住宅価格が上昇している現状を見て、「売り時」と考える人が増えています。そうは言っても、実際に売れるのか、売却に関する知識が不足している、などさまざまなことに不安を感じて、踏み切れない人も多いようです。今回は、住まいの賢い売り方について、考えていきましょう。

「売り時と思うが不安もある」という人が多い

住宅事業者側にとっては住宅価格が上がりすぎると売りづらくなる一方で、ウッドショックやアイアンショックと言われる建築資材の価格上昇や昨今の物価上昇により、住宅価格は下げられないというのが現状です。中古住宅市場も新築住宅市場と連動するので、住宅価格がなかなか下がらないという市況は、できるだけ高く売りたいと思う売主にとっては、絶好の売り時と言えるでしょう。

株式会社ツクルバが、今後1年以内にマンションの売却を検討している203人に調査をしたところ、「自分の家が値上がりしていると確認している・感じている」人が81.8%、「今が売り時だと思う」(そう思う57.6%+まあまあそう思う25.6%)人が83.2%もいました。

その一方で、「売却活動に踏み出すことに不安を感じている」人も77.4%いました。「不安を感じる理由」を聞くと、「買い手が見つかるか分からないこと」(47.8%)、「全体像がよくわからず売却を進めてしまうこと」(42.0%)、「不動産売却の知識がないこと」(41.4%)が上位に挙がりました。

出典:ツクルバ「中古マンション売却に関する意識調査」

住まいを売るという行為はそうたびたび経験することではないので、売り時と思いながらもさまざまな不安を感じているようです。家を売ろうと思っているなら、基本的な知識を身につけて、後悔しないように備えたいものです。

相場に応じた適正な価格で売り出すことがポイント

株式会社すむたすが、不動産売買業の従事者641人に対して、「売れない・売れづらい不動産の理由」を聞いたところ、上位3つは次のような結果になりました。

出典:すむたす「不動産のプロが考える不動産が売れない理由」ランキングより編集部作成

購入検討者は事前にマンションを見に来るケースが大半ですので、見てすぐに共用部や室内の劣化を感じる状態では確かに売りづらいでしょう。そうした理由よりも、不動産のプロが最も売れづらいと思う理由は「希望価格が相場より高い」でした。

前述の調査結果で不安要素の一番手だった「買い手が見つかるかどうか」ですが、適正な価格で売り出すことで、買い手は見つけやすくなります。ところが、売り手のほうは思い入れのある住まいですし、購入価格や住宅ローン残額などのさまざまな事情もあって、相場に関係なく希望額を設定しがちです。

もちろん、希望額で売り出すことは可能ですが、相場より割高に見える物件には購入検討者はなかなか現れません。そうなると、しばらくしてから売り出す額を引き下げることになります。これが繰り返されると、そのエリアで物件を探している人には「売れ残り」のように見えてしまい、最終的には相場よりかなり低い額でしか成約に至らないということも起こります。

住まいを探している人は、希望エリアの物件情報をよく見ていますし、複数の物件を見比べて検討します。売主側の事情から希望する額とその市場で売りやすい額は、必ずしも一致しないということを理解しておきましょう。

売り出してから短期間で成約するほど高く売れる!?

株式会社東京カンテイが、2021年の「中古マンションの売出事例と取引事例の価格乖離率」を調べています。価格乖離率とは、売り出した価格(売出価格)とその物件が成約した価格(取引価格)の差額との比率のことで、次のような式で求めています。多くの場合、売出価格よりも取引価格のほうが下がるので、マイナスになるのが一般的です。

価格乖離率 = (取引価格 ― 売出価格)÷ 売出価格 × 100%

価格乖離率は、売却期間の長さによって変わります。売り出してから成約するまでの期間が長くなるほど、成約価格は売出価格からどんどん下がっていく傾向が明確に見られます。例えば、首都圏で見ると、「1カ月以内」に成約した場合の乖離率は-2.41%、「3カ月」では-5.44%、「6カ月」では-7.45%、「9カ月」では-9.55%と次第に大きくなっています。この傾向は、中部圏や近畿圏でも同様です。

出典:東京カンテイ「2021年 中古マンションの売出事例と取引事例の価格乖離率」

特に2021年は中古マンション市場が活況だったので、以前よりも全体の価格乖離率が小さくなっています。東京カンテイによると、首都圏では「3カ月以内」に成約した中古マンションの乖離率の平均はわずか-3.25%だということです。市場が今ほど活性化していなければ、乖離率はもっと大きくなっていたはずです。

では、東京カンテイがなぜ「3カ月以内」に着目するかと言うと、それには理由があります。

売却するなら「3カ月以内」の方程式とは?

通常、住まいを売る際には、仲介を依頼する不動産会社を決めて正式に依頼します。その際に「媒介契約」を結びます。媒介契約は、1社とだけ結ぶ方法と複数社と結ぶ方法があり、次の3種類から選ぶことになります。

1社とだけ媒介契約を結ぶ場合、その不動産会社には、定められた物件データベースに情報を登録すること、定期的に売主に状況報告をすること、3カ月以内の媒介契約とすることなどが義務づけられています。また、一般媒介契約の場合も3カ月以内にするよう指導されていますから、媒介契約の有効期間を3カ月とする場合がほとんどです。

3カ月以内に成約しない場合、売主が他社と媒介契約を結ぶ可能性もあるので、不動産会社は通常3カ月以内に成約するように査定したり売却活動をしたりします。したがって、この3カ月以内に買い手が見つからずに売却期間が長期化すると、成約価格もどんどん下がっていくわけです。

不動産会社、特に担当者選びが重要な理由

三菱地所リアルエステートサービス株式会社が実施した「売却検討者・経験者 20,000 人アンケート調査結果」によると、家の売却経験者の80.1%が「自分にあった不動産仲介会社の担当者を探すことは、売却希望条件を叶えるために重要だと感じる」と回答しています。

不動産会社、とりわけ担当者は、物件の価格査定(相場から見ていくらで売れそうか)を頼んだり、売出価格の相談をしたり、売却活動を3カ月間委ねたりと、その役割は極めて大きいといえます。

実際に価格査定を依頼して見ると、不動産会社によって提示額がかなり異なるということがよくあります。売出価格についても、売主の希望額でよいという担当者もいれば、査定額を丁寧に説明してそれに近い額で設定するよう助言する担当者もいます。だれに頼んでも同じ、ということは決してありませんので、良いパートナーを選ぶことが極めて重要です。

そのためには、複数の不動産会社に実際に物件を見てもらい、査定額や売却活動プランを提案してもらいましょう。査定額が高い不動産会社に依頼すれば、高く売れるというわけではありません。過去の取引事例を分析するなど査定額に明確な根拠があるか、どういった広告をする予定かなど売却活動プランがしっかりしているかを見極めて、信頼できる担当者のいる不動産会社を選ぶようにしましょう。

また、購入希望者が見つかった場合、希望者側にも希望額があり、それぞれにスケジュールや資金計画などの事情があるので、双方の妥協点を探って成約に至るように助言するのも担当者の役割です。信頼できる担当者に、売主側の事情をきちんと説明しておき、理解したうえで交渉してもらうことも大切です。

さて、説明してきたように、信頼できる不動産会社の担当者を選んで、適宜助言を受けながら、媒介契約の期間内の3カ月以内の成約を目指すというのが、住まいを賢く売却する重要なポイントです。家を売るには良い市況でもあるので、売却を検討しているなら参考にしてください。

執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)