Jリーグ30周年にあたり、日本屈指のサッカーマニアでお馴染みの平畠啓史さんがJリーグのマスコットの活躍の歴史を解説。「世界に通用する日本のサッカー文化」というマスコットの世界は、楽しく進化している。

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Jリーグ30周年。これまで多くのマスコットが誕生し、活躍している

【Jリーグのマスコットは世界に通用するサッカー文化】

――平畠さんはJリーグのマスコットが果たしてきた役割について、どう考えていますか?

 まず、日本のマスコットのレベルの高さですよね。

 大リーグやヨーロッパのサッカー、オリンピックなどの世界大会を見ても、マスコットが残念だったりすることが多いじゃないですか。ただの獣だったり、おどろおどろしい感じだったり。日本のマスコットはJリーグに限らず、すごくレベルが高いですよね。Jリーグのマスコットは世界に通用すると思っていて、それは日本のサッカー文化のひとつだと思います。

 日本で災害、あるいはコロナで大変だった時にマスコットがすごく活躍してくれましたよね。たとえば無観客試合の時にFC琉球ではジンベーニョがバックスタンドで応援していたり、あるいは大分トリニータでは80cmの巨大ぬいぐるみニータンが空いている席を埋めてくれたり。

 単にチームのマスコットということではない、枠を超えた存在ですよね。実はこれってJリーグをものすごく支えているんじゃないかと、僕は思っています。

――Jリーグの歴史のなかで、どんどん存在が大きくなってきている気がします。

 Jリーグは地域貢献をすごく大事にしていますが、その地域貢献でもマスコットは大活躍ですよね。試合の日だけじゃなく、試合以外の日も活躍しているんですよ。試合のない日のほうが多いわけですから、これはとても重要なことです。

 地域の幼稚園に行ったり、特別養護老人ホームに行ったり、そういうことでクラブと地域をつなぐ役割をしてくれています。もちろん選手が行っても喜ばれますが、マスコットが行くことでもその役割を大きく果たしてくれていると思いますね。

――平畠さんとマスコットの出会いについて教えてください。

 大学生時代に、イベント会社でアルバイトをしていて、音響をやったりヒーローショーの裏方をやったりしていたんですね。そのなかでいわゆるぬいぐるみについていって、スーパーで風船配ったりするのを手伝ったりしていたんですよ。だからマスコットとのつき合いは非常に長いんです。

 僕はマスコットにはマスコットとして話しかけるんですよね、人間としてではなく。たまにスタッフの人でマスコットに「ごめん、もうちょい右行ってくれる?」とか言う人がいます。僕はそれは絶対やっちゃだめだと思っていて「じゃあニータンもうちょいうしろに行こうか」とか「ブラウゴン元気?」って話しかけるんです。ニータンとして、ブラウゴン(ブラウブリッツ秋田)として話しかけています。

 元々ぬいぐるみがすごい好きだとかそういうわけじゃなくて、イベントのアルバイトの基礎として教えられたことで身についています。だから僕のなかで染みついたもので、傍から見たら「この50歳のおっさんニータンとじゃれとるで」とイタい感じに見えるかもしれませんが、僕のなかでは染みついたものなのでこれが普通なんです。

【個性豊かなマスコットたち】

――Jリーグのマスコットを最初に見た時はどんな感想を持ちましたか。

 最初に見た時から30年経った今でも、グランパスくん(名古屋グランパス)やパルちゃん(清水エスパルス)は鮮度が全く変わってないのがすごいですよね。建物でも30年経ったら老朽化したりしますが、マスコットたちは全然鮮度が落ちない。

 あと、30年経ってどんどん仲間が増えていってるのもすごい。グランパスくんには、グランパコちゃん、グランパスくんJr.、グララちゃんがいます。パルちゃんには、こパルちゃんがいて、ピカルちゃんという彼女もできました。仲間が増えたり、マスコットのなかでどんどん展開していってるストーリーも、Jリーグの歴史のおもしろさのひとつだと思っています。

 オリジナル10で言うと、マリノス君(横浜F・マリノス)がいつもベンチの横で選手たちと一緒に座っていて500試合を達成した。それって大偉業ですよね。これ、Jリーグ的に言えばJリーグアウォーズで功労賞の表彰されるぐらいの試合数なんですよ。マリノスの歴史で何かわからないことあったら、マリノス君に話を聞くのが一番早いのかなって(笑)。

――オリジナル10のマスコットたちはアメコミタッチというか、アメリカンスポーツのマスコットっぽいところがありましたよね。近年は日本らしいマスコットというか、本当にかわいいマスコットが増えました。

 日本でゆるキャラがたくさんできてから、また少し流れが変わった感じがします。丸みを帯びたかわいいマスコットが増えました。

 ヴィヴィくん(V・ファーレン長崎)やニータンはその代表格でしょうか、文句なしにかわいい。ヴィヴィくんは長崎のスタッフもちゃんとみんなヴィヴィくんとして接しているところが非常にいいなと思っています。スタッフが全然業務っぽい感じを出していない。それが僕は大好きです。

 さらにヴィヴィくんにはチャントもあって、試合前にサポーターのチャントでヴィヴィくんが飛び跳ねてる光景はサッカーに興味がない人でも、平和でよい光景だなと感じると思います。

