憲法9条2項の削除は「いかがなものか」自民党・岸田文雄政調会長が憲法改正を語る - BLOGOS編集部
※この記事は2018年03月21日にBLOGOSで公開されたものです
自民党の岸田文雄政調会長が9日、都内で行われた内外ニュース主催の講演会で、これまでの歴任した役職の苦労や憲法改正、総裁選への思いを語った。
政府・関係省庁は説明責任を果たせ
国会の方も、正に「政治は一寸先は闇」だ。そういうことを身をもって示しているかのように、次々と新しい動きが出てきます。2月においては厚生労働省も裁量労働制のデータをめぐる混乱がありました。その後、政府としましても裁量労働制の改正につきましては法案から落とすということで対応する。こういったことが明らかになったわけですが、その後、財務省の森友問題の決裁文書をめぐる疑惑が生じて今国会が混乱している。こういった状態です。
いま大切な平成30年度の予算審議を参議院に移して議論が行われている最中ですが、ぜひこういった事態をうけて政府、そして関係省庁においては国民が納得する説明責任をしっかり果たしていかなければいけないと思います。
その点においては与党も野党も立場同じだと思います。しっかりと財務省、厚労省といった省庁には国民に対してわかる説明をしてもらわなければならないと思いますし、それを受けて与党としましてもしっかりと緊張感をもって国会を進めていかなければいけません。
「厄介な政治家相手」の政務調査会長の仕事はいい経験
私は去年の8月まで日本の外務大臣を4年8ヶ月勤めました。戦後48人の外務大臣がいて、長い方から2番目でありました。昭和20年代の吉田茂元総理が5年2ヶ月勤めたのが最長記録ですが、それに続いて4年8ヶ月間、外務大臣を務めました。
その後、自民党の政務調査会長という仕事をしています。政策責任者の仕事です。多くの方々が外務大臣の仕事と政務調査会長の仕事。
「違いがありますか?」「何が違うんですか?」こんなことを聞かれます。
忙しさという点においては外務大臣の時代も含めて93カ国を回り、地球を28周半して、アメリカまで日帰り。0泊三日で世界一周をしたりですね、随分強硬なスケジュールをこなさなければならない日々でした。
時差もあります。また国内にいても、いつ北朝鮮がミサイルを打つかわからない。打った途端、すぐ官邸に駆けつけなければならない。こういった日々が続くわけですから、4年8ヶ月の間、毎日寝る時間も長さも違う。こういった生活を送ってきました。それはそれなりに忙しかったです。
しかし、政務調査会長もどうかと言うことですが、確かに寝る時間とか、寝る長さはだいぶ一定してきたと。そういった意味では健康的な仕事ですが、一方で地方を回らなければならない。あるいは、夜に会合もあったり、スケジュールの過密さを考えますとそんなに違いはないです。
その中で外務大臣の時代と政務調査会長をやっている今と一番違うのは、外務大臣というのは外交官を相手にする仕事です。政務調査会長というのは、基本的に党内の政策をまとめなければいけない。政治家、国会議員を相手にしなければいけない仕事です。この違いは真に大きいものがありまして。
外交官を相手にする場合は、理屈を尽くせば、優秀な外交官の官僚でありますから納得するわけです。そもそも人事権は外務大臣が持っているわけですから、なおさら言うことを聞くわけです。
政務調査会長は国会議員を相手にする。これは理屈だけでは通用しない。下手に理屈をこねると逆にへそを曲げてしまう。国会議員というのはなかなか厄介な人種でありまして、この厄介な国会議員を相手にして仕事をしなければいけない。これを納得させて結論を出さなければいけない。この点が外務大臣と政務調査会長の一番大きな違いなんだと。そんなことを感じながら仕事をしています。
いずれにしましても外務大臣の経験も大変政治家として貴重な経験でありました。まさに墓場まで持っていかなければならない国家機密に日々触れる立場でありました。いい経験になりました。
憲法には「自衛隊」の明記が必要
今年の政治の課題としては、年明けから盛んに取り上げられていますが、憲法改正の議論。昨年12月の衆議院選挙では私たち自民党が、政見公約で6つの大きな約束の1つに憲法改正を掲げました。
