自民党・高村副総裁「憲法改正で″自衛隊は違憲か合憲か″に決着を」 - BLOGOS編集部
※この記事は2018年01月26日にBLOGOSで公開されたものです
2018年1月24日、内外ニュース主催の高村正彦氏(自民党副総裁)講演会が都内ホテルで開かれた。高村氏は前回の衆院選に立候補せず、議員を引退したあとも、党憲法改正推進本部の特別顧問を務めている。憲法改正について3月の自民党大会までに一本化したいと意欲を示した。【取材・撮影:田野幸伸】
改憲の機は熟するかもしれない
まずは憲法改正について話をいたしますと。憲法改正について急に動き出したのは昨年の5月3日。憲法記念日に安倍総裁が「2020年を新憲法施行の年にしたい」と。9条については「1項、2項を維持して自衛隊を明記する」。こういうことをおっしゃいました。この日、私は全然聞いていなかったので読売新聞の見出しを見てびっくりしましたね。1項、2項維持。安倍さんこれで本当にいいの?って。
1項維持、2項維持、自衛隊明記というのは今まで自民党の中で議論されたことすら無かった。公明党が「1項、2項維持。自衛隊明記」。を言っていたということは知っていますけども。
私はその時、「機は熟するかもしれないな」と思いました。機は熟するなんて変な言葉を使ったのは、1980年、私が初めて衆議院に当選した時にある新聞から「9条についてどう思うか?」と聞かれ「1項の平和主義を堅持しつつ自衛隊を明記すべき。機は熟さず」と答えた。それから37年間、機は熟しませんでした。
それは私が当選してからで、その前から言えば70年間、機は熟さないで来たのです。それが初めて「これなら機は熟するかもしれないな」と思いました。
私はその日ちょうど日中友好議員連盟で中国に出発する日。公明党の北側一雄さんと一緒でした。北側さんに「公明党の加憲案はすごくいいじゃないですか。公明党さんこれならいいんでしょ?」と聞いてみたんです。その時の北側さんの答えは「うーん」と困ったような顔をしていて。
その上で「自衛隊の明記の書き方次第ですよね。その書き方によってフルスペックの集団的自衛権が読み取れるような書き方だったらダメですよ」と。「そうでなかったらいい」とは言わなかったんですけれども、私は勝手に「そうでなければいいのかな」と解釈をして、そこは詰めないまま今日まで来ている。こういうことであります。
「自衛隊は違憲か合憲か」に決着をつける
かなり前ですけども、NHKの討論会で私は憲法学者の7割ぐらいは「自衛隊は違憲だ」もしくは「違憲の疑いがある」と言っている状況なので、これははっきり「自衛隊が合憲であるという風にすべきではないですか?」と言いましたら、当時たしか民進党の岡田さんが「いや、自衛隊が合憲ということは定着しています」と言いました。そうしたらそのすぐ後で、日本共産党の志位さんが「自衛隊は違憲です」。こういう風に言ったわけであります。自衛隊は違憲だと思っている人が自衛隊と明記されることに大反対するという理由はよく分かるんです。日本共産党は「違憲だ」と言っているわけですから、それを合憲にするような動きには当然反対するだろうと思います。
私は全体的には定着していると思うんですよ。それは内閣が自衛隊法を出して国会で承認されて何十年も経って9割以上の国民が自衛隊を理解し支持している。
定着しているとは思うんですけど、100%定着しているかと言ったら70%の憲法学者が「違憲もしくは違憲の疑いがある」と。こういう風に言っている。これは定着とは言えない。
その結果どういうことが起こっているかというと、子供たちのほとんどの教科書、中学生の公民の教科書に「自衛隊は違憲の疑いがある」。こういうことが書いてあるんですよね。
それで優秀な学生が憲法をみると「どうも違憲じゃないか」と思う文言が書いてあるんですよ。「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない」と書いてある。それはなんとかした方がいいのではないかなと私は思います。自衛隊合憲が定着しているという人は絶対反対という言われは全くないだろうと思います。
最近テレビを見ていると日本共産党の人も言ってましたし、民進党。民進党は3つに別れましたから、そういった3つに別れた党の人達が自衛隊を明記すると、集団的自衛権限定容認というのを我々はやりました。私たちは合憲だと思っています。彼らは合憲ではなく違憲だと思っている。
