4月期『Dr.チョコレート』(左)、7月期『CODE-願いの代償-』(右)と2期連続主演している坂口健太郎(画像は両ドラマの公式サイトより)

テレビドラマの制作本数が増えているという。

世帯視聴率は下がっているが、視聴環境が多様化し、リアルタイムで見る人が減った代わりに、配信で見る人は増えている。そのため、配信できるコンテンツを増やしているのではないかと推測される。

ドラマが増えること自体は悪いことではない。おもしろければ、それでいい。が、そのおもしろさをいささか削ぐような事案がある。

出演者の顔ぶれがどのドラマも似通っていることだ。

坂口健太郎は、あえて狙った連続主演起用?

今夏、7月期の連続ドラマに出演している俳優をあげてみると――赤楚衛二、岡山天音、小芝風花、坂口健太郎、染谷将太、波瑠、前田敦子、松下洸平、間宮祥太朗、堀田真由、山田裕貴、山本耕史……(50音順)。彼らはいずれも4月期のドラマにも出演していた。

連続出演は人気と実力を兼ね備えていることの証ではある。人気者だからこそ安心だし、ずっと見ていたいという要望が満たされる。が、ざっとあげただけで、これだけの俳優たちが4月期、7月期と続けて出ていると、ちょっと新鮮味に欠けやしないか。

物語を楽しむ以前に、ヒットソングの歌い手の出る歌番組を見ているような気分になってくるのだ。さながら人気俳優ベスト10を毎週見ているような気分。

同じ俳優の連続起用のみならず、同時期のドラマに、ひとりの俳優が複数作出演していることもあって、それが名バイプレイヤーであればあるほど、気になってしまう。

その点、日曜劇場『VIVANT』(TBS系)はモンゴルの俳優、バルサラハガバ・バタボルドが新鮮で目を引いた。

コロナ禍、制作スケジュールが大きくずれたという事情もあるとはいえ、日本は老若男女、そんなに俳優不足ではないはずで、作り手に意識や工夫が足りないのではないか。

そんな中、日本テレビは、坂口健太郎が4月期の『Dr.チョコレート』、今期『CODE-願いの代償-』とで2期連続主演すると大々的に宣伝した。そういう画期的な企画として考えれば、むしろ工夫している。あるいは、作り手側が、同じ俳優に頼っていることを開き直って宣伝に活用したのではないかと穿った見方もできる。

坂口健太郎が主演する『CODE〜』には、さらに連続出演俳優がいる。

レギュラーメンバー・染谷将太と堀田真由は、局は違うものの、4月期の『風間公親―教場0―』(フジテレビ系)にも出ていた。しかも、どちらのドラマにも、染谷と堀田、2人の絡みがあり、どうしても前作のイメージを引きずってしまうと指摘する声がSNSであがっていた。

とはいえ、染谷と堀田はビジュアルをだいぶ変えている。そもそも役柄も全然違うし、両者とも演技巧者なので、冷静に見れば、こんなに印象が変わるのか、すごい、と好意を覚える。俳優としてはいいプレゼンでもあるだろう。

同じように好印象だったのが岡山天音である。4月期『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系)と7月期『こっち向いてよ向井君』(日本テレビ系)に出演しているが、まったくビジュアルを変えていたので(彼もまた役柄も違う)、同じ俳優なのか一瞬わからないくらいだった。

主演俳優も含め、連続でドラマに出る俳優は、「またか……」と思われたくはないだろう。それぞれに意識をもって取り組んでいることは感じられるのだ。

「何人いるんだ?」記録を伸ばした人気俳優たち

連続出演は、うまくすれば、彼、あるいは彼女は「何人いるんだ?」という称賛に転化する。山田裕貴はそれを成し遂げた。

大河ドラマ『どうする家康』(NHK)で本多忠勝役を1年間、演じ続けながら、1月期の月9ドラマ『女神の教室〜リーガル青春白書〜』(フジテレビ系)、4月期の金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(TBS系)に連続出演。加えて、レギュラーだったが休んでいた『特捜9』(テレビ朝日系)の最終回に登場し、さらに映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編-運命-』『-決戦-』にも出演。

「何人いるんだ?」記録をどれだけ伸ばしたいのかと思わせた(本人はそんなことを思っていないだろうけれど)。彼もまた、まずビジュアルを大きく変えて印象を同じにしないように徹底的に作り込み、変化の演技を楽しんでいるような気すらする、その気迫が心を打つ。


大河ドラマ『どうする家康』ではちょんまげに袴姿、映画『東京リベンジャーズ2』では金髪で特攻服に身を包んだ山田裕貴(画像は各作品の公式サイトより)

山田以上に「何人いるんだ?」状態なのが、前田敦子である。

4月期に『かしましめし』(テレビ東京系)、『育休刑事』(NHK)、『ウツボラ』(WOWOW)、7月期は『彼女たちの犯罪』(読売テレビ、日本テレビ系)と出ずっぱり。

前田敦子の場合、彼女は何人いるんだ? というよりも、歌番組に毎週出ているヒット歌手のような印象でなぜかすんなり受け入れやすい。それは彼女が、その存在をずっと見続けることに重要性があるアイドルグループ・AKB48出身だからだろうか。

