ブライトンの今季34試合目(第36節)の相手は、首位争いでマンチェスター・シティとマッチレースを展開するアーセナル。同日の2時間半前にマンチェスター・シティが勝利していたため、アーセナルにとって絶対に負けられない戦いになっていた。この一戦に目を凝らしたはずのマンチェスター・シティのジュゼップ・グアルディオラ監督は、試合を通して全開になったブライトンの魅力をどう見たか。アーセナルが敗れる姿に安堵する一方で、ブライトンのサッカーに少なからず衝撃を受けたのではないか。

 結果は0−3。終わってみればアウェー、ブライトンの大勝劇だった。スコアのみならず、サッカーの面白さ、娯楽度という点でもブライトンはアーセナルを上回った。蛇足ながら、現在のJ1リーグにブライトンのような魅力溢れる伏兵は存在しない。三笘薫はこの試合でもそこにしっかり絡んでいた。

 もっとも、前半のある時まで別だった。自慢のドリブルを披露するシーンはゼロだった。右ウイングとしてピッチに立っていたことと、それは密接な関係にある。流れの中で右に回った三笘を見たことはあるが、スタートから右に立つ三笘を見るのはこれが初めてである。


アーセナル戦にフル出場、勝利に貢献した三笘薫(ブライトン)

 三笘は左ウイングで構えた時、ほぼ右足1本でプレーする。左足を使う機会は切り返しを行なう際に限られる。右ウイングで構えた時、左と同じ抜き方をしようとすれば、左足のインサイドでボールを押し込んでいく必要がある。他方、右足1本で縦抜けを図ろうとすれば、伊東純也なみの爆発的なスピードが必要になる。いずれも難しい注文であることにあらためて気づかされることになった。

 右では三笘の魅力は全開にならない。左の比ではないことが鮮明になったのは、前半36分のシーンだった。その30秒前、右から左にポジションを変えていた三笘の前方に、弱冠20歳のセンターバック(CB)、レビ・コルウィルから縦パスが送られた。ライン際を併走する相手サイドバック(SB)ベン・ホワイトに走り勝つと、三笘は自らのスタイルに持ち込み、この試合初めて1対1に臨んだ。内に切り返すと見せかけた瞬間だった。右足のインサイドでグイと縦にボールを持ち出すと、ベン・ホワイトはすっかり翻弄されていた。逆モーションとなり置いていかれた。

【ブライトンの左対アーセナルの右】

 三笘は自慢の縦抜けを決めると、左にゴールラインを見ながら深々と切れ込み、マイナスに折り返した。パラグアイ代表の19歳、フリオ・エンシーソがシュートに持ち込むもふかしてしまったが、このシーンが両軍を通じて最初に訪れた決定機で、立役者となったのが左に回ったばかりの三笘であるという事実に、その特性と貴重さが浮き彫りになった。

 三笘対ベン・ホワイトが再度対峙したのは後半の5分。起点となったのはまたしてもCBコルウィルで、そのロングフィードに呼応するように三笘はライン際を疾走した。ベン・ホワイトに走り勝ち、ボールを保持すると三笘は再び1対1を仕掛けた。

 縦に行くと見せかけて内に切り返し、また縦に行くと見せかけて深々と切り返した。ベン・ホワイトが三笘のフェイントにかかりやすい体質だったのか。三笘のフェイントがやはり強烈なのか。ベン・ホワイトが三笘に翻弄される間隙を縫うように、背後の大外を走ったエクアドル代表の左SBペルビス・エストゥピニャンのその鼻先に、三笘はタイミングよくパスを流した。その折り返しはDFに一度は跳ね返されるも、リバウンドがもう一度エストゥピニャンに前にこぼれると、すかさず敢行した2度目の折り返しが先制点のアシストとなった。ゴール前に詰めたのはエンシーソ。前半35分の借りを返した格好だった。

 左ウイングに回った三苫にボールが出るや、2回続けて決定的なチャンスが生まれ、そのうち1回はゴールに直結した。そしてそれをきっかけに流れはブライトンに移行した。アーセナルの敗因は左に回った三笘にあり。つまりマンチェスター・シティの逆転優勝が確実になった背景に三笘あり、である。

 言い換えれば、ブライトンの左サイド対アーセナルの右サイドの2対2の関係でブライトンは勝利したことになる。

 アーセナルの右ウイングは、イングランド代表のブカヨ・サカ。三笘を上回る技巧派である。実際、この試合でも見事なドリブル、惜しいシュートを飛ばしていた。だが、それでもエストゥピニャンは専守防衛に陥らなかった。三笘の背後を駆け上がり、2人がかりで左サイドを崩そうとした。

 片やベン・ホワイトは後方待機を余儀なくされた。サカをサポートすることはできなかった。技巧をベースにした個人能力の高さでサカは見る者を唸らせたが、孤立していたことも事実。アーセナルの敗因のひとつと言ってもいいだろう。ちなみにベン・ホワイトは負傷で戦列を離脱している冨安健洋のライバルでもある。冨安対三笘が見たかったとは正直な気持ちだ。

 ブライトンはこの勝利で6位(勝ち点58)に浮上。ヨーロッパリーグ(EL)出場圏内に飛び込んだ。次戦は勝ち点差8の3位(勝ち点66)のニューカッスルとの一戦である。ニューカッスルのほうが、消化試合がひとつ多いので、実際は8差以下と見ていい。ブライトンが残り4試合全勝で乗り切れば勝ち点は70まで伸びる。ニューカッスルが残り3試合を1勝2敗なら逆転となる。4位(勝ち点66)のマンチェスター・ユナイテッドとの比較では、得失差でブライトンが勝っているので、マンUが1勝1分1敗の場合でも逆転可能だ。

 ブライトンにとって難敵は最後から2試合目のマンチェスター・シティ戦だが、その時までに同チームは優勝を決めていて、彼らにとってこの一戦が消化試合になっている可能性が高い。チャンピオンズリーグ圏内(4位以内)に飛び込む可能性はゼロではないのである。カギを握るのは三笘。ブライトンの4連勝に期待したい。