本気か? ユニオンジャック柄のド派手船が発表 いったいどんな船なのか
イギリス国旗のユニオンジャックを船体全体に描いた船が発表されました。ここまでするからには、イギリスにとって重要な船になるのでしょうか。ただ、ここまで派手な塗装は、船にとっては不利になる要素でもあります。
イギリス国旗をまとった船――やっぱり国の威信をかけていた!
イギリス国旗のユニオンジャックを船体側面の全体に描くという、これまでの常識を打ち破る大胆なデザインの船が発表されました。
発表したのは、イギリスの船社ジェームス・フィッシャー・アンド・サンズと船主グレイグ・シッピングで、早ければ2024年末に第1船が竣工するといいます。
ユニオンジャックが描かれた船「ダイヤモンドSOV」のイメージ(画像:ウルフスタイン)。
この船はサービス・オペレーション・ヴェッセル(SOV)と呼ばれるもので、洋上風力発電所など、いわゆるオフショア(沖合)開発拠点へメンテナンス技術者を輸送する“オフショア支援船”です。このため資材の輸送能力だけでなく居住性能も求められています。英国政府が温室効果ガスの排出量と吸収量の合計を差し引きゼロとする「ネットゼロ戦略」の一環として、2030年までに洋上風発の導入量を50ギガワットまで拡大することを掲げるなか、風車の建設やメンテに必要なSOVの需要増を見越して開発されました。
船のデザインは、ノルウェーのウルスタイン・デザイン・アンド・ソリューションズの「TWIN X-STERN」を採用。名称はジェームス・フィッシャー、グレイグ、ウルスタイン、そしてノルウェー船級協会(DNV)が参加する「ダイヤモンドコンソーシアム」にちなみ、「ダイヤモンドSOV」と呼ばれます。
「ダイヤモンドSOV」はそのコンセプトとして、新造船の設計期間の短縮と導入コストの削減を掲げます。
拡張性が高く使用者に合わせてカスタマイズ可能なモジュール構造にしつつ、船体設計を標準化することで、複数の造船所で同時に連続建造を行えるようにします。これにより今後10年のあいだに、英国内外で予想される洋上風発の市場需要に答えるだけのSOVを短期間で大量に投入。洋上風発のサプライチェーンを変革するだけでなく、同分野における英国のプレゼンス拡大も狙っています。
ホントに実現するの?
「ダイヤモンドSOV」のベースとなったウルスタインの「TWIN X-STERN」は、2つの船尾を持ち、4つのメインプロペラユニットと、洋上の作業に必須な自動船位保持機能装置(DPS)が備えられています。風車へ安全に人員を移動させるW2W(Walk-to-Work)ギャングウェイ(桟橋との連絡橋)や荷役用のクレーンも搭載しています。
どちらの方向にも優れた推進性能を発揮できるため、天候の変化に応じて急に船を旋回させる必要などもありません。運用能力の向上により、1日あたりの技術者の移動回数を増やし、燃費も削減。加えて騒音も低減されて、船内の快適性の向上にもつながっているといいます。
ウルスタインはさらに、温室効果ガスの排出削減に向けて新船型も考案しています。2022年6月にはメタノール燃料エンジンを搭載するSOVをオランダのアクタ・マリンから受注。完全なゼロエミッション船として、水素燃料電池を動力源にする建設支援船や風発タービン設置船、さらには溶融塩原子炉(MSR)を搭載したクルーズ船も開発しました。
ダイヤモンドSOVのベースとなるウルフスタインの「TWIN X-STERN」(画像:ウルフスタイン)。
ところで「ダイヤモンドSOV」がイメージ画像にある通りユニオンジャックカラーで建造されるかは、にわかに信じられない部分もあります。というのも、船体の塗装は竣工後も定期的に塗りなおす必要があり、色の種類が増えれば増えるほどコストも増えていくからです。また、全体的な塗り直しは修繕ヤードで行いますが、細かいところはその都度、乗組員が塗っているため負担も大きくなります。
洋上風発大国の英国を象徴するSOVが、本当にユニオンジャックカラーで登場するか、はたまた違ったデザインでデビューするか楽しみです。