 ニータンは動きがすごくのろまで、台車で運ばれたりします。マスコット界や人間界でも動きが遅いことはデメリットと思われがちですよね。でもニータンはのろまなのがニータンのかわいさを生み出しています。それが泣けてくる。

 マイナスなことも特徴になるよって、人間界に訴えてくれてるなと思うんですよ。学生の時に足が遅いとか、背が低いとかって悩むことあるじゃないですか、でもニータンを見てください、そういうのが特徴になってみんなに愛されていますよと。だからニータンは本当に深いなって思います。

 ニータンの大きいぬいぐるみを、サポーターがスタジアムに連れて行ってるじゃないですか。あれは、もう一人分の席代を払う必要があるんですよね。一人分というかニータン分ですね。それをやっているサポーターの気持ちって、本当にすごいなって思います。

――ニータンはマスコット界でも存在感が大きいですよね。

 ニータンがAKB48の『恋するフォーチュンクッキー』のMVに出た時はめちゃくちゃうれしかったですよね! あれって大分トリニータのファン・サポーターだけじゃなくて、Jリーグファンはみんなうれしかったんじゃないかなと。

 個人的なことを言うと、ニータンの写真集は自分で買っています。関係者やニータンからもらうとかではなく、ネットで申し込んで買いました。大分の練習場に行った時にそれにサインをもらいました(笑)。

――完全にガチ勢じゃないですか(笑)。

 自分でもちょっとイタいとは思っています。でもマスコットを前にした時ってやっぱり童心に帰れるんですよね。

【マスコットの曲を作ってほしい】

――マスコットのキャラクターは、Jリーグの歴史のなかでどんどん濃くなっていきましたよね。

 マスコットの内面が特徴的なのは、ベガッ太(ベガルタ仙台)やヴァンくん(ヴァンフォーレ甲府)やヴォルタくん(徳島ヴォルティス)たちですよね。マスコットの所作やキャラクターが特徴的で、そういうマスコットがいるのは本当に面白いなって思います。そういうのが定着してきて、ベガッ太には、いたずらされてもなんか笑えるんですよね。

――確かに2000年代に入ってから、よりマスコットたちのキャラが強くなっていった気がします。

 エポックメイキングだったのは、キヅール(いわてグルージャ盛岡)ですよね。マスコット業界の革命ですよ。あの直線的なフォルム!

 先にイラストでキヅールを見ていていざ立体化させますという話になった時、みんながそれぞれ妄想していたなかで、実際にお披露目までの期待感を作っていく流れもすばらしかった! そしていざキヅールがお披露目された時の衝撃! 羽の広がりや背の高さは、ゆるキャラの概念のまったく逆を行く感じで出てきたのが、Jリーグの歴史のなかでも革命的だったと思うんです。

 キヅールに初めて会った時は、めちゃくちゃうれしかったのを覚えています。もはや神々しくて、ひれ伏してしまいそうな感じでした。キヅールは足も速いしボールも蹴れる意外性も持っている。ちゃんと盛岡藩主南部氏の家紋の歴史も踏まえているということもすばらしいですよね。

――今後のマスコットに期待していることがあれば教えてください。

 ブラウブリッツ秋田と大分トリニータの試合で、どちらもダイハツがスポンサーということで、ダイハツのカクカクシカジカがブラウブリッツ秋田に加入するというニュースが出てましたよね。

 Jリーグのマスコット同士で戯れるのもいいですし、外部のマスコットと触れ合うのもいいなあって思うんです。違うスポーツのマスコットと触れ合うのもいいと思いますし、誰かミュージシャンのライブに出演したりしてもいいですよね。そうすることで初めてJリーグのマスコットを見る人たちも増えて、そこからJリーグに興味をもってくれる人が増えていったらいいなぁというのがあります。

 マスコットがいないクラブもありますが、無理して作る必要もないと思います。でもいろんな仲間が増えていったらうれしいですよね。一平くんのように非公認もいいと思います(笑)。サポーターが勝手に考えたマスコットに変装して、応援するとかもありなんじゃないでしょうか。

――私はマスコットに『マジ歌選手権』をやってほしいなと思っています。既存の曲を歌うフリをしたり、手拍子を叩くだけでもマスコットって味が出せるじゃないですか。

 僕は、アーティストの誰かにJリーグのマスコットの曲を作ってほしいなって思うんです。それに全マスコット統一の振り付けがあるといいなと。既存の曲ではなくて、Jリーグのマスコットだけが踊れる曲を作って、ふだんはそれぞれで踊っているんだけど、スーパーカップのような時にみんなで一緒に踊る。

 今、僕はマスコット運動会にも関わっているので、そういうのはやってほしいなって思うんです。それがあれば地域の幼稚園に行った時などに一緒に踊れますよね。そうやってファンを増やしていくことも大事かなと。

平畠啓史 
ひらはた・けいじ/1968年8月14日生まれ。大阪府出身。芸能界随一のサッカー通として知られ、サッカー愛溢れる語り口が人気で、多くのサッカー関連番組に出演中。「平畠啓史Jリーグ56クラブ巡礼2020 日本全国56人に会ってきた」(ヨシモトブックス)など、サッカー関連の著書も多い。