※この記事は2018年03月27日にBLOGOSで公開されたものです

先週末、土曜日の深夜。たまたまNHK総合テレビ「今夜も生でさだまさし」を観た。しかも、この日は〝スペシャル〟だったそうで、何と3時間40分の生放送だった。

もちろん「生さだ」については、何度も話には聞いていたのだが、なかなか観る機会というかタイミングがなかった。しかも、この日は〝スペシャル〟ということもあってか東京・渋谷のNHK放送センター101スタジオからの生放送だったが、岩崎宏美やベッキー、北川悠仁（ゆず）、萩本欽一…異色の顔ぶれだった。

率直な感想を言うなら、いくら深夜でも、何とも地上波らしくない番組だったということだろうか（あるいはBSだったらわかる気もするが…）。ところが、番組がスタートして13年目に突入したと聞いた時は改めて驚いた。ところが、次の日に知人から「何言ってるんですか！今や深夜の人気番組の一つですよ」と言われた時は、（さほど関心がなかったとはいえ）意外なところで情報不足だったことに気づかされた。

確かに、視聴者から関心が持たれなければ13年も番組は続かないだろう。が、だとしても、この番組に限ってはNHKでなければ成立しない番組であることも確かで、観ていて実に不思議な気分になった。そう言った意味もあって、改めて番組に興味を抱くことになったわけだが…。

ラジオの深夜番組をTVで再現

この番組は基本的には、毎月1回のペースで、シンガーソングライターのさだまさしが視聴者から寄せられたはがきを紹介するトーク・バラエティー番組である。すでに放送開始から100本を超えているという。噂通り？NHKにとっては、深夜の看板番組の一つになっていた。

そこで早速、番組の制作関係者に聞いてみた。すると、2006年にスタートした当時は、さだのスケジュールを調整して年に3～5回の割合で放送してきたが、その後、視聴者の評判が高まるにつれ、徐々に回数を増やし、11年以降は、ほぼ毎月のペースで放送するようになったという。現在は同時に海外向け「NHKワールド・プレミアム」でも放送しているそうだ。

「基本的には、かつて、さだがパーソナリティーを担当してきたラジオの深夜番組『セイ！ヤング』（文化放送）をテレビ番組化したんです」。

ラジオの要素をテレビに持ち込んだものだというが、その一方で、徹底的に「低予算の番組」にすることも念頭にあったそうだ。なるほど。で、バックのホワイトボードに白々しく「受信料を払いましょう」なんて文字が踊っていたのか…。

「番組内ではライブもあるので音合わせとはがきのチェックだけはしておきますが、番組自体はリハーサルはせずにぶっつけ本番なんです」。

「ぶっつけ本番」の面白さ

番組の基盤になったのは、95年に立ち上げた「鶴瓶の家族に乾杯」だったという。

その理由は「制作者やカメラの都合で作り込むのではなく、すべてぶっつけ本番でやることの面白さを観せたかった」ことだというが、その思惑は当たった。「家族に乾杯」も高視聴率を獲得していたが、「生さだ」も深夜に90分の放送にもかかわらず2～3％を獲得するようになった。

「とにかく、番組はホワイトボード1台あれば、どこからでも出来る。カメラも基本的には1台ですが、予備用のカメラは引きで使っています。ですから番組自体はメーンのカメラ1台で90分対応します。そのカメラもズームは使用しないように心がけています」。 とにかく徹底的なコストカットによって、制作費は通常の90分より5～6割の低予算となっているそうだ。もちろん出演者であるさだのギャラも含めた制作費である。

その一方で、番組は全国のNHK放送局や名所地から放送することがポイントだとか。そう言ったこともあって3年前（15年）2月には46道府県のNHK放送局からの放送を達成したという。

「全国のNHK放送局に赴いて、そこから受信料をアピールしてきたんです。どうしても受信料に対するアレルギーはありましたからね。でも各地のNHKからアピールしていくことで、そういったアレルギーが払拭できたと思っています。来月4月28日の深夜は静岡からの放送になります」。

他にも、12年には米オレゴン、その後は香港や台湾からも生中継している。また、国内でも横浜の氷川丸や日光の東照宮、2年前には初めて京都・清水寺からも生放送したという。「清水寺の中でギターの弾き語りも初めてのことだったんです。とにかく、どこからでも番組は出来るというのがコンセプトで取り組んでいるんです」。

要するに、NHKにとっては「番組開発」という意味合いを込めているようだ。

かつて「進め！電波少年」（日本テレビ）はアポなし番組が話題になったが、ここ数年は、旅番組でも「鶴瓶の家族に乾杯」がそうであるように、人気俳優やタレントを起用しての〝ぶっつけ本番モノ〟が増えてきた。

その一方、スタジオ番組でも、テレビ朝日「朝まで生テレビ」などのような〝激論〟があるが、民放各局も番組の制作費削減が叫ばれている現状もあるだけに、今後、深夜番組に限らず「生さだ」のように、ある意味でラジオ的な要素を盛り込んだ、ぶっつけ本番的なテレビ番組が続々と登場してくるのかもしれない。