急坂!激セマ!本数多すぎ!「長崎のバス」 西九州新幹線から乗り換えて日常の絶景へ
西九州新幹線が開業した長崎市は、坂の多い街で知られ、路線バスも他の町と少し変わっています。急坂を登り、狭隘な道を駆け抜け、主要道路に1日3000本も集中するという、この街ならではのバス事情を探ります。
とにかく坂が多い!個性が際立つ長崎のバス
2022年9月23日に西九州新幹線が開業した長崎市は、「さかんまち」(坂の街)とも呼ばれるほど坂が多く、市街地のうち4割を傾斜地が占めています。起伏やカーブが多い道路はクルマの運転にも気を使うほか、自転車の保有台数(人口比)は全国最低クラス。このため、路線バスの利用が比較的多い街でもあります。
市南部の住宅地、ダイヤランドの車庫に向かう系統の中でも、戸町経由はバスの車幅いっぱいの道路を走り抜ける(宮武和多哉撮影)。
この街を駆け抜ける「長崎バス」「長崎県営バス」の長崎駅前や新地ターミナルなど主要な乗り場は、人でいっぱい。バスはこれらから、山の上にある住宅街に駆け登っていきます。市街地の狭さもあって経由できる道路も限られ、福岡市以上にバスが集中する場所も。その他ターミナルにも個性があり、長崎の路線バスは見ていて飽きません。
西九州新幹線でグラバー園、稲佐山などの定番観光地・映えスポットを訪れるのもいいですが、他の街とちょっと違った、生活の匂いがする「さかんまち・長崎」を、普通の路線バスで眺めてみるのはいかがでしょうか。
車窓の変化を楽しめる!長崎の「団地行き・坂のぼりバス」
戦災・原子爆弾の投下で壊滅的な被害を受けた長崎市はわずか数年で人口が戦前の水準を超え、昭和30〜40年代には山手に張り付くように住宅団地が造成されていきました。路線バスもこの時期に、坂の上にある団地や宅地に向けて、積極的に路線を伸ばしています。
その中でも、市街地の北東部にある金比羅山を駆け登っていく長崎バス20系統などは、わずかな距離で幾度にもカーブを描き、大型バスが旋回できるギリギリの道幅を進み、急坂を上っていきます。終点・江平高部バス停はバス2、3台が停車できる転回場が併設され、市街地への路線の他にも百合野病院に向かう路線「ゆりちゃん」や幼稚園の送迎バス、そして山の上からバス停まで家族を送迎するクルマなど、その出入りは見ていて飽きないほどに賑やかです。
他方、この地区は高齢化率が30年で30%近くにのぼっています。世帯数は大きく変わらない中で、2021年に中学校が閉校したのに伴って、終点バス停も「江平中前」から「江平高部」に名称を変更し、狭隘な道路で歩行者のスペースを確保するため一部バス停を標柱タイプから建物に貼る形式に変更するなど、少しづつ変化しながら今日も運行を続けています。
市の南側の新興住宅街・ダイヤランドに向かうバスは、二本松口経由なら山麓のバイパスを快走、戸町経由は谷底の狭隘な旧道を慎重に走り抜けていきます。眺める車窓も、前者が高台から見下ろす長崎湾や山手の戸建ての住宅街、そして後者は味のある下町と、車窓の楽しみはまったく違うもの。なおこの路線は途中で新地中華街やグラバー園などの近くを通るため、観光路線としても便利です。
江平高部から市街地へ向け一気に坂を下りるバス。この時点で乗客はかなり多い(宮武和多哉撮影)。
そのほか、一風変わった地名で知られる「女の都(めのと)団地」や、さだまさしさんの歌でも知られる「唐八景」方面のバス、電波塔の前にあるバス停から山道を降りていく「無線中継所前」始発便でも、長崎の坂の多さや運転手さんのドライビングテクニックを観察することができます。
山裾のわずかな平地に5階建てのバス車庫が併設されている市北部の「桜の里ターミナル」も見ものです。建物内の螺旋状のスロープをぐるぐると上がっていくバスは、外から見ていても、かなりハンドルを切っている様子がうかがえます。
名物「バスのだんご状態」 集中ぶりは福岡市以上
主要道路が限られた市街地に集中する長崎の街では、そこでのバスの集中ぶりにも驚かされます。
中でも路面電車が通る新浦上街道では、浦上方面・稲佐方面のバスが合流する長崎駅近くの宝町〜八千代町間で、長崎バス・長崎県営バス合わせて往復3000本以上が走ります。この区間では路面電車も1日500本以上にのぼり、長崎バイパス川平ICを降りた高速バスも走るほか、12時間交通量も約4万台と、その集中ぶりは長崎県内でもトップクラス。長崎駅前の歩道橋からの定点観測はとても目まぐるしいものです。
バスの密集区間の付け根にある長崎県営バスの高速バスターミナルは、昔ながらの案内板や発着案内など、“昭和の匂い“をほんのりと残しています。併設されていた「ターミナルうどん」がコロナ禍で閉鎖してしまったのは惜しまれますが、西九州新幹線のライバルでもある博多行き高速バス「九州号」が発着するなど、今もその活気を保っています。ただ、当初予定されていた長崎駅ロータリーへの移転・建て替えは実現せず、58年を経た施設の維持は課題となっています。
なおJR長崎駅からのバスの乗り継ぎは「長崎駅前」「長崎駅前東口」「長崎駅前南口」「長崎駅前ターミナル」などに分散され、各バス停とも長辺50cmほどの時刻表にぎっしりと数字が書き込まれているので、そこから目的地へのバスを探す難易度はかなり高め。できれば事前にインターネットで検索して、どの乗り場に向かうかをチェックした方が良いでしょう。
長崎駅前の歩道橋から。この通りをバスは1日3000本以上、路面電車も通過する(宮武和多哉撮影)。
※ ※ ※
長崎のバスは見晴らしの良い山手の路線や狭隘な旧道を走る路線などに、他の街とはどことなく違った魅力を感じます。しかし長崎市内では長崎バス・長崎県営バスの2者で経由地の7割が重複することもあって、一部地区では再編が進んでいます。
その中でも徐々に変化していく「さかんまち・長崎」のバス、路線再編で大きな変化が訪れる前に、新幹線に乗って眺めに行くのも良いかもしれません。