9試合を消化した時点で15位に沈んでいた川崎フロンターレ。そこから3連勝を飾り5位(勝ち点18)まで順位を上げていた。そのまま上位争いに加わることができるか。5月12日に国立競技場で行なわれたFC東京戦は、川崎の今後を占う意味で重要な一戦と言えた。

 結果は1−2。川崎は後半7分、脇坂泰斗が赤紙退場になったが、10人になってからのほうがむしろいいサッカーをした。FC東京ゴールに迫る回数が増えた。追って届かず。負け方としては悪くなかった。しかし、この敗戦で5勝3分5敗となり順位は10位までに降下。川崎は再び馬群に揉まれることになった。優勝を考えると残りの24試合で、もういくつも負けられない苦境に追い込まれたことは確かである。

 痛かったのは前半12分と25分に許した2失点になる。いずれもの場面にもFC東京の左SBが絡んでいた。

 FC東京の左SBと言えば、一般的にイメージするのは日本代表で長年左SBを務め、カタールW杯でもスタメンを張った長友佑都だ。しかしFC東京では、復帰した当初(2021シーズン)こそ左で起用される機会が多かったが、昨季は右が主戦場で、しかも中村帆高に先発を譲る機会が増えていた。今季は中村がスタメンの地位を完全に確立。長友は右SBのサブに回っていた。

 なぜ本職の左SBに回らないのか。誰もが抱く素朴な疑問だが、それに応える格好となったのが、3月の代表戦に初招集され、コロンビア戦で代表デビューを果たしたバングーナガンデ佳史扶の存在だ。クラブ生え抜きの21歳の若手が台頭したことで長友の出番は減った。

 森保一監督は長友を所属クラブで追い越した選手を代表に招集した。あの長友を超えた選手。バングーナガンデの選出には、衰えが目立つ長友を選び続けた正統性を逆にアピールする狙いもあったのではないかと、つい穿った見方をしたくなる。

 選手の真の力を知っているのは所属クラブの監督だ。FC東京で言えばアルベル監督になるが、この川崎戦でスタメンを飾ったのは、森保監督によって売り出された日本代表選手バングーナガンデではなく、徳元悠平だった。

【初ゴールに続いて初アシスト】

 今季、ファジアーノ岡山から移籍してきた。170センチ、73キロ。小柄な沖縄出身の左利きSBだ。

 バングーナガンデと徳元の出場時間に目を凝らせば、バングーナガンデの先発が7回に対して徳元5回。出場時間は613分対480分(追加タイム含まず)だ。開幕当初こそバングーナガンデ優勢だったが、コロンビア戦でバングーナガンデが負傷し、戦列を離れている間に、左SBとして4試合連続スタメンを飾り、存在感をアピールした。長友が左SBとして出場可能な場合もアルベル監督は徳元を使った。前戦の北海道コンサドーレ札幌戦などは、徳元が左利きにもかかわらず、交代出場ながら右SBとして起用していた。

 川崎戦、左SBとして先発した徳元は12分、初めて土を踏んだ国立の大舞台でさっそくスポットライトを浴びた。


川崎フロンターレ戦でJ1初ゴール&初アシストの活躍を見せた徳元悠平(FC東京)

 右SB長友のクロスが対角である左サイドの深い位置に流れる。そこに徳元と川崎の右ウイング家長昭博が駆け寄った。徳元がボールを保持、家長がプレッシャーをかけようとした時だった。徳元は思いきりよくゴールライン際から深々と切り返す。そこに足を出してきた家長に対し徳元は重心の低さ、下半身の粘りを武器に球際の争いに勝った。そのままゴール方向をルックアップ。おもむろに利き足ではない右足を振り抜くと、インステップにジャストミートしたボールは、気持ちよさそうにサイドネットの右上に吸い込まれた。徳元の記念すべきJ1初ゴールが決まった瞬間だった。

 前半25分、追加点のシーンも主役は徳元だった。準主役はディエゴ・オリヴェイラで、中盤で川崎のアンカー、ジョアン・シミッチからボールを奪うと左に展開。そこに現れたのが徳元だった。利き足である左足を使い、グラウンダーのクロスボールを、ゴール前に測ったように差し込むと、MF安部柊斗がスライディングでこれを川崎ゴールに押し込んだ。拳を掲げ小躍りする徳元。今度はJ1初アシストが決まった瞬間だった。

 那覇西高校から城西国際大へ進み、J3の琉球FC、J2の岡山を経て今季FC東京入りした27歳。遅咲きの開花に立ち会ったという印象だ。

 アルベル監督は後半43分、バングーナガンデをピッチに送り込んだ。交代した相手は徳元ではなく仲川輝人だった。いわゆる戦術的交代でバングーナガンデは左ウイングのポジションに入り、徳元と縦の関係を築くことになった。お洒落な守備固めとはこのことを指す。終盤追い上げた川崎だが、この交代がトドメとなりギブアップした。川崎の大黒柱、右ウイングの家長は輝けぬまま後半30分、ピッチを後にした。
 
 バングーナガンデと徳元の関係はいかに。そして森保監督はこの争いをどう見るのか。こちらのほうも気にしたいものである。