渋谷スクランブルスクエア13階から見える景観が人気のうどん専門店「つるとんたん UDON NOODLE Brasserie 渋谷」。発売当初はまだ洋風アレンジが珍しかった「明太クリームのおうどん」(1430円)はつるとんたんの特徴的なメニュー(撮影:尾形文繁)

渋谷スクランブルスクエア13階の飲食店フロアに、若者が行列を成す店がある。うどん専門店「つるとんたん」に連なる「つるとんたん UDON NOODLE Brasserie 渋谷」だ。

33年前、大阪宗右衛門町に1号店を構え東京、大阪、海外に18店舗を展開するに至った同店。2005年にオープンした六本木店は芸能人御用達の店として、また「予約のとれないうどん店」として名をはせた。

今も若者の間で人気の理由

運営するのはカトープレジャーグループ。レストランのほかホテルやリゾート、エンターテインメント、リバークルーズなど事業内容は幅広く、年商250億を売り上げる企業だ。しかしつるとんたんは代表取締役の加藤友康氏が20代で初めて興した事業。つまりつるとんたんの成功がグループの拡大につながったとも言える。

そのつるとんたんが今も、若者の間で人気の店となっている。

渋谷店に関しては、種明かししてみれば何のことはない。渋谷スクランブルスクエアの上階で、足元までのガラス張りから、渋谷の街を見渡せる景観の良さを誇る同店。客席もゆったりとつくられている。

ランチタイムなど、よほど行列が長くできて客が待っている場合は2時間ぐらいで声をかけることもあるが、滞在時間を制限してはいないという。

うどん1杯千数百円の注文でも景色や上質な空間を味わえるとあって、財布の寂しい若者でもデートなどで利用しやすいわけである。

カトープレジャーグループによると、実際につるとんたんの中でも、渋谷の店舗はとくに客層が若いという。


うどん専門店「つるとんたん UDON NOODLE Brasserie 渋谷」。ランチ、ディナー時間帯ともに行列が絶えない店だ(撮影:尾形文繁)

ただ、渋谷スクランブルスクエアの13階にはほかに、天ぷらや寿司、中国料理、イタリアンなどが入居しており、とくにイタリアンなどは価格帯も1000〜3000円。若者にも利用しやすそうだが、つるとんたんのように行列ができるまでには至っていないようだ。

同チェーンが古びることなく客の心を捉える理由はどこにあるのだろうか。

2玉まで無料で追加できる

まずつるとんたんの特徴からひもといていこう。


手前右が定番の「明太子クリームのおうどん」1430円、手前左が「大判きつねのおうどん」880円。奥は渋谷店の季節限定メニューで、右が「鶏龍田揚げ 柚子ぽん酢酸辣湯のおうどん」1680円、左が「ガーリックバター香るきのことミートソースのおうどん」1580円(撮影:尾形文繁)

讃岐うどんにルーツを発するコシのある手打ち麺。これに、大阪のだし文化を組み合わせたのがつるとんたんのうどんだ。基本的に工場などではなくそれぞれの店舗で生地を打ち、切りたて、ゆがきたてで提供するのが特徴。渋谷店に関しては店舗スペースの関係で、六本木店で仕込んだ生地を運び、さらに渋谷店で打っているそうだ。

麺にコシがあるだけでなく1本1本が長いので、蕎麦のように一気にすすり込むのは難しい。少しずつたぐりながら途中で噛みきる食べ方が向いている。

こうした食べにくさも含めて楽しむ客もいるだろうが、若い「通」の間では、「細麺を1.5玉か2玉」という注文の仕方が定番のようだ。同店ではうどんを2玉まで無料で追加できるので、細麺にして物足りなくなる分、量を増やすということらしい。

また、洋とのコラボレーションも特徴に挙げられる。カトープレジャーグループは洋食のレストランも抱えていたことから発想を広げ、クリームなどを使ったメニューを考案。今も定番メニューとなっている「明太子クリームのおうどん」もその1つだ。

うどんのほかに酒のつまみとなるアラカルト料理やコース料理も提供する。予約も受け付けているが、4500円〜のコース料理の注文が条件。並ぶ人が多くなる理由の1つでもあるだろう。