憲法改正の中身ですが、今の憲法の3つの原則。 国民主権と基本的人権の尊重と平和主義。この3つの原則を変えることはいたしません。しかし、その上で4つの項目。1つは国民の命ある暮らしを守る上で大変重要な役割を果たしている「自衛隊」というものを、憲法の中にしっかり明記する必要があるのではないか。
今重要な役割をしている自衛隊。今でも「違憲だ」と「憲法違反だ」と言っている方がおられる。その中において自衛隊というものを明記する必要があるのではないか。これが1つ。
2つ目として、大災害等の緊急事態が発生した時に、政府にどんな権限を与えるのか。どんな対応が必要なのか。緊急事態対応というのが2つ目です。
3つ目として、この国の根幹である教育。教育の無償化、拡充強化。これを憲法の中にどう書き込むか。そして4つ目は、一票の格差に関わる問題ですが、参議院の合区の問題。
この4つの項目についてしっかり議論を行い、そして丁寧に議論を進めることによって国民の理解を得て、そして国民投票に付して憲法改正を実現する。こういった約束を去年おこなったわけです。
是非、丁寧に議論を進めていかなければならないなと思います。憲法改正、4つの項目について自民党の憲法改正推進本部という、総裁直轄の組織で議論を行っています。そこにおいては連日活発な議論が行われています。
1つ目の項目、自衛隊の憲法における明記の問題についても様々な議論が行われています。憲法9条の2項、戦力の不保持という項目についてもこれを残した上で自衛隊を明記するべきだという議論。いや、そもそもそれは論理的に説明するのがなかなか難しい。憲法9条の2項から外した上で堂々と日本の安全保障について考えるべき。こういった意見もあります。
なかなか議論が白熱し、整理に苦労しているといったことであります。私の憲法に関する考え方については、今までも度々申し上げているところですが、私は2015年に行われました平和安全法制の議論の際に外務大臣を務めていました。
平和安全法制の議論は2015年1月から9月までずっと国会でやっています。特別委員会を設置して。毎日でも議論を続ける体制を作って、当時の外務大臣の私と防衛大臣の中谷元氏と委員会に張り付きで合わせて216時間の審議。野党の追及にずっと耐え続けた。
私は平和安全法制の議論は日本にとって大変重要な議論だと思っています。担当大臣として法案を成立させたわけですが、これは日本の外交安全保障にとって大変重要な議論であったと今でも思っています。
憲法9条2項の削除は「いかがなものか」
平和安全法制の議論は色々行われました。限定的集団的自衛権の話、国連憲章51条の取り扱いとか。様々な議論が行われましたが、基本的な議論としてどんな議論だったかを極めて簡単に申し上げます。いま北朝鮮を始めとする厳しい安全保障環境の中で日本は、国民の暮らしや命を守るためにしっかり備えていかなければならない。これは当然のことです。
しかし、一方で憲法があります。憲法九条をはじめとする憲法の条項との関係において、日本はどこまで備えに対応することができるか。こういった課題があります。
厳しい安全保障環境の中で国民を守るためにどこまで対応しなければならないかという課題と、憲法との関係においてどこまで対応できるかという課題。この2つの課題を両立する点をギリギリ探った。これが平和安全法制の議論だったと思います。
ただ考えてみますと、こういった構造の議論は戦後73年間。私達の先輩方は永遠と繰り返し努力し、そして日本の国を、国民の命と暮らしを守ってきた。例えば、自衛隊を作ると言う時、厳しい安全保障環境中でどこまで対応しなければいけないのか。一方で、平和憲法との関係でどこまで対応できるのか。このギリギリのところを現実的に判断した。こういった議論だったと思います。
理事で安全保障条約を改定する時も同じ構図の中でギリギリどこまで対応できるのか。PKO法の時も大変な徹夜国会が続いたわけでありますが、あの時も全く同じ構図の議論をおこなってギリギリ両立できるところを探っていきました。
