これはもう、完全な迷走である。
 ヴィッセル神戸がミゲル・アンヘル・ロティーナ監督との契約を解除した。スペイン人指揮官は4月に就任し、同10日のセレッソ大阪戦から指揮してきたが、2勝1分6敗とチームを浮上させることができなかった。

 チームは最下位に低迷している。J1参入プレーオフ圏の16位と勝点8差、J1残留圏の15位とも勝点8差だ。後半戦が始まったばかりとはいえ、危険水位である。1試合も無駄にできない状況だ。
フロントが監督交代を考えたくなるのは分かる。それにしても、場当たり的な対応と言われてもしかたがないだろう。

 ロティーナは17年にJ2の東京ヴェルディで、日本でのキャリアをスタートさせた。その後はJ1のセレッソ大阪と清水エスパルスでも采配をふるった。17年から5シーズン連続で日本サッカーに関わっていた彼は、日本のサッカーを理解している。彼自身がどんなタイプの指導者なのかも、すでに知られている。まっさらな状態で神戸にやってきたわけではなく、「計算できる監督」と言うことができた。

「計算できる」部分をもう少しかみ砕くと、守備の構築が浮かび上がる。17年の東京Vでは前シーズンの61失点から49失点まで抑え、翌18年は1試合1失点以下の「41」まで減らした。

 19年のセレッソ大阪では、リーグ最少の25失点を記録した。堅実な守備をベースとするのがロティーナのチーム作りであり、神戸でも失点を減らすことはできていた。勝星は思ったほどついてきていなかったが、2試合のクリーンシートを達成し、複数失点の試合は「3」だった。これまで日本で評価されてきたチーム作りを、ロティーナは実行していた。つまり、「計算どおり」の仕事をしていたのだ。

 ところが、彼の招へいに動いた永井秀樹スポーツダイレクター(SD)は、「守備に重きが行き過ぎると少し感じていた」と説明する。永井SDはロティーナが東京Vの監督に就任した当時、同クラブのユース監督兼GMだった。スペイン人指揮官のチーム作りを間近で見てきたひとりであり、「守備に重きが行き過ぎる」ことは想定できたはずだ。

 もっと言えば、神戸は「バルセロナ化」を目ざしてきたクラブである。アンドレス・イニエスタをシンボルに進めてきた構想はすっかり薄れたものの、大迫勇也や武藤嘉紀といった保有戦力の顔触れを見れば、攻撃的なサッカーを志向しているのは明らかだ。守備の構築に長けたロティーナは、そもそもマッチしてなかったと言うことになる。

 それでもロティーナに託さざるを得なかったのは、彼以外に適任者を見つけられなかったからかもしれない。ロティーナの後任を見ると、そう考えたくもなる。

 吉田孝行新監督は、17年と19年に続いて3度目の着任である。アンドレス・イニエスタが加入した18年夏のタイミングでも、チームを指揮していた。今シーズンは強化部スタッフを務めており、チームの現状も把握できているだろう。永井SDは現役時代のチームメイトでもある。様々な意味で「計算できる監督」と言える。

 気になるのは直近の実績だ。21年にJ2のV・ファーレン長崎を率いているが、開幕から12試合で4勝2分6敗の成績に終わり、監督の座から退いている。リーグトップクラスの保有戦力を揃えていただけに、退任は避けられなかったと言える。

 フロントがJ1残留への危機感をはっきりと口にしている状況下で、吉田監督は果たして適任なのか。クラブを内側から熟知していることが、彼にチームを託す必然性なのか。説得力に乏しい。監督としての力量が、脇に置かれてしまっている気がする。

 J1はあと16試合を残す。神戸はルヴァンカップ、天皇杯、ACLで勝ち残っている。タイトルを獲得できる可能性を残しているが、負けるリスクもはらむ。つまりは監督交代の引き金となり得るものがたくさんある、ということだ。神戸というクラブの体質を考えれば、カップ戦の敗退だって監督交代の引き金になるだろう。

 このまま吉田監督のもとで、シーズン最後まで走り続けることができるのか。迷走はなお続く気がしてならない。