日本ではレアな旅客機である「ボーイング757」を用いて、北米と日本をアンカレッジ経由で結ぶ計画だった新LCCが、計画を大幅に変えました。背後にあるのは「ロシア領空の飛行制限」。どういった理由なのでしょうか。

日本就航の米LCC「メキシコを先に」

 就航を目指し準備が進んでいるアメリカの新興LCC(格安航空会社)「ノーザンパシフィックエアウェイズ」が2022年8月、最初の就航地をメキシコとし、同年中に定期運航を開始する方針を固めたと米・Business Insiderが報じました。同社は当初2022年内に、北米と日本含むアジア地域をアンカレッジ(アラスカ州)経由で結ぶ予定でしたが、この計画の大幅な変更が図られた形です。


ノーザンパシフィックエアウェイズのボーイング757(画像:Northern Pacific)。

 ノーザンパシフィックエアウェイズは2021年に立ち上がりました。それ以来ずっと、東京、大阪、名古屋、ソウルなどアジア各都市と、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨーク、ラスベガスといった北米の各都市をアンカレッジで経由し結ぶ計画を打ち出し、準備を進めてきました。

 使用する旅客機はボーイング757。日本の航空会社でも数多く導入されている767の姉妹機として開発された飛行機です。757は製造機数1000機以上と好調な売上を記録したものの、日本の航空会社はキャパシティの面などから767を導入しており、757はおもに海外の航空会社が、国内線メインで使用してきました。

 そのため、日本人にとって757は“レア機”としても知られており、その意味でもノーザンパシフィックエアウェイズは注目を集めている航空会社でもありました。ちなみに、アンカレッジもかつて日本発着の国際線の経由地として、一定年代以上の旅客には馴染み深い“懐かしの地”でもあります。

 しかし今回、ノーザンパシフィックエアウェイズは一旦アジア路線就航を見送り、まずはメキシコ線の就航へと舵を切りました。この背景にかかわるのが、ウクライナ危機に端を発するロシア領空の空域制限です。

日本〜アンカレッジ〜アメリカ線でなぜ「ロシア」が関係?

 ボーイング757をはじめとする双発機は、原則としてエンジン1基が停止したときなどに備え、条件の整った空港へ60分以内に降りられる範囲を飛行しなければいけません。アンカレッジ〜日本間をこのルールを守りながらフライトするとなると、カムチャツカ地方などロシア北東部上空を通過する必要があります。

 ただ、双発機には、一定の条件を満たし信頼性が認められた航空会社と機体に限り、この“60分制限”を大きく緩和する「ETOPS」という例外措置があります。しかしながら、ノーザンパシフィックエアウェイズの757はいまのところ、この認定を受けていません。

 つまり、現状だと同社機では、空域閉鎖中のロシア上空を飛ばなければ、アンカレッジ〜日本間の定期便を就航できないということを意味します。


ボーイング757、ユナイテッド航空機の機内(松 稔生撮影)。

 ノーザンパシフィックエアウェイズは、まずアメリカ本土とメキシコ間で定期便を開設、その後準備が整い次第、アンカレッジ経由でのアジア路線を開設する予定です。報道によると最終的に日本へ就航する計画に変更はなく、そのために他社との共同運航や「ETOPS」取得を含めた手段を検討していくそうです。

 ただし、使用する旅客機に関しては、業務拡大につれ、数年以内にボーイング737MAXやエアバスA321XLRといった新型機の導入も検討するとも。日本人がアンカレッジ経由でアメリカへ手頃な価格で旅行できる可能性は色濃く残る一方で、そのときには、757の後継機での運航に切り替わっている可能性も否めません。