江蘇省連雲港で輸出されるのを待つ大量の自動車。中国は、今年自動車輸出で世界一になる見込みだ(写真:CFotoアフロ)

中国の海外貿易の状況は冴えないが、自動車輸出だけは例外となっている。中国汽車工業協会(CAAM)の統計によれば、2023年上半期における中国の自動車輸出台数は前年同期比75.7%増の214万台だった。

この3年間、自動車輸出台数は年々増加し続けている。2021年の輸出台数は前年同期比2倍の201.5万台、2022年には311.1万台に達した。業界では2023年には400万台の大台を突破するとの予想が広まっている。

中国は日本を超え、世界最大の自動車輸出国になる可能性が高い。ナカニシ自動車産業リサーチの代表アナリストである中西孝樹氏は、「中国自動車企業が国際市場で大きく拡大しているのに対し、日本企業の海外事業は安定的である」との見方を示し、「中国自動車の輸出が日本を超えるのは時間の問題だ」と財新の取材に対して語った。

自動車輸出台数が日本を上回る

両国の自動車工業会のデータによると、2023年第1四半期において、中国と日本はそれぞれ107万台と95.4万台を輸出している。業界では、2023年内に中国の自動車輸出台数が日本を追い抜くとの予想が広まっている。

これは間違いなく歴史的な瞬間になるだろう。自動車は製造業の「宝」であり、産業のサプライチェーンも強い。工業情報化部長の苗圩(ミャオ・ウェイ)氏は最近の非公開会議で、「国際市場の一角を占めることは自動車大国の特徴の一つである」と述べた。

2021年以前、中国の自動車輸出台数は10年間ほど100万台前後で推移していた。3年連続の急増は驚異的なパフォーマンスだと言える。UBSの中国自動車産業研究責任者である巩旻(ゴン・ミン)氏によると、「自動車輸出の構造が大きく変わるにはきっかけが必要だ」という。

日本の自動車企業は1970年代の石油危機を利用してアメリカ進出への足がかりを築き、そこからグローバル経営が始まった。中でもトヨタ自動車は優秀な実績を残し、世界最大の自動車企業になった。

中国の自動車企業には近年、同様のチャンスが訪れている。2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大し、世界の自動車サプライチェーンは混乱。半導体チップが不足し、各社の生産は制限された。

ゴン・ミン氏によると、多国籍企業は限られた半導体資源を利益率の高いモデルの生産に充てることを選択し、ヨーロッパやアメリカ市場への供給を優先させたという。こうした多国籍企業が手放したほかの市場のスペースを中国の自動車企業は引き継いだのだ。

「もちろん、過去数年にわたる品質向上やコスト面での優位性がなければ、チャンスが巡って来たとしても、中国企業はそれを受け止めきれなかっただろう」とゴン・ミン氏は語る。中国のガソリン車がひそかに発展し時期が来るのを待っていたのだとすれば、EV(電気自動車)の置かれた状況は別次元のチャンスだと言える。

「まるで中国の会議に出席した気分」

6月末、フランスのEMリヨン経営学大学院副校長の王華氏(上海にある同大学院アジア校校長を兼任)はヨーロッパを訪れ、新エネルギー車(NEV)をテーマとする業界会議に出席した。「まるで中国に関する会議に出席したような気分だった。午前中だけで、各代表のスピーチや議論に中国が何十回も登場した」と王華氏は振り返る。

匿名を希望した国際的に著名なコンサルティング会社の幹部も「今や中国のEV車が先頭を走り、中国自動車産業が絶好調であることは世界中が知っている」と述べている。

EUは2035年までにガソリン車の販売を禁止することを決定しており、EVへの移行が急務の状況だ。グローバル自動車企業は、100年以上にわたり蓄積してきたガソリン車の優位性を見直さざるをえず、その衝撃は計り知れないものとなっている。

イギリスのメディアは、「ヨーロッパ市場において本当の意味で魅力的だといえるEVは、テスラの上海工場から輸出された『モデル3』や『モデルY』か、あるいは上海汽車集団の『MG』だ」と報じた。

ドイツの自動車専門誌は、上海汽車集団のEV「MG4」を分解したうえで、「これこそが大衆のために開発されたEVだ」と評価した。これは、ドイツのフォルクスワーゲンが生産するEVの価格があまり手頃ではないことを意味している。

上海汽車集団はこうした評価を非常に重視している。7月4日、上海汽車集団ドイツ総経理の袁映琛(ユエン・インチェン)氏はインタビューで、「ドイツは自動車発明の地であり、メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲンなど世界に名だたる企業があるため、どの国の自動車製品もドイツで認められるのは容易ではない」とし、「その難しさは、外国人が陶磁器を景徳鎮で売ることに似ている」と述べた。

