一般社会では味わえないユニークな経験ができる防衛大学校には、どんな学生たちがやってくるのでしょうか。学生の8タイプを紹介します(写真:mirai4192/PIXTA)

防衛大学校(以下、防大)は、神奈川県横須賀市小原台にあり、陸・海・空、各自衛隊の幹部自衛官となる者を教育訓練している施設だ。学生や関係者たちからは、「小原台」と呼称され親しまれている。

そんな防大に入校した新入生は、「ハイorYES」の世界に投げ込まれることになり、数々の試練に直面する。実際、4/1からの5日間で100人ほどの新入生がいなくなることも珍しくない。

一方で、防大には独特なユーモアや面白さがあり、一般社会では味わえないユニークな経験ができる学校だ。

今回は、そんな防大にやってくる学生たちの8タイプをご紹介していこう。(本記事は元陸上自衛官のエッセイスト・ぱやぱやくん氏の書籍『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』から一部抜粋したものです)

防大にやってくる学生たち

防大は「将来の幹部自衛官になる者」を育成する教育機関ですが、学費・衣食住が無料、さらに給与手当がもらえる待遇のため、自衛隊にまったく興味がない人たちも大勢やってきます。そのため、みんな真面目そうでやや無個性にも見える防大生ですが、実はバラエティーに富んでいます。

では、どんな人が防大に入校するのでしょうか? パターン別に解説をしていきましょう。

1┃ 英雄タイプ

彼らは意欲が高く、学力優秀・運動神経抜群で、カリスマ性があります。人柄もとてもよく、人生2周目ではないかと疑うほどです。防大にはこのタイプの学生が学年で1人ぐらいおり、「彼(彼女)には勝てないな」と誰しもが思います。学生時代から「あいつには偉くなってほしい」と誰しもが思い、卒業後も戦闘機のパイロットや空挺団(くうていだん)などのエリート部隊で活躍することが多いです。このタイプは、ある日異世界転生をしても主人公として活躍できるでしょう。

2┃ あふれる愛国心タイプ

このタイプの学生は高校生のときから国防への意識が高く、「日本の国防は俺に任せろ!」と鼻息荒く防大にやってきます。勉強熱心で真面目な人が多く、入校当初から「ドイツ軍の戦車は〜」や「自衛隊の新型小銃は〜」などの細かい知識を同期に披露し、防衛学の講義でもマニアックな知識を駆使してレポートを仕上げてきます。一方で、この手のタイプは得てして理屈っぽく不器用な人が多いです。防大の細かい規則や小銃の扱いに苦戦し、しょんぼりとしている姿をよく見ます。

細かい知識が豊富でオタク気質な人が多いので、「歩く愛国心」や「1人だけの参謀本部」などと揶揄されることも多いですが、まんざらでもない顔をしているところにかわいさがあります。「戦時中のラジオ放送のマネ」など、マニアックな小ネタを持っていることが多いです。

合格して興味を持つ学生、親が自衛官の学生、苦学生

3┃ 航空機のパイロット志望

防大入校後に適性があれば、卒業後に航空機パイロットの道に進むことができます。そのため、広報官は「パイロットになれるよ! トップガンになろうよ!」と狂ったようにキラーフレーズを連呼し、パイロットへの夢を持った高校生たちを大勢導いてきます。

ただパイロットになれる人は一握りであり、大抵の学生は視力で「適性なし」という判定になります。しかし、「適性がなくても仕方ないよね」と陸上自衛隊の道に進み、卒業後は戦車部隊などで活躍しているパターンもあります。それが人生ですね。

4┃ 地方の進学校出身者

防大受験は公務員試験扱いのため、受験費用は無料です。受験時期も秋頃とほかの大学よりも早いため、地方の進学校では「この時期に防大に合格できる実力があれば◯◯大学は受かる」と模試感覚で生徒に受けさせます(北海道・九州に多い印象です)。