そうすると「自衛隊を明記するとそれが合憲になっちゃうんだ。だから反対なんだ」と。いやいやそれは自衛隊の明記の書き方次第ですね。自衛隊を明記する。1項、2項は維持すると我々が言っている以上、自衛隊が憲法違反か違反でないかという神学論争がありますよね。それには決着をつけるというのが自衛隊明記なんですよ。
PKOは違憲か違憲じゃないかという神学論争もありますよね。これに決着をつけるつもりはないですから。自衛隊が違憲ではない合憲だということだけに決着をつけたい。ましてや集団的自衛権の限定容認が違憲か合憲か。この神学論争にもこの憲法改正で決着をつけるつもりはないです。
私達が今度の憲法改正で…。いや自民党はまだ決まっていないので確定的なことは言えませんが、安倍総裁が提言したのは1項、2項維持と自衛隊の存在明記。これは自衛隊が合憲か違憲かという神学論争にだけは決着をつけたい。その結果、教科書に「違憲の疑いがある」などと書けないようにしたい。
自衛隊の人達はいざという時に、命をかけて仕事に従事するわけです。政治家は「命をかけてくれ」と命令するわけですよね。期待するわけですよね。「違憲かもしれないけど命をかけてくれ」「教科書に違憲かもしれないと書いてあるけれども命をかけてくれ」やっぱり私はそれは政治家の矜持として許されない。それを期待する国民の矜持としても許されないはずだと思っております。
私は今、いち国民としての矜持としても違憲かもしれないという状況に抗議する。そういうことは許さないと。少なくとも教科書に「違憲かもしれない」と書かれるような状態は「定着した」と言っても100%定着した状態ではない。それを100%定着した状態に、自衛隊が合憲か違憲かどうかだけは持っていきたい。こういうことについて定着しているという人が反対する言われはないだろうと。
反対するとしたら「自衛隊は違憲です」という人達と、何らかの手を組んで政治活動をしようという。憲法という日本の基本法をどうするかという問題よりも政局を重く置いているとしか考えられない。これは私にはちょっと理解しがたいことであります。
自民党の中だけでいうと、2項を削除した方がいいか、2項を維持したままでいいか。出来ることなら2項を削除したほうがいいと思っている人が私を含めて大多数ですよ。できるならですよ。
だけど、私の相場観から言えば残念ながら2項は削除できないです。私が国会議員になってからでも37年間、機は熟さないままきたんです。70年間、機は熟さないままきたんです。安倍総裁が「2項を維持したままでもいいから少なくとも自衛隊の合憲性についての神学論争だけは決着をつけようよ」。
こういったことによって、やっと自民党の中も動き始めたし、色々なところで少しずつ動き始めた。国民的意見も少しずつ始まってきた。これが現実だと思いますね。
学者の議論だったら通らなくたって正しいと思ったことを100年でも言い続けるのが正しいですよ。学者としては。政治家はそうじゃなくて、実現可能な今より、よりよくなることは何かということを見つけるのが政治家の仕事だと思います。
私は残念ながら2項削除というのが現実に難しい。1つの根っこは公明党がそれに絶対乗ってこないと思うんですよね。仮に公明党が乗ってきたとしても国民投票が非常に難しい。困難である。むしろカルマに近い。
だから私が当選してからでも37年間。もっと前から言えば70年間。憲法で政治上の争点になったのは9条2項なんですよ。だけども残念ながらそこを改正しようという機は熟さないまま来た。だから自衛隊の存在だけでも、自衛隊の合憲性だけでもはっきりさせようということ。
理想は何かと。自民党の中で勉強してくれるのはとてもいいことだと思いますが、それが現実的な解を見つけるのになるべく邪魔にならなければいいなと考えているところであります。
戦後平和が続いたのは9条ではなく自衛隊のおかげ
なぜ国民投票が難しいかといいますと、憲法9条があって70年間平和だった。こういう客観的事実があるんですよね。こういう客観的事実から短絡して2項を含めて9条があったから平和だった。という信仰が一部の国民の中に根強くあるんです。2項を含めて9条があるから平和だったんじゃないですよね。2項があったにもかかわらず先人が苦労して自衛隊を作ってくれたから平和だったんです。日米安保条約を締結してくれたから平和だったんだけども、2項を含めて9条があったから平和だと。短絡して信仰している人が大変多い。
