あいのりで恋愛トークを解禁した「シン・ベッキー」の破壊力 - 松田健次

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※この記事は2018年02月05日にBLOGOSで公開されたものです

あいのり・テラハの2大恋愛バラエティー

恋愛ネタが世に尽きることはない。テレビ界も然り。恋愛バラエティで一時代を築いた「あいのり」(フジテレビ/1999年~2009年)が8年ぶりに新シリーズをスタート。「あいのり:ASIAN JOURNEY」が昨年10月からNetflixで先行配信、続いて今年1月から地上波版の放送が始まった。

そして、「あいのり」よりもあれこれ高め設定な「テラスハウス」の新シリーズ「TERRACE HOUSE OPENING NEW DOORS」が昨年12月からNetflixで先行配信、続いて今年1月から地上波版の放送が始まった。

つまり、フジテレビが誇る平成の2大恋愛バラエティが、現在初めて肩を並べて放送されている。のだが、フジテレビは名物番組の終了やニュースキャスター変更など別の話題がやたら多いため、この方面はメディアウケもなく、番組ファンの関心にとどまりまったりしている。

しかし、「あいのり」はやっぱり面白い。現時点で自分は「あいのり ASIAN JOURNEY」(#1~#4)を地上波で鑑賞。「見知らぬ男女7人が真実の愛を探す、地球無期限の旅」に結局ハマっている。

新シリーズ、初回のつかみが爆笑だった。ベトナム・ホーチミンからラブワゴンでの旅が始まり、早々に海辺で男女水着の時間が訪れる。(出会ってすぐ水着ショット、番組演出はそういう配慮をきちんと呈してくる) ところがこの海辺で、男女が交わりアクションを起こす場面は皆無、男子は同性で固まり、女子チームを置き去り気味に海から引き揚げてしまう。その夜、ホテルの女子部屋では、メンバーの3人(でっぱりん、ゆめちん、アスカ)が、男子達の不甲斐なさに不満炸裂。屈指の本音吐露場面となった。

< 2018年1月12日放送 「あいのり:ASIAN JOURNEY(#1)」(フジテレビ)より >

NA「その夜、女たちがディスりはじめた」

でっぱりん「本当に恋愛しに来とうとかいなみたいな思わんかった? てかさ、女がキュンキュンするポイントとか知らんとかいな。本当にさ水着になったりとかさ、海行ったりとかしたらさ、普通なんかちょっと男女ペアになったりとかしてさ、いい感じになったりするよね」
ゆめちん 「むしろ避けられたような」
でっぱりん「そう!それ!」
アスカ  「意味がわかんないじゃん!」
でっぱりん「なんか男じゃなくない?」
ゆめちん 「こっち頑張って体張ってさ水着なっとんのにさ」
でっぱりん「そうそれ!こっち腹筋までしたのにさー。もうちょっと見ろよ!アハハハ、パット2枚入れとったやこっち」
アスカ  「確かに!」
でっぱりん「それやったらまだ、たかの方が、なんか率先しとう気はする。だってさ写真撮る時だってさ、ゆめちん撮ろうって言ったりさ。あの人自ら誘うやん」
アスカ  「うん、確かに」
ゆめちん 「そうだね、誘ってくれるね」
でっぱりん「てかマジ昭和系男子、本当に貴重やね」
アスカ  「昭和系男子・・・」
でっぱりん「そう考えたら、だってそんなグイグイ来るやつってさ、平成でなかなかおらんし」

そして翌朝、女子が男子を集めて説教する・・・。

でっぱりん「(男子達に)聞きたいことがあるっちゃけど、ここに何の目的で来たのかなあと思って」
(中略)
でっぱりん「私たちもめっちゃ恋愛したくて、ここ来とって」
アスカ  「でもなんか今の男子を見てると、それをしてないというか」 
でっぱりん「海とかも男子女子で別れとった部分とかあったやん。全然もっと遊べたはずやし・・・」 
   (中略)
アスカ「このままあいのりいて、ちゃんと恋愛できるのかなみたいな」 

