シロクマ先生、これからの時代の「大人」について教えてください!精神科医・熊代亨氏インタビュー - 村上 隆則

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※この記事は2018年03月10日にBLOGOSで公開されたものです

なんだか最近、いつまでも大人になりきれていない人、多くありませんか?

かくいう私も新卒でネット企業に入社し、なんとなく「若者っぽい」まま、30歳を過ぎてしまいました。一人前に結婚したり子どもができたりはしているものの、なんとなくこのままではマズいような…。

そんな折、BLOGOSにもご寄稿いただいているシロクマ先生こと、精神科医の熊代亨先生が新著『「若者」をやめて、「大人」を始める 成熟困難時代をどう生きるか?』(イースト・プレス)を発売。これはチャンスと思い、これからの大人のあり方について聞いてきました。


都会に多い、気持ちは「若者のまま」な大人たち

-- 自分を含め、最近「大人になりきれていない人」が増えているように思います。これっていつ頃からなんでしょうか

「大人になりきれていない」というよりは「若者のまま」という方が適切かもしれませんね。

実は、若者のようなライフスタイルの人は昭和の終わりから現在にかけてずっと増え続けています。今の50代とか60代にも、気持ちはまだ若者のままでいたいっていう人は沢山いると思いますよ。

やはり、都会の生活ではアイデンティティが固まりにくいので、その傾向が強いですよね。

-- アイデンティティの形成にも地域差があるんですか?

人間は、自分にとって大事なものや「私はこういう人間」と示せるようなものに囲まれることで自己認識を掴んでいきます。「趣味は○○で、出身大学は△△、大事な友達は××さん」みたいな。それがアイデンティティです。

地方に住み続けている人は、土地や人間関係が人生の早い段階で決まるので、その認識が出来上がるのも早いんです。ところが東京に住んで引越や転職を繰り返したり、流行り物を追いかけるような生活をしていると、そういうのがなかなか固定されません。

-- たしかに、都会と地方ではライフスタイルは大きく違いますね

付け加えると、都会の人は消費や購買によってアイデンティティを構築しているところがあるんです。

たとえば、都内のタワマンに住んでいるような層のライフスタイルを見てみると、飲むならクラフトビールのあの銘柄がいいとか、子どもに着せる洋服はあのブランドがいいというように消費にこだわりがあって、それがその人の特徴につながっている。

あるいはタワマンに住むこと自体もそうかもしれませんね。「私たちはタワマンに住む夫婦です」というのがアイデンティティの構成要素になっているケースもあると思います。

これはライフスタイルそのものが商品として売られるようになった影響も大きいのではないでしょうか。

-- 現代は自然と若者であろうとするような環境になっていると・・・。『「若者」をやめて、「大人」を始める 成熟困難時代をどう生きるか?』では消費だけでなく、仕事や会社との関係も指摘されていますね

今の時代は企業が従業員を大人にさせてくれないようになってきています。最近は職場でも、変化に強い人材が評価されますよね。そして知的労働ほどその傾向が強い。そういう仕事をしていると、若者的なフレキシビリティを保たないと仕事についていけないんです。これは社会や会社からの要請と言えなくもない。

さらにいうと、戦後以降の日本社会が豊かになった結果、働きながら勉強しなければいけないという人も減ってきました。バブル崩壊前後、90年代には大学生活をエンジョイして、その後フリーターでもいいという人がたくさんいたんですよ。苦学する若者は少なくなり、モラトリアムをエンジョイする若者が多数派になりました。

若者にしてみれば、大人になると社会と接点をもったり、結婚や子育てをしたりと「面倒くさい」と思うことを求められる。だったら若者のメリットだけ享受しておけばばいいや、と考えるのも自然なことですよね。


「大人」になると、人生の新しい楽しみ方が見えてくる

-- そうはいっても、やはり社会には大人も必要ですよね。そこで一つお聞きしたいのですが、熊代先生の考える「大人」とは、どんな人でしょうか

結婚して子育てをして、地域や社会に貢献するような、昔の典型的な大人像だけを大人とみなすのは定義が狭すぎてもうダメです。これからは「世代や立場が違う人に、その違いを踏まえて対応できる」人は「大人」と言っていいと考えています。

たとえば、ずっと独身の人は昔の大人とは少し違うけれど、後に続く「結婚しない年下」にとって、これから進む人生を照らしてくれるお手本になるかもしれない。そうやって、自分の歴史を積み重ねて、誰かのロールモデルになれるような人は十分「大人」と呼べますよね。

-- 確かに、これだけ多様な生き方がある時代に、昔ながらの大人像にこだわるのはもったいない。最後に、熊代先生が考える「大人」の楽しさについて教えてください

歳をとると、やっぱり20代の頃ほどは成長しなくなって、成長曲線にも下り坂がやってきます。そうした成長の限界を感じたときでもいいし、何か大事にしたいと思うような人や場所が見つかったときでもいいのですが、自分の成長だけでなく、他の誰かの成長を視野に入れることで、大人としての人生の可能性が広がっていくのではないでしょうか。

大人として後進の育成をしたり、子育てをするのって、人生が「自分が勇者として活躍するゲーム」から、「次の勇者をプロデュースするゲーム」に変わっていくことなんです。それって新しい人生の楽しみ方ですよね。

私自身も子育てを経験して、そういうことが腑に落ちました。もちろん「ぐぬぬ」と思うこともありましたけどね(笑)


プロフィール
熊代亨(くましろ・とおる):1975年生まれ、信州大学医学部卒業。精神科医。人気ブログ『シロクマの屑籠』を運営中。著書に『「若作りうつ」社会』(講談社現代新書)、『認められたい』(ヴィレッジブックス)など。Twitterアカウント:@twit_shirokuma

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