俳優業に並々ならぬ意欲を燃やす前田は、意外と演じる役によって印象が変わる職人っぽさがあるのだが、と同時に、毎回リリースする楽曲によってヘアメイクも衣裳もガラリと変わるようなアーティスト的な見え方も喚起させる。

前田敦子のあり方が、昨今のテレビドラマの出演者の顔ぶれが似ていることのヒントになるのではないか。

つまり、現在のテレビドラマは、物語を楽しむよりも、いま人気の俳優を認識し、楽しむ、歌番組に近いのである。

ドラマの内容は、医療もの、刑事もの、恋愛ものなどとシンプルでよく、知名度の高い人気俳優への好意や信頼によって興味を持たせ、さらに、内容が多少ゆるくても、俳優の魅力でカバーできるのだ。

赤楚衛二、小芝風花、坂口健太郎、波瑠、松下洸平、山本耕史などはまさに、いま、常に人気と信頼ベスト10入りし続けているような俳優である。もともと、テレビドラマは、世間の好感度を意識して作られているから、俳優の知名度、好感度は起用の重要な要素である。

あまりにも影響力のある「朝ドラ」

赤楚は、2020年の「チェリまほ」こと『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)でブレイクし、今年3月まで放送されていた、朝ドラこと連続テレビ小説『舞いあがれ!』(NHK)でヒロイン(福原遥)の相手役に抜擢され、知名度を全国区に広げた。その後、4月期『風間公親―教場0―』『ペンディングトレイン』、7月期『こっち向いてよ向井くん』に連続出演している。

前出の坂口健太郎は、2021年の朝ドラ『おかえりモネ』(NHK)で、ヒロイン(清原果耶)の恋人・菅波光太朗を演じ、SNSを中心に「#俺たちの菅波(坂口が演じた役名)」と全国的に話題となって以降、起用が増えた。

松下洸平は、舞台で活躍していたが、2019〜2020年、朝ドラ『スカーレット』のヒロイン(戸田恵梨香)の相手役で知名度を拡大、4月期『合理的にあり得ない 〜探偵・上水流涼子の解明〜』(関西テレビ)、7月期『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ系)に出演している。いずれも、ヒロインのパートナー的存在を演じている。

こう見ると、“朝ドラ効果”は大きい。

4月期『私のお嫁くん』(フジテレビ系)、7月期は『こっち向いてよ向井君』に出ている波瑠は、2015〜2016年、朝ドラ『あさが来た』のヒロインを演じたことで全国区に認知度を上げ、活躍し続けている。

彼ら、彼女らはいずれも、イメージが明確で、清潔感があり、好感度が高く、CMに起用されやすいタイプである。彼らは、その演技巧者の部分を、同じようなイメージを保ち続け、視聴者の期待を決して裏切らない部分で存分に発揮している。

波瑠は『お嫁くん』も『向井君』も、どちらも仕事ができるしっかり者で、男性に媚びず、サバサバと接する役を演じている。夫の協力を得ながら実業家として活躍する『あさが来た』のヒロインを演じて以降、波瑠はもうずっと、男性に尽くすのではなくむしろ尽くされながら、かわいげを失わないという、ある種の理想像を演じ続けている。

奇しくも、『あさが来た』で波瑠演じるヒロインの娘役に大抜擢され、以降、重宝されている小芝風花は、4月期『波よ聞いてくれ』(テレビ朝日)、7月期『転職の魔王様』(関西テレビ)に連続出演。『波よ』では髪の色などを変えたりしながらも、ハツラツとして健気な女性像の期待に応え続けていることが興味深い。

山本耕史はキャリア的にはベテランだが、2022年、映画『シン・ウルトラマン』と大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)でセカンドブレイクし、『Dr.チョコレート』、『大奥』(NHK)と引っ張りだこだ。

ファーストブレイク期(『ひとつ屋根の下』(フジテレビ系)など、1990年代トレンディドラマの時代)はピュアな青年のイメージだったが、セカンドブレイク期では、ちょっと胡散臭い人物というイメージの変化で、俳優としての可能性を大きく伸ばした感がある。

「好かれるヤツほどダメになる」

このように、同じ俳優たちが起用され続ける世界は、まるで椅子取りゲームのようだ。たったひとつだけ空きがあり、そこに座るためにがんばって、座ったら最後、もう絶対に椅子を譲り渡せない。そんな熾烈な芸能界。当人たちの意思か、マネージメントの意思かはわからない。いずれにしても、もっと広く椅子を空けることはできないのだろうか。

このような状況に、「芸術は爆発だ!」の名言で有名な岡本太郎の言葉を思い浮かべる。

「今日の芸術は、うまくあってはならない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない」

岡本と、彼の代表作「太陽の塔」をリスペクトした番組『TAROMAN』(NHK)では、この言葉をアレンジして主題歌『爆発だッ!タローマン』 を作り、さらに「好かれるヤツほどダメになる」「なれあいを断ち切れ!」と歌っている。テレビ局の皆さんはこれらの言葉をどう思うだろうか。いや、まあ、ドラマは芸術じゃないのだが。

くり返すが、俳優たちは皆、演技巧者で、期待されることを適切に提示することに力を発揮しているのであって、それは評価に値する。才能ある俳優を何度も起用するなら、逆にその分、攻めたドラマにチャレンジしてみてもいいのではないか。

(木俣 冬 : コラムニスト)