胴体上部が大きく膨らみ、あまりに変わった外形が特徴の4発プロペラ機「プレグナント・グッピー」。この機はどのように誕生したのでしょうか。その誕生経緯と初飛行後を見ていきます。

元祖「もっとも醜い航空機」!?

 とある航空評論家から「もっとも醜い航空機」と評された飛行機「スーパー・グッピー」。胴体上部が大きく膨らんでいるのが特徴の4発プロペラ機です。その元祖的存在が、1962年9月19日に初飛行した「プレグナント・グッピー」です。


「プレグナント・グッピー」(画像:NASA)。

「プレグナント・グッピー」はアメリカ・ボーイング社のプロペラ旅客機、377「ストラト・クルーザー」をベースとしています。ボーイング377は、日本の本土を戦禍に陥れたことで、我が国では広く知られている爆撃機「B-29」の設計をベースに胴体を太らせた、輸送機「C-97」を民間転用したものです。

「プレグナント・グッピー」は1960年代のNASA(アメリカ航空宇宙局)が、アポロ計画をはじめとする宇宙事業の一環として開発されました。国土が広いアメリカでは、国内で製造したロケットの部品を製造工場から発射基地まで運ぶには、空輸がもっとも効率的でした。

 そこで旧式輸送機に大きな貨物室を設置する改造を施し、ロケット部品を搭載するという案が持ち上がります。改修作業は、エアロ・スペースライン社が担当します。

「プレグナント・グッピー」は1機しか製造されませんでした。この機は、パン・アメリカン航空(パンナム)の保有していた377をベースに、イギリス・BOAC(英国海外航空。現在のブリティッシュ・エアウェイズ)の胴体を一部組み合わせたもの。「プレグナント・グッピー」は全長約40m、全幅約43m。ベース機となった377と比べ胴体長も5mほど長くなっています。

 377に設けられた特注の大型貨物室は直径約6m。長尺物を滞りなく搭載できるよう、コクピット後部の胴体が、まるごと右に折れ曲がるような機構が採用されています。最大離陸重量は約60トンで、時速約350kmのスピードで巡航する性能を持っていました。

「妊娠した魚」と名付けられた珍機のその後

 なお、名称の「プレグナント・グッピー」と“妊娠したグッピー(魚)”と言う意味です。ちょっとエッジが効きすぎているネーミングな気もしますが、それほどこの機の外形が、意表をつくものだったということでしょう。

 エアロ・スペースライン社はこの「プレグナント・グッピー」をベースに、同じように巨大な貨物を輸送するためにボーイング377の胴体上部を更に大きく膨らませ、折れ曲がる機構を備えた機体を7機開発し、それらを「グッピー」シリーズとして展開します。


パン・アメリカン航空のボーイング377(画像:サンディエゴ航空宇宙博物館)。

 このシリーズでもっとも有名なものは「スーパー・グッピー」。胴体直径を従来機よりひと回り大きい7.6mとし、貨物収容力の向上を図ったものです。「スーパー・グッピー」はNASAでの運用のほか、欧州エアバス社のパーツ輸送も担うことになりました。

「プレグナント・グッピー」はすでに解体されていますが、「スーパー・グッピー」はまだNASAで運用されており、2022年8月には飛行する姿も確認され、一部の話題を呼びました。

 この「グッピー」シリーズで採用された、胴体を大きく膨らませ貨物機とするアイデアは、いまも民間航空界に引き継がれています。たとえば「スーパー・グッピー」の後継としてA300を改修したエアバス社むけ貨物機「ベルーガ」や、「ジャンボジェット」ことボーイング747を改造したボーイング社むけ貨物機「ドリーム・リフター」がこれにあたります。