発達障害をもっている子の家庭学習のお悩みについて答えます(写真:TY/PIXTA)

宿題になかなか取りかからない。宿題中に気が散ってなかなか進まない……。発達障害のある子の家庭学習は、一筋縄ではいかないことも多々あります。宿題に取りかかる前、宿題中に具体的にどのようなサポートを行ったらいいか、『発達障害&グレーゾーンの子の「できた!」がふえる おうち学習サポート大全』より一部抜粋し再構成のうえお届けします。

学習サポートの基本となる3つの係

ADHD(注意欠陥多動性障害)、ASD(自閉スペクトラム症)などの特性にかかわらず、子どもの学習サポートをするときに保護者が果たすと有効な役割が3つあります。それが、消しゴム係、ヨイショ係、生徒係です。

大人がこの3つの役割を果たすことで、子どもの負担が少なくなり、同時に自分を客観的に見る機能(メタ認知)を働かせることができます。

保護者の皆さんは、3つの係に取り組みながら、子どものガイド役になってみてください。発達障害のある子どもは、メタ認知の働きや発達がゆっくりであることが多いので、今何をやるのかを思い出すきっかけをつくってあげたり、今どのくらい進んでいるのか知らせてあげたり、残りがどのくらいかを見えるようにしてあげたりします。

3つの係に取り組むと、保護者の役割が「教える」から「観察する」に切り替わります。大人が子どもに教えて理解させる必要がなくなり、宿題をやる間は子どもの環境調整と観察に徹することができるわけです。大人に環境調整をしてもらえると、結果として子どもの負担が減り、勉強に集中できる環境が整います。

保護者は勉強を「教える」ことに関しては素人です。保護者が「教える」立場から降りることで、子どもが主体的に勉強に取り組めるようになります。


(出所:『発達障害&グレーゾーンの子の「できた!」がふえる おうち学習サポート大全』)

消しゴム係とは?

学習サポートの基本1『消しゴム係』子どもの「消す」負担を減らす

長く学習指導をしていて、勉強が苦手な子どもたちの多くは、消しゴムで「消す」という作業にストレスを感じていることがわかりました。

「消す」というアクションが負担ということもありますし、「間違えた」とあらためて感じることが苦手でもあるようです。そういう子に対しては、大人が消しゴム係をしてあげると、負担が減ってやり直しをいとわなくなります。

消しゴムで消すときは、ひと言「消してもいい?」と聞きましょう。なぜなら、宿題は子どものテリトリーだからです。勝手に侵入しない。こういうところで「自分と大人(自分以外の人)は別の人間で、それぞれテリトリーがある」という自他境界が育まれていきます。

「家族だからいいでしょ」と保護者が子どものテリトリーにズカズカ入り込んでいると、人の顔色をやたらとうかがってしまったり、自分の考えを人に強要してしまったりと、自他境界の曖昧さによる生きづらさを抱えてしまうことがあります。

そして、消しゴムで消すときは 「どこを消そうか?」と聞きましょう。子どもの中には、「漢字の間違えた箇所だけ消してほしい」「1文字全部消してほしい」といった意思があります。

でも、言ってくれないとわからないですよね。「どこを消そうか?」「ここを消して」というちょっとしたやりとりが、自分の意思を言葉で伝える練習にもなります。


(出所:『発達障害&グレーゾーンの子の「できた!」がふえる おうち学習サポート大全』)

学習サポートの基本2『ヨイショ係』うまくいっていることを言葉で伝える

子どもたちは、経験の少なさから「ダメ」「違うよ」と大人に訂正される機会がたくさんあります。特に発達障害のある子どもは、不注意が多かったり、コミュニケーションが取りづらかったりするため、叱られたり、注意を受けたりすることも多くあります。

そのため、「何がダメなのか?」はよくわかっていますが、「何がいいのか?」は指摘されることが少なく、案外わかっていません。うまくできたときは「何がよかったのか?」を言葉にして何度も伝えてあげましょう。

すると、「これでいいんだ」と安心できるし、OKの基準がわかります。勉強で間違えることを怖がる子には、算数の式や漢字をうまく書いているときに、横で「そうそう」と言ってあげるだけで安心して取り組めるようになります。

自分を客観視する力の弱い子もいる

発達障害のある子どもの中には、自分を客観視する力の弱い子がいます。そのため、「ちゃんと進んでいるよ」「ここが前よりもできるようになっているよ」と、以前との違いを具体的に教えてあげると、「これが進んでいるってことか!」「自分はできるようになっているんだ!」とわかるようになります。

そうすると、自分を客観視できるようになり、自分がどういう人間なのかがだんだんとわかってきます。このように「自分はわかっている」「できるようになっている」と感じられるようになることも学習のひとつです。


(出所:『発達障害&グレーゾーンの子の「できた!」がふえる おうち学習サポート大全』)

学習サポートの基本3『生徒係』子どもにやり方を教えてもらう

算数の計算などのやり方が、私たち親世代が子どもの頃から変わっていることがあります。先生と保護者とでやり方が違うと、発達障害のある子は「どっちが正しいの?」と混乱してしまうことも。

そういうときは、保護者が生徒係になって子どもにやり方を教えてもらいましょう。子ども自身の説明する力がつきますし、より深い理解にもつながります。

正しく教えられるかではなく、やりとりが大切

私は学習指導のとき、問題をコピーして生徒と一緒に解くことがあります。そのとき、つまずきそうなところを「ここはどうやるの?」と、まるで同級生のように生徒に聞いて教えてもらいます。


生徒が「あれ? わからない」となったときは、「もしかしたらこう?」と私が説明を加えながら示して、「合ってる?」と聞きます。実際に正しく教えられるかどうかより、こういうやりとりが大切なのです。

また、「学校で教わっても1回で理解できるわけではない」と保護者がわかっていることも大切です。そうすると、子どもがどれくらい練習すると知識が定着するのかを観察したり、的確な質問ができるようになったりします。

ただし、ASDの子の場合は慎重に。「親と子」から「生徒と先生」へと役割が変わることが受け入れられず、「いつもと違うことをやらされた!」とか「本当はわかっているのに意地悪された!」など、不信感につながることがあるからです。


(出所:『発達障害&グレーゾーンの子の「できた!」がふえる おうち学習サポート大全』)

(植木 希恵 : 「きらぼし学舎」代表、公認心理師)