※この記事は2018年03月31日にBLOGOSで公開されたものです

例年より早く桜の開花時期を迎えた今日この頃。みなさんいかがお過ごしでしょうか?

私はというと、先月完成したスタジオのコンディションを整えるべく、通販サイトとにらめっこする日々を過ごしています。少しでも居心地の良い空間にすべく、公私共にスタジオの為に何かを考えています。

春といえば様々な事柄がスタートする時期です。この春から新しく学校に通う人もいれば、新社会人として新生活を始めるという人もいるでしょう。

海を渡ると、アメリカメジャーリーグでも、日本が誇る二刀流・大谷翔平選手がこの春デビューします。しかし、ピッチャーとバッターの二刀流でやっていくのはなかなか難しいようで、このコラムを書いている現在、一軍で活躍できるかどうか、まだ不透明な模様です。 日本で大活躍した二刀流選手ですから、ぜひ海外でも活躍してほしいものです。

というわけで、今回はそんな『二刀流の難しさ』を、ラジオ業界に当てはめて書いてみます。

放送作家とディレクターの「二刀流」

ラジオ業界における二刀流…例えば『ディレクター』と『放送作家』を使い分け、臨機応変に仕事をする人間は二刀流であると言えるでしょう。そしてそれはまさに私自身の事で、私の名刺にはこの業界に入ってからずっと『編集もできる放送作家』という、二刀流である事を示す肩書を入れています。

私はラジオ業界に入ってから十数年、『ディレクター』と『放送作家』の二刀流で生きてきました。ある日は放送作家として台本を書き、またある日はディレクターとして現場に立ち、家に帰って編集する…。日によって仕事内容が変わるというこのスタイルは、私にとっては日常であり、自分の性格に合っていると思っています。

なぜ二刀流として生きてこられたかというと、学生時代からどちらの役割も担当する機会があり、それぞれのスキルを磨くことができたからです。また、理系の大学に進学していたこともあり、元々機械いじりが好きだったという事も、二刀流になれた要因です。しかし、二刀流でやってこられた最大の理由は、『自分が半人前である』という事を自覚していたからだと思っています。

二刀流という言葉は、両方出来るという意味では聞こえは良いですが、悪くいえば中途半端という事です。この業界に入ってから、私はディレクターと放送作家の業務を半分ずつ担当する日々を過ごしていますが、それはつまり、それぞれの役割を半分ずつこなしているわけで、その道1本でやっている人に比べると、単純計算で習熟時間は半分になります。

また、ディレクターという職業はラジオ業界における専門職の一つということもあり、職人気質の人も多い職業です。職人気質のディレクターからすると、私みたいな存在はいい加減な仕事をしている、我慢ならない存在に見えるかもしれません。もちろん、実際にいい加減な仕事をした事は一度もないのですが…。どうしても偏見を持たれてしまいがちです。

事実、過去にはそれが原因で仕事を失ったこともありました。ラジオ業界で本格的に働くようになって数年が経ったある日、私はとあるフロート番組(番組の中で独立して放送されるミニ番組)のディレクター兼構成作家の仕事をしていました。しかしある日、プロデューサーに呼ばれた私は、そのプロデューサーから「君は中途半端だから明日から作家だけをやってくれ」と一方的に通告されました。業務上で特に何か問題を起こしたわけでもなく…です。

後で分かった事ですが、私がディレクターを降ろされたのは、当時いた、とある職人ディレクターからの進言が原因だったそうです。その時は理不尽でとても悔しい思いをしましたが、今振り返ると、仕方がなかったのかもしれません。ラジオという仕事が細分化され、専門職と呼ばれていた時代、私みたいな存在は異質でしたから。

でも私は、その出来事があったからといって、二刀流をやめる事はありませんでした。

『中途半端に見えるなら、他人より二倍・三倍努力しよう』。
『自分自身が未熟者である事を理解し、足りない能力は人の何倍も時間をかけて習得しよう』。


そう考えるようになりました。そして、その考えを維持し続けることが出来たおかげで、今日も私はこの業界で仕事が出来ています。

マルチクリエイターの時代へ

時は流れ、価値観が多様化した現代において、『二刀流』は『マルチクリエイター』という言葉に置きかわり、一定の理解を得られるようになりました。良い時代になったものです。

そういえば、冒頭に紹介した大谷翔平選手も、日本で二刀流が話題になった時、「中途半端な立場ではなく投手だけ、打者だけに専念したほうが良い」という意見がよく出ていましたね。

ですが、大谷選手は結果として日本を代表する選手に成長しました。大谷選手は海の向こうでも二刀流として成功できるのか…。同じ二刀流として(大谷選手に比べると大した事ないでしょうけど)、私はその動向に注目していこうと思います。