※この記事は2018年01月18日にBLOGOSで公開されたものです

昨年6月、東名高速道路で大型トラックがワゴン車に追突し、静岡市の夫婦が死亡する事故が起きた。この事件をめぐっては、夫婦の進路をふさいで事故を誘発したとして、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)容疑などで男が逮捕された。後に、横浜地検は、この男を罰則の重い同法の危険運転致死傷罪を適用し、起訴している。

一方、この事故発生時、夫婦の長女と次女も同乗していた。交通事故によって、親を失った子供たちは、一体どのような状況に陥るのだろうか。長年にわたり、交通遺児への支援を行っている、交通遺児育英会に話を聞いた。

シングルマザー世帯では、さらなる苦境に

「一番大きいのは精神的ダメージですね。交通遺児の家庭では、一般的に父親が通勤中に事故に遭い亡くなってしまうというケースが多いです。一家の大黒柱を失う精神的なショックは非常に大きいと思います」。

公益財団法人交通遺児育英会の石橋健一専務理事は、そう語る。石橋氏によれば、精神的なショックに加え、事故による経済的なダメージも多くの交通遺児を苦境に追い込む要因になっているという。

「私どもの調査では、交通遺児の世帯では、世帯主が非正規雇用であるケースが5割近くになっています。事故で父親が亡くなり、母親が仕事に就く場合、正規で雇用されるというケースは非常に少ない」。

同会では、可処分所得のデータもまとめているが、シングルマザー世帯の場合の平均値は167.5万。2015年の国民生活基礎調査における貧困線である122万円と、それほど大きな差はない状態にある。

交通遺児育英会は、昭和44年の設立以来、48年間で56000人に奨学金を貸し付けてきた。奨学金は高校から大学院までカバーしており、入学前の準備金や入学後の一時金という形でまとまったお金を貸し付ける場合もあるという。

「原則として社会に出られて半年後から、最長20年間でご返済いただく形になっています。無利子ですが、生活に困って返還出来なくなる人もいるので、返還免除や返還猶予という制度も設けています」(石橋氏)。

0歳児から中学校までの生活費の補助は、自動車事故対策機構(NASVA)という機関があり、連携もしている。

奨学金貸付以外にも様々な事業に取り組む

交通事故死者数は1970年代に年間1万6000人を超えていたが、現在では4000人を切っている。また、少子化の影響で貸付数は減少傾向にある。しかし、交通遺児育英会では貸付のみならず、様々な事業を行っているという。

「奨学生に対する指導育成というのも重要な仕事です。成績を管理して悪ければ注意を行いますが、2年連続で改善が見られない場合には貸与停止、最終的には奨学生の資格を廃止するという対応を取る時もあります」(石橋氏)。

これらに加えて、交通遺児家庭という同じ境遇に置かれた者同士のつながりを作る活動もしている。全国から高校奨学生とその保護者に東京に集まってもらい、懇親をはかる場を設けているという。近所の人などと気軽に話すことができないことでも、同じ境遇に置かれた人たちであれば、気軽に相談できると、参加者からは好評だという。

さらに、高校奨学生を対象にした3週間の海外語学研修、東京や関西の専門学校、大学、大学院に通学するための学生寮の提供なども行っている。

死亡者減も後遺障がい者数は5~6万人。継続的な支援が必要

「最近は、様々な奨学金について、社会に出てから返還が困難になるケースが発生していることが話題になっています。そのため、現在、返還不要の給付事業に力を入れているところです」(石橋氏)。

具体的には、月1万5000円の下宿費補助、上限5万円の上級学校進学受験費補助、上限15万円の自動車運転免許取得費用補助などを行っている。

現在、同会の事業は100%寄付によって支えられている。ここ数年は、ACジャパンの支援広告の効果もあり、寄付額は微増傾向にあるという。

「確かに交通事故の死亡者数は減っています。しかし、後遺障がい者数は年5~6万人程度から減っていない。その中には、世帯主が働けなくなって、家計が苦しくなってしまうというケースもあります。当会は、そうしたご家庭にも継続的に支援を行っています」。

◆関連リンク
公益財団法人 交通遺児育英会