これは1つ、愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶという言葉がありますけれども。経験だって学ばない人がいるから経験に学ぶ人が私は愚者だと思わないですけれども、経験にだけ学んで歴史に学ぶことを排除していたらそれは困るということですよね。
歴史の中で日本人が体験したみたいに、やっぱり軍国主義で他の国に軍隊が出ていって最終的にひどい目にあった。これは経験ですよね。経験に学ぶことは私は悪いことだと思わないけれども、そうじゃなくて。日本の守りがないために他の国が入ってきて国が滅んだということも歴史の上ではたくさんあるわけですよね。そういう歴史に学ばない人は愚者でしょうね。
そんな歴史をよく知らなくたって想像力を働かせれば、何も備えが無くて攻めて来られて国が滅ぶということがあるぐらいのことは分からなければ想像力の欠如という他ないんだろうと思いますね。
だから9条1項。「侵略しちゃいけません。侵略戦争をやっちゃいけません」。立派な規定です。だけど一切の戦力を持っちゃいけない。抑止力を持っちゃいけない。攻めて来られて対応力を持っちゃいけない。これはなんとかしなければいけない。まあ、日本人の知恵で9条2項の規定がありながら自衛隊を作ってなんとかしてきたんですよ。
そして日米安全保障条約を締結してなんとかして抑止力を持って。その結果70年間戦争がなかった。だけどその自衛隊が憲法違反だという人があるいは疑いがある人を含めて7割もいると。こういう状況はなんとかしなければいけないでしょう。最低限です。もっと出来るならもっとした方がいいと思いますが、今の国民の状況、あるいは公明党の方達が考えていること。そういったことを想像して考えれば、今自衛隊の明記以上のことは出来ないのではないかなと思います。
反対派はデマで世論を作るのが本当に上手い
それともう1つは国民投票って大変難しいんですよね。反対派の人達っていうのは院外闘争のプロなんですよ。我々は院内でどうにかやって国会を通そうということを一生懸命やってきたけど。やっぱり反対派の人達は院外闘争のプロ。本来、国会の中で決まる法律案ですら院外で、私はあえて「デマ」といいますが「PKOをやったら徴兵制になる」あるいは「平和安全法制をやったら徴兵制になる」。こういうデマをやって刹那的世論を作るというのは彼らは本当にうまいんですよ。
我々は国民投票に耐えられるような運動を一生懸命展開しますけれども、彼らは刹那的民意を作るために後で恥をかいてもいいからなんでもやれ。そういったやり方は我々はできない。だから国民投票に関しては反対する人の方が非常に長けている。こういうことも言えるのではないか。そういう意味で非常に難しい。
もう1回言いますけれども1項、2項を維持し、自衛隊を明記というのは自衛隊についての合憲性に決着をつけようということであって。それによって集団的自衛権が合憲だ、限定容認が合憲だということに決着をつけようとは思っていないということです。そういうような書き方はしません。
自衛隊は長い時間と共に9割の人が支持してくれたように、時間をかければ集団的自衛権の限定容認も当然になる。この一時の勝負にかけて反対派にリターンマッチをさせるようなことを仕掛けるのは得策ではない。こういう風に思っているということであります。
平和安全法制、集団的自衛権の限定容認についてちょっと付け加えますと。これをやっておいて本当に良かったですよね。トランプさん、選挙中なんて言ってました?「アメリカが日本を守る。日本はアメリカを守らない。不公平だ。」その人が本当に大統領になっちゃったんですよ。
だけど日本もアメリカを守るんですよ。アメリカ合衆国までは守りには行きませんけれども日米安全保障条約に基づいて日本を守っているアメリカ軍を守る。トランプさんがああいうことを言う前にそういう法律を作っておいて本当に良かったなと。
「そういう法律が出来ているんですよ」ということをアメリカの軍人がちゃんと説明してくれたおかげでトランプさんは「駐留軍経費を全部持て」なんてことを言わなくなるんです。
3月の自民党大会までには1本化したい
時期的な問題については、安倍総裁も言っていますように、始めに期限ありきではありませんけれども、私は自民党を代表する立場にありませんが、個人的な願望を言えば、3月の自民党大会までに9条について1本化できればいいなと。改正原案を作るためのたたき台を、自民党として憲法審査会提出し、みんなで議論してもらいたいと考えています。
資料:日本国憲法第九条
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。