川崎フロンターレから消えた「怖さ」 反発力を失った元王者の姿に寂しさを覚えた
J1第13節、FC東京vs川崎フロンターレ。Jリーグ30周年記念マッチとして新国立競技場で行なわれたその試合は、ホームのFC東京が川崎を2−1で下した。
FC東京にとって川崎は、2019年シーズンの第1節で引き分けたのを最後に、リーグ戦7連敗中の天敵。そんな"多摩川クラシコ"のライバルから5年ぶりのリーグ戦勝利を手にしたのである。
しかもFC東京は、新国立競技場で行なったホームゲームで昨季から4戦全勝。
「この新国立競技場は、我々にとって魔法があるような場所だ」
アルベル監督が、うれしそうに話すのも無理はない。
しかしながら、ホームチームの歓喜に水を差すわけではないが、この試合で目立ったのはFC東京の出来がどうこうよりも、負けた川崎の元気のなさである。
特に試合序盤は、パスミスが続出。短い距離のパスがズレてしまう。見え見えのパスを狙われてしまう。そんな単純なプレーでボールを失うシーンが相次いだ。
結果、ショートパスがつなげなくなり、次第にロングボールが増えていくのだが、「(ロングボールのあとの)セカンドボールに顔を出す反応が悪く、そこで相手が上回っていた」とは、川崎の鬼木達監督の弁だ。
「相手のプレッシャーに対して、背後へ(ロングボールを)送る狙いもあったが、相手は本当に(プレッシャーに)来ているのかどうか。その判断の下でやれていたのか。ボールを動かせるシーンでも、長いボールが多かった」
相性のいいFC東京相手に1−2で敗れた川崎フロンターレ
前半25分までにFC東京が奪った2ゴールは、シュートそのものや、そこに至るプレーに関してはすばらしいものだった。加えて、DF徳元悠平が決めた先制点は、彼にとって記念すべきJ1初ゴール。今季新加入選手の活躍が、チームを勢いづけたことは間違いない。
だとしても、試合全体のリズムや流れを考えると、川崎が自滅していた印象は否めない。
鬼木監督が語る。
「自分たちらしさを出したかったが、前半の2失点が重くのしかかった。もっともっと(試合の)スタートからアグレッシブに行かなければいけなかった」
4度のJ1制覇を知る指揮官は、「それができなかったのは、自分の力不足」と続けたが、理由はともあれ、川崎の選手たちに、どこか淡白で気が抜けたようなプレーが目についたのは確かだった。
とはいえ、川崎が栄華を誇った頃を振り返っても、すべての試合で90分間、完全無欠の試合をしていたわけではない。むしろ、相手にリードされたあとにこそ、牙をむくのが川崎の怖さだった。
それを考えると、川崎の不振をより一層強調したのは、ここからの展開だったかもしれない。
前半25分までにまさかの2失点を喫した川崎だったが、その後は少しずつ本来のリズムを取り戻し始めていた。ボールをリズムよく動かして相手を押し込み、ニアゾーンを攻略してゴール前でのチャンスにつなげる。そんな形が連続して見られるようになっていた。
そして生まれた追撃のゴール。前半39分、MF瀬古樹からのパスを受けたFW宮代大聖は、そのままペナルティーエリア内に進入。鋭い切り返しで目の前のDFをズラすと、わずかに開いたコースを見逃さず、強烈なシュートをゴールに叩き込んだ。
ようやく川崎が目を覚まし始めたなかで生まれた会心のゴール。これで川崎は完全に主導権を握れる、はずだった。
ところが、試合の流れはハーフタイムを挟み、後半開始から再び一進一退、いや、どちらかと言えば、FC東京に引き戻されてしまう。
確かに後半52分、MF脇坂泰斗が退場となったのは痛かった。最後まで11人対11人で戦えていれば、試合はどうなっていたかわからない。
だが、裏を返せば、悪い流れだったからこそ、脇坂は無理に足を伸ばさなければいけなかった(それが危険なプレーと判断され、レッドカードを受けた)とも言える。もしも本当にリズムよくボールを動かし、主導権を握ることができていたのなら、仮にこのアクシデントがあったとしても、川崎は追いつくことができていたかもしれない。
試合全体を俯瞰すれば、試合の流れは、脇坂の退場をきっかけに突然大きく変わったわけではなかった。
「退場があったが、追いつきたかった。ひとり少なくても追いつける状況まで持っていきたかった」
鬼木監督もそう語っていたが、指揮官が最も物足りなさを感じていたのも、2点を失ったこと以上に、その後の反発力だったかもしれない。
川崎が圧倒的な強さを誇った数年前、何よりその強さを実感させられたのは、相手にリードを許した試合だった。たとえリードされようと、1点を返せば相手は恐怖に怯え、川崎はここぞとばかりに畳み掛けるような攻撃を仕掛ける。
気がつけば逆転。そんな試合が少なくなかった。
当時は潤沢な戦力を抱え、三笘薫ほどの選手がベンチにいることまであったのだから、負傷者続出の今季とは比べものにならないと言ってしまえばそれまでだが、今の川崎に往時の迫力は感じられない。
結局、前節まで続いた連勝は3でストップ。優勝候補がようやく目を覚ましたかと思われたのも束の間、またしても白星と黒星が同じ数だけ並んでしまった。
シーズンは長い。さすがに、このままでは終わるまい――。
そうは思いつつも、かつての憎らしいまでの強さを思い出すにつけ、元J1王者の姿に寂しさを覚えずにはいられない。