インテルは昨季(2022−23シーズン)のチャンピオンズリーグ(CL)ファイナリストだ。6月10日、イスタンブールで行なわれた決勝戦。下馬評ではマンチェスター・シティに大きな遅れを取っていた。ブックメーカー各社の倍率は1対4ぐらいの関係だったので、後半23分まで0−0で推移する展開は予想外だった。最終的には0−1で惜敗したが、敗れ去るその姿に「よく戦った」と拍手を送りたくなったものだ。

 インテルに決定的チャンスは2度あった。終わってみれば決勝ゴールとなった先制点を奪われたその直後、フェデリコ・ディマルコ(左ウイングバック)のヘディングシュートがクロスバーを叩いたシーンがまずひとつ。その跳ね返りをディマルコが再び頭で押し込もうとしたシュートも味方に当たるという不運に見舞われた。

 終了間際、マルセロ・ブロゾビッチのクロスをロビン・ゴーセンスが折り返し、ゴール前でロメル・ルカクが頭で合わせたシーンもツキがなかった。マンチェスター・シティのGKエデルソンがセーブしたと言うより、たまたま身体に当たったという感じだった。

 終わってみればマンチェスター・シティの順当勝ち。インテルの健闘は忘れられがちだ。それが世の中だと言えばそれまでだが、サッカー的かと言えばそうではない。結果に占める運の割合が3割と言われるサッカーの本質を垣間見た試合でもあるのだ。


チャンピオンズリーグ決勝で選手たちを労うインテルのシモーネ・インザーギ監督

 シモーネ・インザーギ率いるインテルはイタリアらしいサッカーをした。3−5−2。ほぼシーズンを通して、5バックになりやすい3バックで通した。守りを固めてカウンター。ひと言で言えばそうなるが、この手のサッカーは多数派ではない。世界的なシェアは一時、ざっと10%程度まで落ち込んだ。CLでも本大会に出場する32チームのうち2、3チームに限られていた。それが近年、じわりと上昇している。2022−23シーズン中に開催されたカタールW杯では32チーム中、森保ジャパンを含めて10チーム程度が、5バックになりやすい3バックで戦っていた。

【選手交代5人制の影響】

 CL史のなかでこの手の守備的サッカーが最も興隆したのは、1990年代後半のイタリアのチームになる。それ以前のイタリアは、それとは真逆な、できるだけ高い位置でボールを奪い、相手の守備隊形が整う前に攻め切ろうとするプレッシングサッカーで、時代をリードしていた。

 それがいわゆるカテナチオに一転した。ドイツや東欧諸国もこれに倣い、欧州でのシェア率は4割近くまで及んだ。ちょうど21世紀に入る頃、欧州サッカー界には、攻撃的サッカーと守備的サッカーが対立する構図が鮮明に描かれていた。1997−98シーズンのCL決勝、レアル・マドリード対ユベントスなどはそれを象徴した試合になる。

 その結果は攻撃的サッカー陣営が勝利を収めるケースが多く、今日に至っているわけだ。しかし、ここに来て20数年前の状況に揺り戻しの動きが強まっていることも事実で、昨季のCLで準優勝したインテルは、その旗手という位置づけになる。

 もっとも昨季のCLに出場したイタリア勢すべてが守備的陣営に属したわけではない。ユベントスは中庸で、ナポリ、ミランは完全に攻撃的陣営に属していた。ヨーロッパリーグで準優勝を飾ったジョゼ・モウリーニョ率いるローマは守備的だったので、イタリア内では対立軸がとりわけ鮮明に描かれた状態にある。

 守備的サッカーが復権する理由を語る時、見逃せないのが選手交代5人制だ。3バックと5バックの関係はウイングバックの上下動に起因する。縦105メートルをひとりでカバーすれば、後半なかばには疲労が蓄積。足は止まる。専守防衛の状態に陥りやすい。だが、それは選手を代えることである程度、解決できる問題でもある。コロナ禍以前の数年前より、5バックになりにくい状態を維持しやすくなっているのだ。

 昨季のCL決勝マンチェスター・シティ戦でも、オランダ代表の右ウイングバックのデンゼル・ダンフリースは後半30分に退いている。準決勝の2試合では逆にイタリア代表の左ウイングバック、フェデリコ・ディマルコが後半25分と21分に交代で退いている。

【前線のコンビは変更】

 言い換えれば、出場している間はストロングポイントになっているわけだ。4バックで臨んでくる相手のサイドアタッカー2人に対しひとりで対峙する能力を発揮できている。ダンフリースとディマルコ。インテルのCL決勝進出を語る時、このふたりの活躍を見逃すことはできない。

 一方、わかりやすいヒーローはアルゼンチン代表FW、ラウタロ・マルティネスだ。アルゼンチンと言えば、昨季のシーズン途中に開催されたカタールW杯の優勝チームである。そこでラウタロは初戦のサウジアラビア戦以外、途中出場に終わっている。得点も挙げることはできなかった。だがW杯を間に挟み、その優勝に気を良くしたのか、調子が激変。W杯前はリーグ戦7ゴールだった得点は、W杯後は14ゴールに倍増。CLでのゴールを加えると8対16の関係になる。W杯出場を境に覚醒したことは数字でもハッキリとわかる。

 昨季、インテルのFWは、主にこのラウタロとボスニア&ヘルツェゴビナ代表のエディン・ジェコの2トップだった。しかしジェコはフェネルバフチェに移籍。代わってボルシア・メンヘングラートバッハから獲得したマルクス・テュラムがラウタロと2トップを組むことになる。

 ラウタロに昨季後半のような活躍は望めるか。新加入のテュラムとのコンビが冴えるか。そして生命線とも言えるダンフリースとディマルコの両ウイングバックは今季も健在か。またその3−5−2がどれほど守備的なスタイルであるのかについても、日本で行なわれるアル・ナスル戦(7月27日)、パリ・サンジェルマン戦(8月1日)を通してチェックしたい。