珍しくなった「昇降式踏切」今も残る場所とは なぜ廃れたのか
踏切には通常、遮断桿と呼ばれる長い棒状のものが使われますが、かつては、特に幅の広い道路の踏切で、ワイヤーやロープを用いた昇降式が見られました。なぜ数を減らしたのか、そして今でも見られる場所ではなぜ存続しているのでしょうか。
広い範囲を網羅できるワイヤー昇降式踏切
「踏切」と聞けばほとんどの人が、遮断機を支点に長い棒(遮断桿と呼ぶ)が弧を描くように動く様子を想像することでしょう。最近の遮断桿は繊維強化プラスチックでできていますが、かつては竹も使われていました。そして一昔前は、遮断桿ではなくワイヤーが上下に移動する、さながら最新式の昇降ロープ式ホームドアのような踏切がよく見られました。
この踏切は数を減らし、2022年現在は見つけるのが困難ですが、更新されずに残っている場所もあります。
工場地帯にある四日市港線の踏切。遮断桿ではなくワイヤーが上下に動く(2020年11月、小川裕夫撮影)。
三重県四日市市と川越町にまたがる四日市港は、日本屈指の港湾です。ここには四日市港線という貨物専用線が通っていますが、場所柄、周辺道路は大型トラックが頻繁に行き交うため、道路の幅員も通常より広くなっています。そして線路と道路が交差する踏切には、一般的な遮断桿ではなく昇降式のワイヤーが使われています。
なぜワイヤーなのか――それは道路の幅員が広いため、ワイヤーでなければきちんと遮断できないからです。
ここで通常の遮断桿を用いようものなら、先端が大きくしなってしまいます。きちんと遮断できないばかりか、遮断時そのしなりによって路面を叩いてしまい、遮断桿自身のほか路面を痛めることにもなります。
昇降式踏切の傍らに必ずあったものとは
ただ2000年代以降は、通常の遮断桿に改良が施され、屈折式が普及しています。屈折式は途中で遮断桿を折りたためる構造になっているので、しなりによるリスクは低減されました。これはまさに幅員の広い道路での救世主であり、昇降式の踏切は姿を消していったのです。例に挙げた四日市港の踏切は、昭和時代からの生き残りともいえます。
ちなみに昇降式はワイヤーだけとは限らず、ロープが使われることもありました。
富山県富山市を走る富山地方鉄道不二越・上滝線の稲荷町〜栄町間には、国道41号と交差する踏切があります。国道は片側2車線で、広い歩道も含むので、踏切が網羅すべき全体の幅員は広くなっています。そのため四日市港と同じ理由から、かつてはロープ昇降式踏切だったのです。
ワイヤーにしてもロープにしても、鉄道会社は多くの場合、昇降式踏切には人員を配置していました。遮断操作に加え、万一クルマなどが取り残された時に脱出する手段がなくなるため、その安全対策です。四日市港の踏切も、よく見ると傍らに踏切小屋が設けられているのが分かります。
不二越・上滝線の踏切は、その後屈折式の遮断桿に取り替えられたため、すでに踏切小屋は撤去されています。