私は、こうした意図せぬ教育のことを「裏の教育」と呼んでいます。

ということで、みなさん、ぜひ合理的な工夫をして「叱らないシステム」をつくってください。ご健闘をお祈りいたします。


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(親野 智可等 : 教育評論家)