著作権侵害を理由に気に入らない匿名のインターネットユーザーを裁判所に呼び出そうとする要請に対し、「デジタルミレニアム著作権法(DMCA)は、アメリカ合衆国憲法修正第1条による『言論の自由保護』を無効にする効力はない」とカリフォルニア州の合衆国地方裁判所が判決を下しました。著作権侵害の疑いがあるユーザーの身元開示を求めた下級裁判官の判断を覆す判決となり、インターネットにおける匿名性での言論保護について重要な判決だと見られています。

In re DMCA Sec. 512(h) Subpoena to Twitter - Order Granting Motion to Quash | Electronic Frontier Foundation

https://www.eff.org/document/re-dmca-sec-512h-subpoena-twitter-order-granting-motion-quash

Victory! Court Rules That DMCA Does Not Override First Amendment’s Anonymous Speech Protections | Electronic Frontier Foundation

https://www.eff.org/deeplinks/2022/06/victory-court-rules-dmca-does-not-override-first-amendments-anonymous-speech

2021年11月、著作権法を悪用して匿名のTwitterアカウントの「中の人」を明らかにしようとする試みが報道されました。報道によると、匿名のTwitterユーザーCallMeMoneyBags氏は億万長者のブライアン・シェス氏を初めとした投資ファンド「プライベート・エクイティ」の関係者に関する批判ツイートを繰り返していました。強い誹謗(ひぼう)中傷を含む文章ではなかったものの、CallMeMoneyBags氏はシェス氏が女性と一緒に映った写真などをツイートし、シェス氏の女性関係を含めた「億万長者たちのぜいたくぶり」を告発しています。



このCallMeMoneyBags氏のツイートに対し、「BaysideAdvisoryLLC」と名乗る団体が「この写真は著作権侵害である」と主張し、Twitterに対し著作権侵害を行うユーザーの開示を要求する「DMCA召喚令状」を提出しました。TwitterはBaysideAdvisoryLLCが何者か不明であり、億万長者であるシェス氏が報復のために用意した団体である可能性などを恐れ、ユーザーの開示基準は非常に高いことを理由にDMCA召喚令状の要求を破棄しました。しかし、Bayside Advisory LLCはCallMeMoneyBags氏がツイートした後に6枚の写真を著作権登録したため、「著作権侵害を理由にユーザーの開示を求めるBayside Advisory LLCと、匿名で投稿する権利を求めるTwitterとの対立」が明確になりました。

下級裁判所の判決では、CallMeMoneyBags氏は「投稿した写真が自らに著作権のあるものである」ことを申告する必要があるとし、Twitterは判決に従いアカウントに通達を行いました。これにCallMeMoneyBags氏は応答しなかったことから、裁判所は「Twitterはフェアユースを確立するために、アカウントの背後にいる人を明らかにする必要があります」という判決を2022年1月に下しました。

この判決に対し、Twitterが地方裁判所に判断を求めた結果、北カリフォルニア州の地方裁判官は「ユーザーのツイートがフェアユースであるかどうかのみに焦点を当てた場合、判事の判決は憲法修正第1条を回避しています」と主張し、第三者による意見書「アミカス・ブリーフ」を提出しました。地方裁判所によると、著作権侵害によるユーザー開示を求める場合には「開示を求める側が、自らの主張に法的なメリットがあることを示す必要がある」「裁判所は、開示をすることによって匿名のユーザーに発生する危害と、開示を求める側の開示の必要性とのバランスをとる必要がある」という重要な2点をクリアする必要があり、今回開示を求めたBayside Advisory LLCはどちらの要件も満たしていなかったとのこと。

地方裁判所はまた、匿名のユーザーがDMCA召喚令状に対抗して法廷に出廷した例はなく、「Twitterはユーザーに代わって憲法上の議論を提起することはできない」という主張を却下しました。今回の判決をきっかけに、Twitterのようなオンラインサービスが法廷での権利を保護しようとするときに、常にユーザーの立場に立つことができるようにすることが法廷に求められ、裁判所はこれに同意する姿勢を示しています。自由な言論の権利を主張する電子フロンティア財団は、「憲法修正第1条の保護の抜け穴としてDMCA召喚状を使用できないことを保証する、地方裁判所の判決に満足しています」と語っています。