「クレイジージャーニー」で頭角を現した爬虫類専門家・加藤英明はテレビ界の逸材 - 松田健次
※この記事は2018年01月19日にBLOGOSで公開されたものです
2018年、笑いのジャンルから今年注目する誰かをひとり・・・と思い巡らし、ブレイク芸人輩出枠として注目される元旦深夜「ぐるナイおもしろ荘 若手にチャンスを頂戴 今年も誰か売れてSP」(日本テレビ)で優勝した「キレイだ」のレインボーが、この先、日テレ各番組を回ってどうなっていくのかを気にしつつ、父娘コンビの完熟フレッシュも気にしつつ、笑いのジャンルとは言えないが昨年から気になり続けているのが加藤英明だ。
「クレイジージャーニー」で頭角を現した逸材
静岡県(SBS)の皆さん、明日16日(水)20:54~の『 #クレイジージャーニー ゴールデン2時間SP』に静岡県が誇るTHEクレイジー、“爬虫類ハンター・加藤英明”(静岡大学講師)が登場!アフリカの密林で超激レア種と格闘!“らしさ”全開の旅! #ヨシダナギ の旅も! #sbs pic.twitter.com/Iqlpl5DbaN
- クレイジージャーニー (@Crazy_Journey) 2017年8月15日
加藤英明は静岡大学講師で、生物、とくに爬虫類の専門家としてここ数年、テレビ出演機会が増えている。「池の水ぜんぶ抜く」(テレビ東京)では、アカミミガメやアリゲーターガーなど水生生物の生態を闊達に解説してタレント陣を支え、「ザ!鉄腕!ダッシュ!!」(日本テレビ)では、昨年3月から不定期コーナーとなった、日本の在来種生物を脅かす外来種(アフリカツメガエル、クララ他)を捕らえて調理して食べる「グリル厄介」でTOKIOを支えている。
現在のテレビ界を牽引する日曜夜の人気両番組を股にかけて現れる、快活な専門家というイメージになりつつあるが、この両番組での加藤英明はサポート役に徹したオトナであり、本来の加藤英明とは、うーん、言い難い。
本来の加藤はオトナではない。目当ての爬虫類を前にすると人が変わり、プリミティブに猪突猛進するコドモだ。本職は大学での教鞭、そして研究室では世界中の爬虫類からDNAを採取、現在5000に及ぶサンプルを収集し、その比較研究で爬虫類の進化の歴史を探っている。このサンプル収集の為に世界を駆け巡り、ライフワーク(爬虫類)に向かう時、自らの安全制御装置が次々に外れた暴走モードになる。これがたまらなくバカで、いい。いいのだ。
この逸材をテレビ界に解き放ったのが、深夜番組「クレイジージャーニー」(TBS)だ。「世界を巡る爬虫類ハンター」として、毎回、命知らず、ケタ外れ、世捨てびと等々、並みいるクレイジーな冒険家や専門家が登場するこの番組で、加藤は頭角を現した。過去の出演歴は以下だ。
▼2016年9月15日
インドネシアを訪問。コモドオオトカゲ(コモドドラゴン)を追う。
▼2017年2月9日、16日(2週)
アフリカ東部、マダガスカル島へ。幻の陸ガメ・ヘサキリクガメ、五ヶ月しか生きない小さなカメレオン・ウスタレカメレオンを追う。
▼2017年8月16日(ゴールデン帯での特番)
アフリカ中部、カメルーンへ。世界最大のゴライアスガエル、ツノがあるヨツヅノカメレオン、珍しいニシアフリカコビトワニを追う。
加藤英明はこれら各回ですべて強烈なインパクトを放った。番組レギュラーの松本人志、設楽統、小池栄子も一発で加藤のキャラクターに魅せられ、昨年夏のゴールデン帯でのスペシャル回では女性写真家のヨシダナギと共に加藤英明が番組の二本柱を担った。多士済々なクレイジージャーニーにおいて五指に入る名物キャラとなっている。
加藤英明の「スイッチが入る」屈指の名場面ベスト3
ここで僭越ながら、これまでの「クレイジージャーニー」出演回から加藤英明のベストアクトを選んでしまう。
<3位>スーパーハントを決める加藤英明/2017年8月16日放送
――カメルーンで空港から目的地に向かって幹線道路を車で移動中・・・
番組D「なんか道きれいですね」
加藤「カメルーンは幹線道路ってのが整備されてて動きやすいです。ただ、こっから外れるととんでもない道になりますから大変ですよ」
NA「ひとまず快適な道中を走っていると」
加藤「(表情一変して戦闘モード)あっ、いたいたいたいたいたいたいた、ほらほらブロックの上ブロックの上ブロックの上、ブロックの上、ちょっと止めて止めて止めて」
NA「なにやら加藤は突然車を止め、外へと走り出した。そしてーー」
――加藤は道路わきにある高さ2メートル程のブロック塀沿いを、かがみながら小走りして、走り高跳びのように踏み切って斜め上へとジャンプ、右手をブロックの上に伸ばしてタッチさせて着地する。
加藤「(手にトカゲを掴んで興奮)アガマ! レインバーアガマ! ヒュー! すごいねーほら(手から逃げようと暴れるトカゲ)アグレッシブだ噛んで来る、おおーアタタタタ、すごいすごいすごい気をつけないと(笑顔)」
