守田英正×脇坂泰斗 同期のふたりが思い出すフランス戦「舌打ちされた」「覚えてない(笑)」
守田英正×脇坂泰斗スペシャル対談(前編)
1995年生まれで、2018年に大学を卒業して川崎フロンターレに加入した同期。今は、守田英正がスポルティング、脇坂泰斗が川崎フロンターレと、それぞれ違う舞台、環境でプレーしているが、お互いに成長を見続けてきたふたりが再会した。
旧知の仲である、両者が対談を実施──。前編では、ふたりが出会った大学時代からのエピソードを語る。
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── 現在は守田選手がスポルティング、脇坂泰選手はフロンターレと、別々のチームでプレーしていますが、同世代のふたりは2018年にフロンターレに加入した同期です。それ以前から面識はあったのでしょうか?
脇坂 知り合ったのは、大学選抜に選ばれた時なので、大学3年の夏になります。たしか台湾遠征の時だよね?
守田 僕はもともと「阪南大学にうまい選手がいる」という情報は持っていたんですけど、流通経済大学だった僕は関東、泰斗の阪南大学は関西と、大学リーグも異なるため、それまで対戦機会はありませんでした。だから、初めて会ったのはその台湾遠征でした。
── ふたりはすぐに意気投合したのですか?
守田 どうやったっけ?
脇坂 いや、そこではまだ打ち解けてないはず。台湾遠征は、みんなも初めて招集された機会で、自分はもともとジャーメイン良(ジュビロ磐田)と面識があったので、彼が同じ流通経済大学ということで、ヒデ(守田)を紹介してもらった記憶があります。
でも、仲良くなったのは、そのあと、大学選抜の活動を重ねて、同部屋になってから。だから、ドイツ遠征の時じゃない?
守田 ドイツか!
脇坂 ヒデが洗濯物を干すために外に出たタイミングで、僕が部屋の鍵をかけて、部屋から閉め出して......。その時のドイツは寒かったのに、ヒデは薄着で......。
守田 全然、覚えてない......。でも、話を聞くと、なかなかひどいことをされてますね(笑)。
脇坂 そんな、くだらないイタズラをお互いにやり合っていましたね(笑)。誕生日がヒデは5月、僕が6月と近いんですよ。大学選抜では誕生日順で部屋割りが決まっていたので、ユニバーシアード(競技大会)が終わるまで、ほぼ同部屋だったことが意気投合するきっかけでした。
── お互いに、プレーヤーとしてはどのような印象を持っていましたか?
脇坂 当時は、すごくユーティリティな選手というイメージを持っていました。最初はSBで試合に出ていて、CBの選手がケガをしたら、途中からヒデがCBに入ったんです。その時、Jリーグのチームと練習試合をさせてもらったのですが、本職じゃないのにプロの選手を止めまくっていた。その光景に思わず「えっ?」って驚きました。
そのあと、デンソーカップチャレンジサッカーで、僕は全日本大学選抜、ヒデは関東選抜で対戦する機会がありました。その時、ヒデはボランチで出場し、中盤で無双していた。試合も僕らは(1-2で)負けて。本職であるボランチのプレーを見て、さらに驚きました。
守田 泰斗は当時も今も、いい意味でイメージは変わらないかな。大学生の時から、人と違うところを見ている選手でした。人と人の間でボールを受けようとするポジショニングひとつとっても、大学生の時から普通にやっていた。だから当時から、泰斗はもう、泰斗だった(笑)。ほかの人とはちょっとタイプが違う、そういう存在でしたね。
── 当時からプレーに雰囲気があるというか、プレースタイルが確立されていた?
守田 だから、大学選抜での起用のされ方も、誰かの代わりとかではなく、チームとしても泰斗の生かし方や泰斗がいる時の戦い方というのが、どこか自然にできあがっていきました。そこに明確な戦術があったわけではないですけど、泰斗がピッチにいるときは、泰斗を生かすサッカーになっていくというか。そういったことを、自然とみんなが意識するような、唯一無二の存在でした。
── 脇坂選手は、守田選手に生かしてもらっていた感覚は?
脇坂 それ以上に、かなり助けてもらっていましたね。特に、自分が守備で穴をあけてしまった時には、常にカバーしてくれていた。
守田 覚えてる?
脇坂 かなり。特に(第29回ユニバーシアード競技大会決勝の)フランス戦で、俺がボールを奪いきれなかった時に、うしろから舌打ちが聞こえてきて、「取れよ!」って言いながらカバーして助けてくれたことは覚えてる(笑)。
守田 うそだ? まったく覚えてない(笑)。
脇坂 ホント、ホント。でも、うしろで全部、カバーしてくれるから、フロンターレで一緒にプレーするようになってからも、常に自分の綻びを補ってくれる心強い存在でした。
── 言葉で厳しく言うのも、きっと行動でカバーしてくれるからこそなんですね。
脇坂 ヒデはそういうタイプなんです。あと、ヒデは守備の時に、自分がどこでボールを奪いたいという狙いが明確なので、僕が逆の方向に相手を誘導してしまうと、『そっち、ちゃう!』って言われていました。
守田 それは俺もよく覚えてる。ユニバーシアード(競技大会)の直前にやった練習試合で、泰斗が誘導した方向が自分の意図とは逆で、指示したように思う。
脇坂 それ、それ!
── ふたりはキャラクター的に真逆に感じるのですが、お互いに似ているところや共通点を感じるところはあったのでしょうか?
