空自F-2とドッグファイトも!? 豪空軍「グラウラー」女性パイロットに聞く「トップガンと同じ場所を飛んだ」
オーストラリア空軍が運用するEA-18G「グラウラー」。電子戦機ながらF/A-18F戦闘機をベースにしているため、空中戦能力もそれなりに高いとか。同機の知られざるエピソードをオーストラリア空軍女性パイロットに聞きました。
戦闘機みたいだけど中身別モノ「グラウラー」とは?
オーストラリア空軍は最新のステルス戦闘機F-35A「ライトニングII」を補完する存在として、F/A-18F「スーパーホーネット」戦闘機も運用していますが、それとよく似た機体としてEA-18G「グラウラー」電子戦機も保有しています。
両者は外見こそ似ているものの任務はまったく異なります。EA-18G「グラウラー」は敵の戦闘機とミサイルを撃ちあう直接的な戦いを行うのではなく、目に見えない電波を操り、敵の無線を通じなくしたりレーダーを使えなくしたりするのが主任務です。
その役割の一端を垣間見ることができるのが、EA-18Gの主翼下にあります。戦闘機が翼下に燃料タンクやミサイル、爆弾などを取り付ける際、「パイロン」と呼ばれる支持架を用います。EA-18Gでは、先端にプロペラの付いたポッドを燃料タンクなどとともに搭載しています。
「ピッチ・ブラック22」演習で訓練空域を飛行するオーストラリア空軍のEA-18G(布留川 司撮影)。
一見すると燃料タンクなどに似た外観をしているポッド、これは「AN/ALQ-99」と呼ばれるもので、中には敵のレーダーや通信を妨害する妨害装置が搭載されており、相手のレーダーや無線をかく乱・妨害することができます。先端のプロペラもこれら装置の電力を生み出すためのラムエア・タービンと言われる風力発電機です。
現代の航空戦において相手の存在を知る一番の手段は、人間の目ではなくレーダーを使った探索です。このため、無線交信や機体間のデータリンクで無数の電波が敵味方の間を行き交っています。目に見えない電波の流れは現代の空中戦を支える重要なインフラともいえるでしょう。電子戦機の任務はそのインフラを直接的に妨害・かく乱することであり、効果的に運用されれば、その戦力は戦闘機数十機分にも匹敵するまでになるのです。
「ピッチ・ブラック」演習で空自F-2と手合わせの予定も
また、もう1か所F/A-18F「スーパーホーネット」とEA-18G「グラウラー」で異なる部分があります。それは機首上面で、戦闘機のF/A-18Fでは、固定武装として機銃が搭載されており、そのための銃口が開いていたのに対し、EA-18Gでは外されており、穴は開いていません。代わりに電子機器が搭載されています。
ただ、ミサイルを携行することは可能であり、地上のレーダーを攻撃する対レーダーミサイルAGM-88「HARM」は電子戦機における直接的な攻撃力として使われています。
オーストラリア空軍のEA-18Gに搭載されたAN/ALQ-99電波妨害装置。先端にあるプロペラがポッド用の発電機となるラムエア・タービン(布留川 司撮影)。
また、電子戦機であるEA-18Gの主任務ではないものの、限定的ながら空対空戦闘を行うことも可能で、自衛用としてAIM-9サイドワインダー赤外線誘導ミサイルとAIM-120アムラームレーダー誘導ミサイルも携行できます。
これに加え、EA-18GはベースとなったF/A-18E/F「スーパーホーネット」の高い機動性も引き継いでいることから、潜在的な空中戦能力は高いといえるでしょう。
それを証明するひとつの事象として、オーストラリアで行われた国際共同演習「ピッチ・ブラック22」でのワンシーンを挙げることができます。その訓練では、オーストラリア空軍のEA-18Gと航空自衛隊のF-2による初歩的なBFM(基本戦闘機動)訓練が計画されていたそうです。
BFMとは戦闘機が空中戦で行う機動を表す言葉で、わかりやすく言うと映画やゲームなどでよく表現される「ドッグファイト」といったところでしょうか。共同訓練でそれが計画されていたということは、オーストラリア空軍のEA-18G飛行隊は日ごろから一定の空中戦訓練も行っており、その技量を維持していると考えられるでしょう。
まさかの『トップガン』ウラ話
現地でインタビューに応じてくれたオーストラリア空軍のEA-18Gの女性パイロットは次のように教えてくれました。
「訓練の初期段階に航空自衛隊のF-2戦闘機とのBFM訓練が計画されました。残念ながら私たちの機体にトラブルが発生し、ミッション自体がキャンセルとなりました」。
ダーウィン基地で駐機するオーストラリア空軍のEA-18G。同空軍では陸上機として運用しているが、駐機スペースを減らすために艦載機としての翼の折り畳み機能が活用されている(布留川 司撮影)。
「まるで映画『トップガン』みたいですね」と筆者が問いかけると、女性パイロットは別の面白い話を教えてくれました。「あの映画は私も見ました。最後のシーンで雪山を低空飛行するシーンがありますよね? あれはワシントン州の訓練空域で撮影されたのですが、実は私たちもそこで訓練を受けました。マーヴェリックたちが映画の中で湖を低空飛行し、背面状態で山を越えていましたが、あの場所は私たちも実際に見た光景です」。
ワシントン州には米海軍のEA-18G飛行隊が所属する「ホイッドビー・アイランド」海軍航空基地があり、ここには乗員を育成する訓練部隊も存在しています。オーストラリア空軍もEA-18G導入時にここの訓練プログラムを利用し、アメリカ海軍のパイロットと一緒に訓練を受けたそうです。「あそこでの日々は、訓練そのものよりも、環境や互いのカルチャーに大きな差があると感じたことの方が強く残っています。アメリカ海軍のパイロットと、私たちオーストラリア空軍のパイロットでは、任務や組織だけでなく、もっと基本的な部分で異なっているようです」。
EA-18Gが行っている電子戦は現代航空戦の核心部分に触れる任務であり、そのミッションなどの詳細情報の公開は厳しく制限されています。ただ、断片的な体験談を聞いていくと、その全体像がおぼろげに見えてきます。EA-18Gは電子戦機でありながらも、ベースとなったFA-18E/F「スーパーホーネット」のような戦闘機らしい一面もあるように筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は感じました。