平和安全法制も同じ議論の構図の中で、現実的にどこまでやらなければいけないのか。ギリギリの答えを出した。こういった平和安全法制は、誠に重要な議論だと思い、私も担当大臣として野党の質問に耐え続けて法案成立にこぎつけたわけであります。そういった立場から言いますと、今の憲法においても、私は自衛隊は合憲だと思っています。今の憲法でも、平和安全法制は合憲だと思っています。
そういう立場から言うと、憲法に改めて自衛隊を明記する必要はないのではないか。そういうことになるのかもしれません。ただ一方で、国民の命や暮らしを守るために、国民から高く評価されている自衛隊を今でも「違憲だ」と「憲法違反だ」と言っておられる法律学者を始め、多くの方々が存在すると。そういうことを考えたならば、そういった方々に対して 憲法において自衛隊をしっかり明記するということは意味があると私は思っています。
9条2項まで外してしまうということになると、私の立場からは少し離れてしまう。そうなると、平和安全法制そのものを根本から議論しなければいけない。そういうことにも繋がっていくのではないかと考えます。その点については、いかがかなと思っているのが私の立場であります。
いずれにしても、こうした憲法改正の議論も引き続き大きな課題として取り組んでいかなければいけないと思っています。
2019年は日本の底力が試される1年
それ以外でも日本の内外に大きな政治の課題があります。今年はこういった課題に1つ1つ結論を出すことによって、国民の信頼をしっかり繋ぎ止める。そして今年しっかりと結果を出すことによって日本の政治や経済を安定させていかなければなりません。
そして、それをぜひ2019年、来年にしっかり繋げていかなければならないと思います。2019年、来年は日本の国、日本の社会が世界中から試される。底力が問われる大変重要な1年だと思います。
来年4月30日で平成の時代が終わります。新しい時代がスタートするそういう改元をはじめ大きな行事がある。世界中から来賓を迎える都市になります。来年は日本の国が歴史上初めてG20の議長国を務める。日本でG20が歴史上初めて開催される年でもあります。
テロ対策、治安対策など、日本の社会自体が問われる大変重要な年になる。これは誰もが感じるところでありますし、こういった年の春には統一地方選挙が行われ、夏には参議院選挙が行われる。
そして10月には消費税の10%の引き上げが予定されている。その直前には大きな選挙。12年に一度の統一地方選挙と参議院選挙が同時に行われる年が巡ってくるわけですから。その年が来年であり、その2つの選挙を消費税引き上げ直前に行う。これは政治的にも難しい選挙になることが予想されます。
こういったことを考えると、政治・経済・外交どれをとっても来年は日本が世界中から注目され、底力を問われる大変重要な年になります。
来年に向けて今年はしっかりと 政治や経済を安定させておかなければならない。準備をしなければいけない。そう言った年だと思います。来年に向けて政治においても自民党の総裁選挙が秋におこなわれるわけです。
ぜひ来年に向けて日本という国は誰をリーダーにして、どんな体制で臨むのか。これを改めて考える。こういった貴重な機会になるのではないかと思います。来年を堂々と迎えるために総裁選挙がどうあるべきなのか。こういった視点で私も色々と物事を考えていきたいと思うところであります。
総裁選への出馬は「結論から言うと決めていない」
まだ自民党総裁選への出馬は決めておりません。というのは、自分で作った政権公約を盛り込んだ予算を審議していただいております。予算を仕上げなければいけないというのが私の立場であるということです。そこから先ということについては「決めていない」と申し上げております。
決めていないという意味は、来年に向けて日本としてどうあるべきなのかを考えなければいけません。さらには政策的にも2020年までの日本は大事ですが、2020年から先についてもしっかり考える。そうした政策についても思いを巡らせていかなければならない。
こんなことも色々と考えながら、具体的な自分の対応を考えながら具体的な自分の対応を決めていきたいと思います。結論から言いますと決めていないということは変わらないということになります。