脇坂 たしかに見た目の印象は真逆に見えるかもしれないですけど、実は考え方とかはけっこう、近いところが......。
守田 パッと見、好青年に見えるから泰斗はずるいんですよ。周りにバレていないだけで、ずっと同じ匂いというか、自分と同じくずる賢いヤツなんです。
脇坂 実は最近、僕自身もそれは思っていて、なぜか、先に「これ」といったイメージを持たれてしまっていることのほうが多くて。もうちょっと、みんなとワイワイと騒ぎたいのに、どこか大人しいというか、物静かな印象を抱かれてしまうことも多いんですよね。
守田 私生活も含めて、泰斗にはどこかきちんとしているイメージがありますよね。一方で、俺は逆というか。でも実際は、泰斗よりも俺のほうがしっかりしていたりする。共通点でいうと、笑いのツボが一緒だったことで、意気投合したところはありますね。
脇坂 それも、すごくわかる!
── たとえば?
脇坂 みんなで一緒に過ごしている時に、誰かの予想していない言動や行動によって、団体行動が乱されたり、雰囲気が気まずくなってしまったりする時ってあるじゃないですか。自分はその空気を瞬時に察知してしまう性格なのですが、場の空気を戻さなきゃいけないなって思っていると、たいがいヒデと目が合っていた。それで、ヒデは自分と同じく、その場の雰囲気や空気を敏感に感じ取れる人なんだなって。
守田 でも、泰斗はそういう時に目配せしてきて、「どうにか対応しろ」って目で訴えてくる。そこが泰斗のずるいところなんです。そもそも、フロンターレの生え抜きで、背番号14を背負っているだけでずるいというか、ずる賢い!
脇坂 その文句は意味がわからない(笑)。
守田 だから、今回の対談では、僕が本当の泰斗をさらけ出させてみせます。
── このまま脱線していきそうなので、話題を戻すと、ふたりとっては一緒に参加したユニバーシアードは、やはり大きな出来事でしたか?
脇坂 優勝できたあの大会は、自分の経験としてかなり大きかったですね。あとは、ヒデがフロンターレに加入したのも、その大会と、俺がいたおかげだというくらいに思っています。
フロンターレについてヒデには何度も話をしたし、タツルさん(向島建/スカウト担当)から「守田の獲得も目指している」と聞いた時には、LINEでヒデからの相談にも乗りましたからね。ヒデが2つのクラブで迷っていることも知って、最終的に決断したのは彼自身ですけど、その過程には自分が話したことも影響を与えていたと思っています。
守田 たしかに、それはちょっとありますね。最終的にフロンターレへの加入を決めたのは、チームとしてのレベルの高さに触れたことでしたけど、その過程に泰斗がいたことは間違いない。練習参加した時も、当時は周りの技術レベルの高さに自分のプレーがおぼつかないくらいでしたけど、泰斗は平然とプレーしているように見えましたから。
脇坂 いや、自分も当時はついていくので精一杯でしたよ。自分はユースをフロンターレのアカデミーで過ごしたので、クラブが大切にしていることや目指さなければいけないプレーのレベルについては知っていましたけど、それでもなお、トップチームのプレーの質は全然、違っていた。キャンプでも最初のボール回しでミスするのは、必ずといっていいほど自分たち新加入選手。
守田 たしかに加入した当時は、ミスしてばっかりだったね。でも、それはそれで俺は楽しかったな。ここで練習していれば、絶対にうまくなれるという確信を持つことができたから。
脇坂 そこがヒデと自分が違っていたところかもしれない。逆に自分は、その技術で勝負してきたところがあったので、大学では技術が高いと思っていたのに、フロンターレのトップチームではその特徴が出せないというもどかしさがあった。
守田 たしかに自分の強みを生かせる、生かせないという違いは大きいかもしれない。自分はもともと技術については「学ぼう」と思って加入しているから、最初からうまくできないこともわかっていた。だから、できないことを気にしていなかったかもしれない。
脇坂 その一方でヒデは、守備で相手からボールを奪えるという特徴は出せていた。できる部分が違うことで、プロ1年目のキャンプから差がついてしまったところはあったように思っています。それがプロ1年目からヒデはリーグ戦に出場して、自分は試合に出られなかった結果につながったと思います。
(中編につづく)
◆守田英正×脇坂泰斗・中編>>同期が互いの成長を実感「海外に行けたのも、俺のおかげ」
【profile】
守田英正(もりた・ひでまさ)
1995年5月10日生まれ、大阪府高槻市出身。金光大阪高→流通経済大を経て、2018年に川崎フロンターレに加入。プロ1年目からボランチでレギュラーの座を掴む。2021年8月、ポルトガルのCDサンタ・クララに完全移籍。2022年7月からスポルティングCPの一員となり、同年9月にはCLデビューを果たす。日本代表デビューは2018年9月のコスタリカ戦。2022年カタールW杯メンバーにも選出。ポジション=MF。身長177cm、体重75kg。
脇坂泰斗(わきざか・やすと)
1995年6月11日生まれ、神奈川県横浜市出身。川崎フロンターレの下部組織出身で、阪南大を経て2018年に川崎に入団。2年目からポジションを確立し、2021年・2022年と2年連続でJリーグベストイレブンに選出される。2022年から「フロンターレのバンディエラ」中村憲剛の背番号14を引き継いだ。日本代表デビューは2021年3月の韓国戦。2022年7月のE-1選手権でも3試合に出場。ポジション=MF。身長173cm、体重69kg。