「人とくるまのテクノロジー展」名古屋会場にて、トヨタの新型モビリティが初披露されました。ハンドルも屋根もなければ、前も後ろもない乗りもの。歩くよりも遅いけど、4人乗り。ここに狙いがありました。

「人テク」名古屋展のみの独自企画

 2022年6月29日(水)より、「人とくるまのテクノロジー展」(=人テク)が3年ぶりに名古屋で開幕しました。1992(平成4)年に横浜で第1回が開催され、今では横浜と名古屋、それぞれの会場で独自企画が展開されています。

 今回の名古屋会場に登場したのは、会場を動く“コーヒーカップ”のような移動体。展示会での新たな移動価値を創造する試みです。


人とくるまのテクノロジー展に登場したトヨタの新新モビリティ(中島南事務所撮影)。

目的の場所探す苦労なく、モビリティ任せで

 自動車関連の展示会で中心となるのは、車両や部品のプロダクト。ほとんどが公道走行を前提にしたモビリティです。ところが6月29日、自動車技術会が主催する「人テク」名古屋会場で主催者自らが説明に立ったのは、公道ではなく、展示会場のようなクローズドエリアで移動価値を生み出すためのモビリティでした。

 人テクで初めてとなる実証実験のため、来場者が利用することはできませんが、関係者を乗せて開催中の展示会を実走し、利用者や出展者の反応や、モビリティの想定できなかった不具合を検証します。

 運転(あるいは操作?)は、タブレット端末を使って会場内の出展エリアを指定することも、イベントの主催者が設定したコースを選ぶことも可能。実証実験では人の操作も入りますが、実用段階では自動運転で会場内を巡回する想定です。

 このモビリティの特徴は、乗りものではあるべき前と後がないこと。思い浮かぶとしたら、遊園地の“コーヒーカップ”のようです。定員は4人。中心に小さなテーブルがあり、モビリティの周囲には、転落防止のための腰の高さほどのバーがあります。そこに身体を預けて、談笑しながら見学することができます。

 歩いている来場者に混じって移動するため、移動スピードは歩行者なみ。だから、動いているモビリティに近づいて、そのまま乗り込むことも簡単です。

 実験には、トヨタ自動車先進プロジェクト推進部が開発中のモビリティが採用されました。開発担当者はこう話します。

「目的を移動だけに絞ると、大きくて場所をとるだけ。もっとスピードが出ないとモビリティとして向いていない。でも、移動しながらコミュニケーションが取れるなど、歩くより遅くても、新たな価値が生まれないか、と考えています」

「一等地じゃないブース」の救世主?

 このモビリティ、来場者の反応は「こうしたモビリティがあればいいね!」と、概ね好評。展示会は最新の情報の宝庫ですが、目的の出展者を探して大型化した会場を歩き回るのは一苦労なので、新しいモビリティがその悩みを解消してくれるなら歓迎です。しかし、実用化、さらにイベントに導入ということになると、主催者や出展者はそのコストを負担しなければなりません。

 人テクの主催者「自動車技術会」がこのモビリティに目を付けた理由は、まさにそこにありました。

 例えば、駅前の不動産などと同じく、展示会場にも一等地とそうでない場所があります。来場者が見落としてしまうような細かい出展区画にモビリティが確実に連れて行ってくれるような付加価値があれば、主催者や出展者からのモビリティに対する評価も、さらに上がります。

 あるいは、オンライン参加者が、リアル会場の来場者のように、モビリティに乗って展示ツアーを楽しむことができれば、これもモビリティが作る新しい価値になるかもしれません。

 前出の開発者はこう話します。

「まだ開発の初期段階。条件さえ整えば製品を作ることは可能ですが、その先にどうなるか。展示会だけでなく、観光地、空港など、いろいろな場所で、誰のためになるのか、誰が喜ぶのかという新しい価値を探しているところです。だから、公表できる名前もまだありません」


人とくるまのテクノロジー展名古屋会場(乗りものニュース編集部撮影)。

 人テク名古屋会場は新型コロナ禍で2020年の開催を断念。2021年はオンライン開催に挑戦しました。そして2022年はリアル会場+オンラインの同時開催。リアル会場は6月29日〜7月1日まで。6月29日〜7月4日までは出展者の講演などをオンラインで同時開催しています。