F/A-18「スーパーホーネット」なぜ1人乗りと2人乗りが? ならではの共同作戦『トップガン』新作でも
映画『トップガン マーヴェリック』でも登場するF/A-18戦闘機には、単座と複座の2種類があり、それらが行動を共にすることがあります。戦闘機=単座というわけでもない、複座が必要な場面もあるのです。
F/A-18「ホーネット」誕生の背景
映画『トップガン』の続編として製作された『トップガン マーヴェリック』では、F/A-18E/F「スーパーホーネット」が登場しますが、これには1人乗り(単座)と2人乗り(複座)の2種類が存在。F/A-18Eが単座機、Fが複座機で、チームを組み行動することがあります。
なぜ「スーパーホーネット」には単座と複座の両方があるのか、そこにはF/A-18シリーズ誕生の背景が大きく関わっています。
F/A-18「スーパーホーネット」の単座モデルであるE型(右手前)と複座モデルであるF型(画像:アメリカ海軍)。
ことの経緯をひも解くには、50年ほど前の1970年代初頭までさかのぼります。当時、アメリカ空軍は、ベトナム戦争における各種MiG(ミグ)戦闘機との空戦で得られた戦訓に基づき、運動性に優れた制空戦闘機F-15「イーグル」を開発しました。しかし同機は単価が高いうえ、初期型は制空戦闘能力に特化しており、対地攻撃能力をほとんど備えていなかったため、制空戦闘にも対地攻撃にも対応した廉価なマルチロール戦闘機を開発し、「ハイ・ロー・ミックス」で運用することを考えます。
こうして1971(昭和46)年に軽量戦闘機計画が立ち上がり、YF-16とYF-17の2種類の機体が試作され、最終的に空軍は前者をF-16「ファイティングファルコン」として採用しました。ところが、敗れたYF-17の艦上機としての素質に、アメリカ海軍が目を付けたのです。
当時、アメリカ海軍ではF-14「トムキャット」を空母搭載用の最新鋭戦闘機として導入していましたが、空軍のF-15「イーグル」と同様に高価だったことから、数を揃えることができないうえ、F-14が大きく重過ぎて艦上運用できない空母も存在していました。
それらF-14を運用できない空母では、既存のF-4「ファントムII」戦闘機を運用していたものの、いずれ後継機が必要になることは間違いなく、加えて軽攻撃機として広く配備していたA-7「コルセアII」の後継機も必要になり始めていたのです。
2人乗りホーネットの後席、誰が乗る?
こうして、F-14「トムキャット」を補完できる低コストな艦上戦闘機と、中小規模の空母に搭載可能なF-4「ファントムII」およびA-7「コルセアII」の後継機問題を一挙に解決するために、アメリカ海軍はYF-17を改良し、艦上機として使えるように発展させたうえで採用を決めます。
こうして生まれたのが、F/A-18「ホーネット」でした。初期モデルはA型とB型で、前者が1人乗りの単座モデル、後者が2人乗りの複座モデルでした。なお、F/A-18Bの極初期型には、TF-18という類別記号が付与された練習機仕様もあり、このタイプには後席にも操縦装置一式が備えられていました。
編隊飛行するF/A-18E/F「スーパーホーネット」。最も手前を飛ぶ機体と左中ほどの機体が複座のF型で、右下を飛ぶ2機が単座のE型(画像:アメリカ海軍)。
ただ、アメリカ海軍では当時、すべての操作を1人で行う単座の戦闘機よりも、機体を操縦するパイロットと、爆弾やミサイルなどを扱う兵装システム士官(Weapon System Officer:WSO)の2人が乗り込むF-4「ファントムII」戦闘機の方が役割を分担できて好評だったことから、F/A-18「ホーネット」に関しても、後席を兵装システム士官席に改修したB型が生み出されます。
なお、アメリカ海軍としてはパイロットと兵装システム士官の2人で役割分担するという点以外にも、海軍機の場合、洋上飛行が多いことから、「2つのアイボール・センサー(目玉)にひとつの脳みそ」の乗員1人よりも「4つのアイボール・センサーに2つの脳みそ」の乗員2人の方が、いざというときに優位だという考え方が伝統として受け継がれていることも影響しているようです。
その後、F/A-18A/Bの改良型としてF/A-18C/Dが誕生し、B型の任務に性能が向上したD型が用いられるようになります。
「トム猫」とほぼ同サイズ化した「蜂」
こうして、シリーズの中核となったF/A-18C/D「ホーネット」ですが、より高性能化を図るべく、その発展型の開発計画が1992(平成4)年より始まりました。背景には、A-6「イントルーダー」艦上攻撃機の後継として開発されていたA-12「アヴェンジャーII」の開発が中止となり、別の後継機が必要となったことも影響しています。
このような事情から生まれたのがF/A-18E/F「スーパーホーネット」です。前型のF/A-18A〜Dの各型が第4世代ジェット戦闘機に分類されていたことから、F/A-18E/F「スーパーホーネット」は第4.5世代ジェット戦闘機に分類されます。
「スーパーホーネット」はE型が単座、F型が複座になるため、後者がB型やD型の後継といえる存在です。外観こそ前型のF/A-18A〜Dに酷似しているものの、機体サイズはひと回り大きくなり、エンジンが変更されてエアインテークの前面形状も楕円形から角型に一新されるなど、大きな変更が施されました。その結果、従来のF/A-18A〜D「ホーネット」シリーズと新型のF/A-18E/F「スーパーホーネット」では、パーツの共通性については1割ほどしかないといわれます。
アメリカ空母「ロナルド・レーガン」の射出カタパルトにセットされたF/A-18E「スーパーホーネット」戦闘機(画像:アメリカ海軍)。
かくしてF/A-18E/Fは、大柄なF-14「トムキャット」に比肩するほどの機体サイズとなったため、それまでのF/A-18A〜Dシリーズの特徴だった軽量マルチロール機という枠をはみ出して、大型マルチロール機へと「変身」しました。
『トップガン マーヴェリック』の作中でも描かれますが、2機が行動を共にする場合、次のような使い分けがなされます。複座の後席に兵装システム士官(WSO)が乗ったF/A-18Fがレーザーによって目標を標定し、そこに単座のF/A-18Eがレーザー誘導爆弾による精密爆撃を実施する――といった場面です。
爆弾を携行し、落とすだけの単座機は、レーザー誘導爆弾が機体から離れたら、あとはひたすら飛行と敵機への警戒に注力すればよいのに対し、レーザー照準し爆弾の誘導を担当する機体(すなわち僚機)の方は、爆弾が命中するまでレーザーを目標に照射し続けるとともに、退避行動と敵機への警戒も行う必要があります。それが複座機なら、搭乗員同士でレーザー誘導と機体操作にそれぞれ役割分担が可能です。
攻撃を担う単座機と誘導を行う複座機、それぞれが協力しあう様子を『トップガン マーヴェリック』で見ることができます。