NA「8年ぶりに再開したあいのりの旅、男子の草食化はラブワゴンの中にも蔓延していた!」

男の草食化をつかみにして始まった新シリーズ。見どころのツボは毎回随所に飛び出すのだが、今回ここで書きとどめておきたいのは、スタジオでVTRを受けるレギュラーキャストとなったベッキーについてだ。

恋愛トークを解禁した「シン・ベッキー」

新シリーズのキャストは、オードリー若林正恭・春日俊彰、大倉士門、河北麻友子、そしてベッキー。このベッキーが発するコメントの一つ一つが別格なのだ。

ご承知の通りベッキーは、2016年1月に週刊文春による文春砲で尋常ならざるシーベルトの批判放射能を浴び、多くのレギュラー番組とCM契約を失い、暗黒の海底に叩き落とされた。ここからベッキーは形態を変えながら復活を目指す。

ゲス不倫騒動で身を隠すように休業、約三ヶ月のブランクを経て2016年5月に中居正広の「金スマ」でテレビ復帰。しょんぼりと縮こまった第二形態を見せた。

その後、2016年7月にBSスカパー!でレギュラー復帰。ずっと折り畳んでいた手足を伸ばし第三形態となった。

BSやラジオという離島を起点に度々海を渡って地上波へ侵攻。そして2017年10月「あいのり」(Netflix)のスタジオレギュラーで、封じてきた恋愛トークを解禁し、放射可能な第四形態へ。ゴジラになぞれば「シン・ベッキー」、本土上陸、捲土重来だ。

< 2018年1月12日放送 「あいのり:ASIAN JOURNEY(#1)」(フジテレビ) >

若林正恭「ベッキーはどうなの、思い出に残る恋愛とかあった、人生で?」
ベッキー「知ってんだろー」

不倫を咎められ、文春と追随するメディアやネットや世間から石もて追われた荒涼の地より帰還を果たした当事者の言葉は重みが違う。元々コメント力がある彼女が経験値を一気上げして放つ言葉に、人生が張り付いている。

< 2018年1月19日放送 「あいのり:ASIAN JOURNEY(#2)」(フジテレビ) >

~順調そうに見えていた男女「たか」と「ゆめちん」だったが、女子の感情を汲み取れない場面が重なり、「ゆめちん」の気持ちは「たか」から離れ気味に~

若林「あそこからは挽回の可能性もうゼロだよな」
春日「いやもうそうだね、ショックでかすぎるでしょ」
大倉「どうなんですか」
ベッキー「いや、無理ではないと思う」

ベッキーが口にした「いや、(挽回は)無理ではないと思う」は、さほど意識しなければスタジオトークを広げるひとつのコメントにすぎない。だが、ベッキーの言葉は今、そのレベルにとどまらない。断崖から堕ちた女闘士が奇跡の生還を果たし、焦土の先へと追い詰められた人民の前に現れ、刃こぼれした伝説の剣を沈みゆく夕陽にかざし、「民よ、あきらめることなかれ。この戦、まだ終わってはおらぬ。疵を癒し、兵を整え、時を待て。奮い立ちていざ決戦にのぞむその時こそ、天運は我らを復活の地へといざなうであろう。さあ、唇をうごかそう、挽回は無理ではないと・・・」と解釈できる程に重みを伴う。VTRを受けてベッキーが何を言うのか、その度に耳が数センチ前のめる自分がいる。

しかもベッキーは根っからの「あいのり」ファンで、随所で「あいのり」ならではのテイストを見逃さずにツッコみ、フォローもする。このキャスティング、適材適所極まれりだ。

恋愛トークにおけるベッキーの再稼働。アイドル、タレント、アーティスト、女優、モデル、女性芸能人の多くがガールズトークというフィールドで発言を無制限供給しているが、今のベッキーを前にしたらそれらの言葉はすべからく軽いものになる。立ちはだかるまでもなく、タイキックされて即退場だろう。

だが、タイキックに屈しないツワモノも目に浮かぶ。矢口真里だ。いつか「あいのり」のリングでベッキーと矢口真里の同席が実現したらなあ・・・。