上汽大衆汽車(上海汽車とフォルクスワーゲンの合弁企業)は、中国で最初に設立された自動車合弁会社のひとつである。上海汽車集団がヨーロッパ、特にドイツで高く評価されていることは、中国の自動車企業が「外資誘致」から「海外進出」へと前進したことを意味する。

BYD「この成長期を逃すのが怖い」

これは歴史的チャンスである。中国企業はEVのリードによって、積極的な海外戦略を取ることができる。実際、ほとんどすべての中国企業がこうした計画を矢継ぎ早に発表しているのだ。


2021年5月に海外進出をはたした比亜迪(BYD)は、最近インドにも工場投資をする計画を提出したとロイター通信が報じている(訳注:その後、インド当局が工場計画を拒否したという現地報道が出ている)。BYDは財新に対し「この成長期を逃すのが怖い」と答え、緊迫感を持っていることを明らかにした。

2023年5月、上海汽車集団のタイ工場部品工業団地の建設が始まった。同月、長安汽車は40億元(約780億円)を投じてタイに世界的な右ハンドル車の生産拠点を建設することを発表した。2024年に第1期生産を開始し、同年にはヨーロッパ市場に参入する予定であることを明らかにした。

7月5日、奇瑞汽車は、インドネシア、マレーシア、タイにそれぞれ工場を建設すると発表した。7月17日、マレーシアの首相は、吉利汽車が同国に100億米ドルの投資を計画していることを明らかにしている。

一方、前述のコンサルティング会社幹部によれば、「EVは中国企業にとってグローバル展開を進めるきっかけにはなるが、そのプロセスは日本や韓国の企業ほど順調には進まない可能性がある」という。

現在、地政学的な情勢は複雑かつ不安定であり、中国企業のグローバル展開はかつてないほど大きな試練にさらされている。とくにグローバル自動車企業の戦闘態勢が整っているヨーロッパでは、すでにいくつかの国が行動を起こしている。

トルコは中国のEVに40%の懲罰的関税を課した。また、フランスはヨーロッパ製のEVにのみ補助金を出す決定をしたが、フランスで最も売れているEVのうち3つのモデルが中国製であることから、この措置は中国企業をターゲットにしていると解釈されている。

また、吉利汽車と長城汽車はロシアで自動車を販売しているとして、ウクライナから「戦争支援企業」にリストアップされた。ヨーロッパがこの2つの企業に対して制裁を科すかどうかは今のところ不明である。

ロシアでの市場シェアが50%を超える可能性

日本とアメリカは自動車貿易摩擦で対立していた時期があったにもかかわらず、日本企業はアメリカの工場に無制限に投資することができたが、中国企業にはそのような環境はなく、今後は「さらなる知恵と妥協が必要だ」と前出のコンサルティング会社幹部は指摘する。


最大輸出先でのリスクも依然として残っている。2023年1〜5月で、中国車を最も多く輸入した国はロシアだった。2022年2月、ロシアとウクライナの紛争が勃発すると、グローバル自動車企業は相次いでロシアから撤退し、中国企業は一気に進出した。

この年だけで、中国の自動車ブランドはロシアでの市場シェアを9%から37%に伸ばした。さらにロシアメディアは6月、中国ブランドの市場シェアは2023年には50%を超える可能性があると報じている。

だが、ロシア市場における中国自動車企業の優位性をいつまで維持できるのかについては疑問が残る。

10年以上前、ロシアは一度、中国にとって最大の自動車輸出市場となったことがある。当時の中国企業は、部品の輸出から現地での組み立てまで優遇税率を享受することができた。しかし2008年に、ロシアが輸入自動車部品の関税引き上げなど一連の政策措置を導入したことで、中国自動車企業は優位性を失い、ほぼ全滅してしまった。

「海外進出」は誇大広告も少なくない

上海預致汽車コンサルティング総経理の張豫(ジャン・ユィ)氏は、「中国企業は海外市場のチャンスについて冷静に判断すべきだ」と考えている。現在、中国自動車企業の「海外進出」には誇大広告が少なくなく、海外販売を資金調達の仕掛けとして扱う企業も存在している。

中国市場は競争が激しいがボリュームは巨大であるのに対し、海外市場は各地に分散している。EVならいざしらず、ガソリン車に関しては自動車企業が開拓にかけた努力とリターンは比例しないと張豫氏は見ている。

(財新記者:安麗敏、陳立雄)

※『財新周刊』7月24日号より抄訳

(財新編集部)