時代の流れの中でアイドル化する「女子アナ」に求めるものは？ - 渡邉裕二
※この記事は2018年03月01日にBLOGOSで公開されたものです
各テレビ局の〝女子アナ〟の需要が高まっている。もっとも需要があるからといって、それが人気と直結しているわけではない。が、女子アナによってはメディアに登場する割合が並みのタレントよりは多い。しかも、結婚や妊娠、さらには退社、独立は立派なニュースになるし、不倫、離婚といったスキャンダルなんかは、ちょっとした芸能人も顔負けの話題となる。
しかし、女子アナの〝立ち位置〟となったら実に曖昧である。本来は単なる「会社員」。専門職とは言ってもOLのようなものだろう。だが、何かと目立つし、何だかんだ言っても女子アナというだけで周囲からはチヤホヤされるだろうから、気分は「タレント」なのかもしれない。と言うより「アイドル的存在」だろう。もちろん、人ぞれぞれ意識は違うかもしれないが…。
「そのカメラで撮るんですか？」
こんなことがあった。もう30年ぐらい前のことになる。当時、ある女子アナのインタビューをした時のことだ。話が終わって「ちょっと、写真を撮らせて下さい」と記者カメ（それなりのカメラだったと思うのだが…）を取り出した途端、彼女は「そのカメラで撮るんですか？」「カメラマンの方はいらっしゃらないのですか？」「でしたら、局の広報からもらって頂けませんか？」。
何気に取り出した記者カメに気分を害したようだった。その時の彼女の「あり得ないでしょ…」とでも言いたげな表情だったが、思わず「やっぱり女子アナは違う」と思ったものである。確かに無神経な行動だったとは思うが、振り返ると、その時から女子アナを見る目が変わったような気がする。女子アナは単なる「会社員」ではないのだ。
女子アナブームの火付け役は寺田恵子や中井美穂
女子アナがアイドル的な存在になったのはいつ頃だったのか考えてみた。先日、有賀さつきさんの訃報を受けて、フジテレビの宮内正喜社長が、有賀さんと同期（1988年）だった八木亜希子アナと貴乃花親方の景子夫人（旧姓・河野）を挙げ「3人の女子アナがフジの女子アナ時代を作り上げた、テレビ界全体の女子アナ・ブームを牽引した」と偲んでいた。そうだったのだろうか…。有賀、八木、河野の3人の登場はインパクトが大きかった事は確かだ。しかも、彼女たちの同期としては日本テレビに永井美奈子と関谷亜矢子もいた。そう言ったことからも女子アナに対する注目度は一気に高まった。
しかし、女子アナ・ブームの火付け役と言ったら、やはりフジテレビの寺田理恵子（84年）や中井美穂だったように思う。特に、寺田は当時、人気番組だった「オレたちひょうきん族」の司会かなんかで人気を得たと記憶するが、その後、歌手デビューするなど、女子アナの枠を広げた。まさに女子アナ・ブームの走りだった。
その後、90年代になると日テレの永井美奈子、米森麻美、藪本雅子が〝DORA〟なんていうユニットを結成してCDデビューするなど、女子アナのタレント化が進み、さらにフジテレビから木佐彩子、TBSからは渡辺真理や雨宮塔子、新藤晶子、テレビ朝日から下平さやかが、そしてNHKからも久保純子などが出てくるなど空前の女子アナ・ブームが出来上がっていった。
「過去の水着」で内定取り消しも
ある女子アナ・ウォッチャーによれば、女子アナに関する風説には「在京の有名私立大学出身」「帰国子女で英語が堪能」「ミスキャンパスやミスコン入賞経験者」「大学在学中に芸能活動」というのがあるという。しかし、その一方で、「水着モデル」や「キャバ嬢」というのはイメージを損なうようで、06年、在京テレビ局ではないものの多田羅理加さんが「内定取り消し」となったこともあった。「彼女は、日本大学を卒業したのですが、在学中は〝日大準ミス〟にも輝き、何と言っても5歳から16年間もクラッシックバレーをやっていたことから、そのプロモーションはズバ抜けていたんです。そういったこともあって芸能プロダクションに在籍していたんですが、内定後に学生時代の水着モデルが発覚したんです。さらに撮影会やイメージビデオまでが雑誌に掲載されたことから、局の上層部から『とんでもない！』と言う声が出て、内定取り消しになったんです」（週刊誌記者）。
それがフジテレビ系列の長野放送だったので、ちょっとした話題になった。結局、多田羅さんはフリーアナになることを決意したという。
また、最近では、日本テレビが「キャバクラでバイトしていた」ことを理由に内定を取り消したことから裁判に発展したこともあった。そういったこともあってか、テレビ各局は、選考に慎重になっているとも言われるが、最近の傾向として「アイドル」から女子アナに転じるケースも目立ちはじめている。
元モーニング娘。の紺野あさ美（テレビ東京＝結婚で退社）がそうだったように、この春には元乃木坂46の市來玲奈が日本テレビに入社することが明らかになっている。その他でも元NMB48の村上文香はNHK大津放送局の契約アナに転身した。過去にはテレビ東京「おはスタ」で活躍していた平井理央（フジテレビ）が人気になった。
「すでにアイドル活動からフリーアナウンサーに転じるケースは多い。そういった意味でも、今後は局の女子アナになることも増えていくのでは」とも言われている。
人気女子アナの育成が急務
民放各テレビ局は、制作費の削減が急務となっている。そういった中で高額のギャラが発生するタレントは敬遠されがちで「局の女子アナを起用する」方向に変わりはじめている。自局の女子アナを総出演させたクイズ、バラエティー番組も増えている。オリコンの「好きな女性アナウンサーランキング」によると、日本テレビの水ト麻美が5年連続で1位だという。「癒しの水トちゃん」と言われているそうで、その人気は不動だ。他には山崎夕貴の人気が高まっているものの、その一方で加藤綾子（元フジ）、田中みな実（元TBS）、高橋真麻（元フジ）と言った、局アナ出身のフリーアナが目立っている現実も否めない。
そういった意味からも「人気女子アナ」の育成は急務となっているようだ。そこで、手っ取り早い手段として「人気アイドルからの抜擢」ということになる。
「アイドルとして活動していれば知名度もあり注目率も高い。それに、何と言っても入社後と同時に即戦力になる。プロダクションの教育も出来ていれば局としては不安材料が減るし、とにかくメリットは多いと言うことです。それに、アイドル活動に比べ女子アナだったら安定感もあるし、将来、フリーになったとしても活動できる安心感もある。お互いウィンウィンの関係になるわけです。そういったことからも今後、AKBグループや、その他のアイドルグループからも女子アナの道を選ぶようなケースは増えていくと思います」（放送関係者）。
それにしても、局のアナウンサーと言ったら、男女問わず基礎をしっかり叩き込まれ、正しい日本語が出来ることが「美徳」と言われたものだ。だが、それも今や昔。時代の流れは局や番組制作費の都合で、さらにアイドル化されつつある。そういった中で、本来持つべき「アナウンサーとしての心得」が、もしかしたら置き去りになっていってしまうのかもしれない。