コース予約のみで利用できる個室は2面がガラス張りになっている(撮影:尾形文繁)

客単価は昼なら千数百円、夜は6000円程度だ。

接待や会食での利用も多く、コロナ前はインバウンド客からも人気があった。食事だけでもよし、お酒の席にも対応できるなど、用途が幅広いのが持続的な集客力につながっているのだろう。

コロナ禍でも客足がそれほど落ちなかった

また立地や、接客を含めた店舗空間も単価6000円を基準として設計されていることになる。うどんだけを食べる若者からも「コスパがよい」と支持される所以だ。ただ、昼にうどんを食べた客でも、味や雰囲気がよければ「夜も行ってみたい」と考えるだろう。つまりうどんメニューは、居酒屋が行うランチ営業のような客寄せの役割も果たしていることになる。

なお、従来はグループ全体で年商250億円だったところ、2021年は190億円程度に落ち込むなど、コロナの影響を大きく受けた。その中で、つるとんたんはうどんというメニューの特性上、食事利用という位置づけが功を奏したようだ。立地により影響を受けた店舗はあるが、渋谷の店舗についてはコロナ禍でも客足がそれほど落ちなかったという。

同店を特徴づけているのが、料理のほか接客や空間デザイン、音楽、香りなどを含む総合的なオペレーションだ。というのも、つるとんたんでは18店舗それぞれ立地に合わせたコンセプトを設定している。例えば歌舞伎町の店舗はライブがコンセプト。ライブステージやバーカウンターを設け、ライブを楽しみながら食事ができる。


渋谷店のコンセプトは次世代カルチャー。柱にデジタルサイネージが設置され、渋谷のスクランブル交差点の風景を映し出す。DJが使うような音楽機材も渋谷らしさを演出(撮影:尾形文繁)

軽井沢にある店舗は初のリゾート型店舗として、ペット同伴可の客席やバーベキュースペースを設ける。暖炉も設えられるなど、うどん店とは思えないゴージャスさだ。

食器も凝っており、例えばうどんの器は持ち上げられないほど巨大だ。

インスタグラムでの露出の多さは、とくに若者にとってポイントが高い。料理と器のデザイン性も、若い客層を惹きつける理由になっているのだろう。

加藤氏によると、これらの全体的なオペレーション品質を維持するため、ブランド立ち上げの時点で店舗数の限度を決めるという。

「店舗はオペレーションが命。しかし店舗というものは、オープン直後から劣化が始まっていくもの。オペレーション品質を維持するため、立ち上げ時に想定している規模感を守り、それ以上には広げないようにしている」(加藤氏)

この考え方を加藤氏は「ブランディング・スケール」と呼んでおり、グループが運営するすべての事業において貫いているそうだ。店舗を加藤氏自身が実際に見回り、オペレーションをチェックするほか、会員数20万人を数えるカスタマークラブからの声をもとにブラッシュアップするという。

創業者のデザインどおりに運営が行われている

以上、つるとんたんが長きにわたり集客力を維持できる理由について見てきた。まとめると、創業者である加藤氏のデザインどおりに運営が行われている、ということになるだろうか。


うどん専門店「つるとんたん UDON NOODLE Brasserie 渋谷」カウンターから見える景色(撮影:尾形文繁)

これは当たり前のようだが、その当たり前を実現するのは難しい。

いわゆる「行列のできる店」や、メディアで紹介される評判の店などに実際に行って、満足できることは案外少ない。キャパシティーを超えた結果、味やサービスが低下しがちだからだ。また店舗を急激に増やしたチェーンなどでオペレーションが回らなくなり、サービス品質が落ちることもよくある。

とくに接客はすべての印象を左右する。悪い対応を受けると、その店で使ったお金や時間、食事をともにした人との関係まで台無しにされたような思いになる。いったんそういう経験をした客は、二度とその店に行こうとは考えないだろう。

「店舗は劣化するもの」という考えのもと、スケールをあらかじめ決めた同社の方法は、なかなか理にかなっていると言えるだろう。またサービス品質の要となるのが人材だ。いかによい人材を集め、育成し、マネジメントできるか。すべての現場においての永遠の課題であり、経営者が自ら目をむけるべき重要なポイントだろう。

(圓岡 志麻 : フリーライター)