番組D「(トカゲが車中から)見えたんですか?」
加藤「見える見える、捕ったでしょ! 今見えたでしょ! ね、ほら! こんなねえ人が多い処にもいるんだねー、すごいよ。(略)じゃあ逃がしますね(塀にトカゲを張り付けて)じゃあ行きましょう(冷静)」
走行する車中から、塀の上にいた小さなトカゲの姿をいったいどうやって視認できたのか?人離れした動物的な視力、無駄のない動きからジャンプ一閃ワンハンドキャッチする身体能力。えっ、何が起きたの?というあっという間のスーパープレーだった。泥臭さと美しさが瞬間的に爆発するこの動き、南米サッカーのスーパーゴールと同じ匂いを感じた。「クレイジージャーニー」では基本的に「狙った獲物が捕れない」ずっこけキャラが先行していたが、このスーパーハントで加藤英明がただならぬ異能者であることがわかった。
<2位>素手でつかむ加藤英明/2017年8月16日放送
――世界最大というゴライアスガエルを捕まえるため、川岸が石や水草で覆われた渓流へ。カエルがいる処にはヘビがいると話しながら、目で確認できない石の下や水草の茂みにあたりをつけては、ヘビの危険をかえりみずじゃぶじゃぶと素手をツッコんでいく。
番組D「探し方のコツってあるんですか?」
加藤「とにかく手をツッコむ」
番組D「手入れるの怖くないですか?」
加藤「だいじょぶだいじょぶ」
無防備に何度も何度も暗がりの水中や泥の中に手をツッコむ加藤、もしも何かに咬まれたら刺されたら、という危惧に胸さわぎが止まらない場面だ。常に捕獲対象を手づかみすることに対して、なぜ「素手」なのか、加藤は「ちょっと触れた時に、石なのか木なのか、それとも生き物の肌なのか、すべて情報がこの指先から入ってきますから、軍手してたら、あれ? ワニかな何かな? と思ったらガブっていかれる」と語った。野生生物に対し、自分と相手のどちらの皮膚の感度が研ぎ澄まされているか、自らの五感を信じる姿にたまらなく惹かれた。
だがそこに魔法は無い。素手の脆さは背中あわせだ。マダガスカルでウスタレカメレオンを木に登って捕獲した場面では、その喜びの笑顔とは対照的に、カメレオンを乗せた自身の腕は傷にまみれ、血がにじみ、こすりついた樹液で所々が黒ずんでいた。この、顔は喜色満面だが身体は満身創痍・・・「陸海空」(テレビ朝日)のナスDと同じだ。アマゾンでナスDは前向きな表情の一方で(あまり映し出される場面は少なかったが)腕や足が無数の虫刺されに覆われ、目をそむけたくなるような場面があった。
<1位>猛進激突する加藤英明/2017年2月9日放送
――マダガスカル島でヘサキリクガメを探す道中、灌木が並ぶ乾燥地で大木の幹にトカゲの姿を発見。いきなり全力でダッシュし、そのまま全身で大木に激突!
この場面こそ「THIS IS 加藤英明」。こんなふうに大木にまっすぐ激突する人を見たことがない。加藤は激突の痛みなどより、トカゲを取り逃がしたことを悔やんでいる。このシーンにこの人の愛すべきバカのほぼすべてが詰まっていた。「クレイジージャーニー」でも屈指の名場面である。
そして、もうひとつ番外を・・・
<番外>地面にダイブする加藤英明/2016年9月15日放送
――お目当てのコモドオオトカゲを見つけてダッシュで追いかける加藤。走って逃げるトカゲ。加藤がヘッドスライディングのごとく地べたにダイブするが、取り逃がしてしまう。そして、
加藤「もうちょっとね、頑張れたんですけども、途中で水牛のうんこ踏んじゃってこけましたよ・・・あんなところにうんこがあるから」
トカゲに向かって果敢にダイブしたのかと思ったら、うんこを踏んですべってつんのめっていた。そこには照れ笑いの欠片もなく、やはりトカゲを逃した後悔だけが加藤を覆っていた。
タレントを置き去りにする異能の一般人
この加藤英明が、前述したように「池の水ぜんぶ抜く」「ザ!鉄腕!ダッシュ!!」ではタレントのサポート役にそつなく徹している。「クレイジージャーニー」でのプリミティブなフォースを封印したまま、お茶の間に顔出ししているのが歯がゆい。サポート役ももちろん適任だが、見たいのは加藤英明の「スイッチが入り」一瞬にして周りを置き去りにする能力全開放の場面だ。
少しタイプは違うがテレビ界に波紋を呼ぶナスDは、全速で走り続けている。年末に放送された特番「よゐこの無人島0円生活2017 元祖無人島芸人・よゐこvs破天荒のナスD」(テレビ朝日)で、そのサバイバル能力を披露、素潜りでの超人的な漁スキルなどを見せつけ、もはや手をつけられない状態だ。
業界の暗黙のルールとも言える「何どきもタレントを立てる」という当然のスキームを堂々と崩しにかかるテレ朝&ナスD。約束された枠の中で奮闘するタレントか、枠の無い世界をゆく異能者か、この時流に加藤英明がどう関わるのか、2018年、まずは「クレイジージャーニー」での加藤英明を待つ。