石毛宏典から見た今季の西武 投手編

 2022年シーズン、リーグトップのチーム防御率(2.75)を誇った西武。今シーズンも郄橋光成や今井達也、先発に転向した平良海馬らが快投を見せ、リーグ2位のチーム防御率(2.90/5月11日時点。以下同))と高い前評判通りの力を見せている。

 1980年代中盤〜1990年代中盤の西武黄金時代、長らくチームリーダーとして常勝軍団を牽引した石毛宏典氏は、そんな先発投手陣をどう見ているのか。郄橋と今井の「チームロン毛」の印象についても併せて聞いた。


先発投手陣をけん引する、「チームロン毛」の郄橋(左)と今井

【郄橋は「ポテンシャルが数字に表れてきた」】

――西武は特に先発ピッチャー陣の安定感が際立っています。ここまでをどう見ていますか?

石毛宏典(以下:石毛) 郄橋光成がいいですね。4月22日のオリックス戦では山本由伸と投げ合って完投勝利を挙げたり、頼もしさが増してきました。確か、その試合では最後に投げた球が自己最速(157km)でしたよね。集中力や馬力を感じますし、強気で攻めていく姿勢もよかったと思います。

――防御率はリーグ2位の1.50。QS率は83.3と素晴らしい働きを見せています。

石毛 先発ローテーションの柱になってから、実質5年目くらいですよね。ここ数年で、「エースとしてチームを引っ張っていかないといけない」という自覚が芽生えているはずです。この世界は成績を残した分だけ給料が上がりますし、「頑張ればこうなる」ということも身をもって理解したでしょうしね。

 体が大きいですし、ナベちゃん(渡辺久信/現西武GM)に言わせると、いろいろと運動能力も高いらしいです。そうしたポテンシャルが、ようやく数字になって表れてきたということでしょうね。

――今シーズンから、左足をがに股のように上げ、そのまま踏み出していく投球フォームを取り入れています。

石毛 キャンプの時から取り組んでいましたが、しっくりきているように見えます。そのフォームによって球のキレがよくなる、制球できる、といった効果があるんでしょうね。ただ、大事なのは「足をどう上げるか?」よりも、踏み出す足が地面についた時のポジションだと思います。

 その位置によって体の動きも変わってくるでしょうから、それがうまくいっているなら、形はどんなものでもいい。バッターでも、いい打者ほどトップが安定しているものですが、いいピッチャーも自分の形を持っているものですからね。

【今井、平良も好評価。一方で話題のロン毛には「反対」】

――7年目の今井達也投手も、5月9日のロッテ戦では6失点で負け投手になりましたが、5試合を投げて3勝1敗、防御率2.67と安定したピッチングを見せています。一方、与四球が多くなる試合もあるなど制球面で課題が見えますね。

石毛 四球が多いのは困りますが、今井の場合は、少しコースがバラついてもいいんじゃないかと。あれだけ威力のある球を投げるわけですし、高めの真っ直ぐで空振りがとれる。彼の真っ直ぐを見ていると、僕らが一緒にプレーしていた渡辺智男(とみお/西武、ダイエー)の真っ直ぐを思い出します。

 当時の審判に聞いたことがあるのですが、渡辺智男の真っ直ぐはバッター目線で見ると、ボールがウワッと大きくなるような感じらしいんです。実際にバッターボックスに立っていないのではっきりとは言えませんが、今井もそういう球筋なんじゃないかと。辻(発彦/前西武監督)も「今井の球筋はいい」と期待していましたが、やはり非凡なものを感じさせるピッチャーです。

――今シーズンから先発に転向した平良海馬投手はいかがですか?

石毛 リリーフの時は真っ直ぐの割合が多くて、スライダーとスプリットとのコンビネーションという感じでしたが、先発になって真っ直ぐの割合が減りましたね。その代わり、カーブやツーシームを織り交ぜているピッチングですが、いい具合にモデルチェンジできています。

 先発であれば6、7回くらいまで投げなきゃいけないということで、力の配分をするべきだと考えたんでしょうね。先日は、登板機会を1回飛ばして休ませたりしていましたが、先発ローテーションを守る先発ピッチャーとして、シーズンをどう乗りきっていくかが今後の課題になると思います。

――平良投手の今後の投球も注目ですが、先発陣の核はやはり郄橋投手や今井投手になりそうですね。

石毛 郄橋にしろ今井にしろ、努力や成長はもちろん認めています。ただ、あのロン毛に関しては......自分としては反対です。「エースの自覚って何?」となった時に、「勝てばいい」と言うこともできるでしょうが、マウンドやベンチにいる姿などはカメラに抜かれて多くのファンに見られるわけで、そういう目を意識してほしいなと思うんです。

 ファンあってのプロ野球選手。ある面では子どもたちに夢を持たせ、子どもたちが憧れる商売でもあるわけで。自分の考え方が古いのかもわかりませんし、あくまで個人的な意見なのですが......。

――個性的な髪型やファッションにはどうしても賛否がありますが、活躍に伴ってその選手のトレードマークになってくる側面もあるように思います。

石毛 勝っている時はいいでしょうし、「まあ、しょうがないか」と思われるかもしれませんが、負け出すと「あんな髪型にしているから......」ともなってくるわけです。状況によってさまざまな意見が出てくると思いますが、声なき声を受けとめられるような人間であってほしいなと思います。

(野手編:外崎修汰の復活の理由、「1番固定」に期待の愛斗に足りない部分も語った>>)

【プロフィール】
石毛宏典(いしげ・ひろみち)

1956年 9月22日生まれ、千葉県出身。駒澤大学、プリンスホテルを経て1980年ドラフト1位で西武に入団。黄金時代のチームリーダーとして活躍する。1994年にFA権を行使してダイエーに移籍。1996年限りで引退し、ダイエーの2軍監督、オリックスの監督を歴任する。2004年には独立リーグの四国アイランドリーグを創設。同リーグコミッショナーを経て、2008年より四国・九州アイランド リーグの「愛媛マンダリンパイレーツ」のシニア・チームアドバイザーを務めた。そのほか、指導者やプロ野球解説者など幅広く活躍している。