介護負担倍増計画も…岸田首相目論む「増税でも老後は自助努力の未来」
「12月16日、『令和5年度税制改正大綱』が発表されました。実施時期は未定とされましたが、防衛費を確保するため、一部企業の法人税の引き上げ、納税者全員に関わる復興税の“転用”、たばこ税増税などが明記されています。さらに、相続税に関しても実質的な増税の方針が示されました。代わりに、リスクのある株式運用を非課税で行うNISAの拡充が。つまり、増税はするけれども、お金がない人も個人資産や老後資金は『自助努力』でどうにかしなさいという方針に感じます」
こう解説するのは、経済評論家の平野和之さんだ。「税制改正大綱」とはどのようなものなのだろうか。WEBメディアで税に関する連載も行っている税理士の板山翔さんが解説する。
「政府与党が作成する、今後の税制改正の羅針盤、つまりたたき台のようなものです。この税制改正大綱に沿った形で、1月から各省庁で改正法案がまとめられ、3月まで国会審議が行われます。国会で賛否が分かれるものは翌年以降に先送りされることもありますが、多くがそのまま実現しているのが現状です」
■相続税の実質的な増税に
税制改正大綱には“防衛増税”のほかに、相続税と贈与税の実質的な“増税”が記されている。
「親が子供の相続税の負担を軽くしたい場合など、贈与税がかからない年間110万円以下の範囲で、毎年、贈与を繰り返すことがあります」(板山さん)
たとえば、子供2人に、毎年110万円ずつ、10年贈与し続けると、2200万円が無税で贈与できる。法定相続人が2人であれば、相続財産が4200万円を超えると、相続税がかかってくるが……。
「現行では、財産を贈る側が死亡した場合、亡くなる前の3年分の贈与額が相続税の課税対象として加算されます。この例だと、1人あたり330万円が課税対象になり、税率10%で相続税が発生する場合、生前の贈与に対して払う税額は33万円です。ところが今回の税制改正大綱では、加算期間を7年に拡大することが提言されています。この場合、770万円が相続税の加算対象になります。延長された4年間の贈与のうち、100万円が控除できるため、加算対象となるのは670万円ですが、それでも税率10%とすると税額は67万円と、倍増してしまうのです」(板山さん)
今回発表された税制改正大綱はあくまでもこれからの税に関わるもの。すでに実施が決定している増税や、別の場所で議論されている社会保障費の引き上げなど、私たちの負担増はこれだけでは済まないという。
■介護費用「倍増計画」も議論されている
たとえば、パート労働者の負担の拡大も予定されている。現在、月収8.8万円(年収約106万円)以上、週の労働時間が20時間以上、勤務先の従業員数が101人以上などの一定条件を満たすと、社会保険に加入し、厚生年金や健康保険料を支払わなくてはならない。
「2024年10月からは、新たに『従業員数が51人以上』となり、対象者が増えます。これまで年収106万円だった人の所得税や住民税は年間1万円以下でしたが、社会保険に加入すると、給与の15%近くにおよぶ社会保険料負担が増え、年間約15万円も手取りが少なくなります。もちろん、将来の厚生年金が上乗せされますが、明らかに負担増と言えるでしょう」(板山さん)
現役世代だけではなく、高齢者を狙い撃ちにしたものも。生活経済ジャーナリストの柏木理佳さんはこう解説する。
「2024年度から、後期高齢者(75歳以上)の医療保険料の上限が段階的に引き上げられます。それに伴い払う保険料も上がっていきます。現在は平均で1人当たり年間約8万2000円の保険料だったのが、2024年度には約8万6千円、2025年度には約8万7千円に」
医療だけでなく、介護でも負担増の流れが。
「一定の所得のある65歳以上の高齢者の介護保険料の見直し案が、2024年度の改正に向けて審議されることになりそうです。さらに影響が大きそうなのが、2024年度から介護サービス利用料の2割負担の対象者を拡大しようとする動きです」(柏木さん)
所得に応じて自己負担割合は違うが、現在、約8割の人の自己負担割合は1割になっている。要介護1だと1カ月あたりの介護費用支給限度額は16万7650円。介護サービスを上限まで利用した場合、負担割合が1割だと自己負担額1万6765円で済むのに対し、2割となれば、倍の3万3530円を負担することになる。介護関係者はこう警告する。
「介護財源が逼迫しており、そもそも介護認定を取ることが厳しくなっています。保険料ばかり上がって、サービスは受けられないという状況になりかねません」
■“自助努力”の土壌ばかり整備されていく
生活は苦しくなるばかりだが、今後も増税は続く可能性が高いと、前出の平野さんは指摘する。
「所得のうち、税金と社会保障費が占める割合である国民負担率は、現在は46%ほどです。しかし、早晩に50%を超えることは確実。IMF(国際通貨基金)は『’30年までに消費税を15%に』と過去に提言しています。財務省に近い岸田首相は、在任中に消費税15%への道筋を作るのではないでしょうか」
一方でNISAの投資上限額は拡大され、非課税期間の上限も撤廃される見込み。すでにiDeCoも加入要件の緩和は行われており、4月からの生命保険料控除の拡大も議論されるなど、“自助努力”の後押しだけは進んでいる。“お金はとるけれど、老後は自助で”というのは、あまりに身勝手な話ではないかーー。