そうした理由から、防大では筆記の後の2次試験で「興味がないので行きません」と辞退者が続出します(防大は1次試験の筆記試験に合格すると、2次試験が面接・身体検査になります)。

しかし、中には「興味がないけど、合格は欲しいな」と試験を受けて合格し、その後に「興味はなかったけど、合格したら自衛隊に興味が出てきた」などの理由でやってくる新入生もいます。一見すると志がないように見えますが、彼らは地頭がよい人が多く、体育会系の部活で活躍していたケースも多いです。総合的にバランスが取れているので、メキメキと防大で才能を発揮します。

彼らを見ていると「防大や自衛隊に入る理由はなんでもいい」ということを改めて実感できます。

5┃ 親が現職の自衛官(官品(かんぴん))

防大は親が自衛官の学生が一定数います。自衛隊は世襲制の仕事ではありませんが、親の影響を受けて自衛官になる人たちは珍しくありません(この人たちは国の支給品にたとえて「官品」と言います)。彼らは、小さいときから「防大は偉くなるし、お小遣いをもらえて最高だぞ」と言われて育ち、防大にやってきます。

官品の中には、「お父さんが陸将」「誰もが知っている有名な軍人の子孫」というパターンもいて、バラエティー豊かです(ただ、学生自身はプレッシャーを感じることもあるようですが……)。自衛隊において、自分の子どもが防大に入ることは一種のステータスであり、親にとっては「最大の親孝行」でもあると言えるでしょう。

彼らはよくも悪くも防大や自衛隊のことを知っているので、「防大ってこんなもんだよね」とドライな目を持ちつつ、物事をこなしていきます。

6┃ 苦学生タイプ

防大は学費無料で給与手当支給のため、家庭事情を考慮して防大に進学する学生がいます。彼らはほかの学生よりも壮絶な人生を歩んでいることが多く、「お年玉をかき集めて防大の試験問題集を買った」「親戚は失踪している人が多い」「教官に『お前よく不良にならなかったな!』と言われた」などの重めのエピソードを語ります。

このパターンの人たちは優秀で優しい人が多く、苦境に対してもポジティブです。「防大は3食食べられるし、お金ももらえて最高だね」と感謝していることが多く、自衛隊に対する忠誠心も強いです。同じような境遇の部下や後輩に優しく、人望を集めるタイプです。

「防大は楽」と言う学生、華麗な転身を遂げる学生

7┃ 自衛隊生徒からの進学組

自衛隊にはかつて「自衛隊生徒」という制度があり、自衛隊の高校バージョンが陸海空で存在していました(現在は陸自の高等工科学校のみ)。自衛隊生徒の成績優秀者は防大推薦がもらえるため、彼らは3年間の修羅場を耐えたのちに防大にやってきます。彼らは優秀であり、すでに自衛官としての基礎ができているため、防大でもリーダー的な存在になることが多いです。


彼らが語る生徒時代のエピソードはかなりハードで、「泳げない奴は泳げるまでプールに投げ込まれた」や「部活の試合に負けると班長がガチギレするから、死ぬ気で戦った」など防大生でも苦笑いすることが多々あります。彼らの口癖は「防大は生徒よりも楽」です(どんな高校時代だったのでしょうか……)。

8┃ 型破りタイプ

このタイプはとにかく型破りで規格外です。「高校卒業から1年間は流浪の旅をしていた」「元ビジュアル系バンドマン」「起業して失敗した」などの意味不明な経歴を持ち、ロン毛や茶髪ヘアで防大にやってきます。

すぐに辞めてしまいそうな彼らですが、割と要領がよくバイタリティーがあるので、ちゃんと防大を卒業します。防大卒業後も型破りな性格ゆえに自衛隊を退職し、「医者になった」や「ベンチャー企業の経営者になった」などの華麗な転身を遂げたと風の便りを聞くことが多いです。

これらのタイプ分けは一例にすぎませんが、どれかに分類できると思います。防大生を見つけたら振り分けをしてみることをお勧めします。

(ぱやぱやくん : 元自衛官・エッセイスト)