原発避難いじめ 「全部は話しきれない」学校で子どもたちがいじめを受けるようになったことを証言 福島原発被害救済新潟訴訟で本人尋問 - 渋井哲也
※この記事は2018年01月11日にBLOGOSで公開されたものです
2011年3月11日の東日本大震災に伴う、東京電力・福島第一原発事故によって、避難を余儀なくされた福島県内の住民がいる。復興庁によると、11月28日時点で、県外に避難をしているのは3万4419人おり、彼らは全国各地に避難している。
しかし、自主避難者の避難先住宅の無償提供が3月末で打ち切られたことによって、自主避難者を統計上、計上しなくなったため、正確な自主避難者の数は明らかにされていない。
そんな自主避難者たちの一部(239世帯、807人、10月25日現在)は国や東電に対して損害賠償を求めて各地で提訴している。12月22日、新潟地裁で開かれた口頭弁論では、本人尋問が行われた。この日は4人が証言台に立った。筆者が取材を続ける、会社員の佐藤幸治さん(51、仮名)の妻、郁美さん(45、仮名)もいた。(関連記事「一時は自殺も考えた…原発事故避難先でいじめを受けた少女」)
この日証言をする4人のうち、最初に証言をしたのが郁美さんだった。幸治さんは傍聴席にいた。私の隣だった。
一度は避難したが、葛藤の中で戻った
原発事故前、郁美さんは福島県の中通りにある、夫の実家で、義父母と一緒に住んでいた。当時は長女が7歳、次女が4歳だった。夫は南相馬市小高区にある工場勤務で、普段は工場近くにある社宅に住んでいた。原発事故のことはラジオで知り、3月15日、一度は、郁美さんの実家である新潟県下越地方に避難した。
郁美:娘の同級生たちが避難をし始めていました。それに夫は会社から自宅待機を指示されて、実家に戻っていたからです。
その後、同年4月2 日、夫の実家に戻っている。
郁美:何もわからずに避難をしていました。しかし、長女が通う小学校の新学期が始まるというので、葛藤があったものの、戻りました。
一方、東京電力の代理人からは「いつも通り、学校は始まった?」と質問されている。
実際、生活も一変している。
郁美:水道水は飲まない。福島産のものは食べない。外に出るときには、帽子をかぶり、長袖、長ズボンを身につけていた。なるべく外出はしないようしていた。
東電代理人は、11年秋に小学校で運動会が開催されたことを指摘した。しかし、「通常と違う」という言葉が出たために、かえって東電に不利になるような証言内容になった。
郁美:いつもとはまったく別のものでした。自分の競技中だけ半袖半ズボン。そのほかは長袖長ズボン。昼食は室内で。通常の運動会とは違っていた。
家族揃って、新潟に避難をすることを考えた
郁美さんたちが一家4人で再度避難をするのは12年8月6日だった。郁美:夫が会社を解雇されていた。また、子どもたちが夏休みを迎えていたから。その時期のほうが、子どもの生活に影響がでないと思ったから。
これは郁美さんが家族揃って一緒に避難をしたいという考えだったからだ。東京電力側はその点について疑問に感じたのか、以下のように質問している。
郁美:夫が解雇されたことと、夏に子どもをプールに入れたくなかったから
東電代理人:屋外でプール活動をするという案内があった?
郁美:はい
東電代理人:それは学校が安全と判断したのでは?
郁美:わかりません
避難後、長女がいじめに…。
長女へのいじめが始まったのは転校後、一ヶ月くらいからだった。その影響で、自傷行為をするようになり、病院で適応障害の診断を受けることになる。裁判では、以前、取材した内容を簡素に伝えていた。そして、長女の気持ちについても、代弁した。長女のいじめは「きもい」「けがれる」「なまっている」「サイバン」と言われたり、菌鬼ごっこの対象になったことだ。こうしたことは、一般的な転校生に対するいじめとは違うのか。
郁美:あると思います。小学校のときに「きもい」「けがれる」「なまっている」「サイバン」と言われています。
代理人:菌鬼ごっこは?
郁美:関係はあると思っています。横浜での避難いじめや、新潟県内で避難してきた子どもたちに菌鬼ごっこがあることがニュースになっている時期でした。長女は「私と同じだ」と言っていました。関係がないとは言い切れないと思います。
国側は学校のいじめの対応についても聞いて来た。
郁美:学年は1クラス。言葉の暴力を言っていないのは3人だけ
国代理人:学校側に改善を求めたか?
郁美:対策は取られましたが、いじめがなくなることはありませんでした。
国代理人:中学に進学してもいじめが続いた?
郁美:同じ小学校出身の女の子が吹聴して歩いたから
国代理人:「けがれる」は原発事故に関連しているのか?
郁美:はい。「サイバン」も、菌鬼ごっこもそう。
国代理人:なぜそう言えるのか?
郁美:横浜の避難いじめ、新潟の菌鬼ごっこの件がニュースになっていた時期だったので。
国代理人:それはいじめなのか?
郁美: 本人がそう感じればいじめですから。
次女もいじめをうける....
いじめは長女だけではない。妹にも波及している。以前取材したときには、次女も、長女の同級生からBB弾を打たれていたことがわかっているが、最近になって、上級生から傷つく言葉を投げかけられていた。
最近になってからも、体育館で遊んでいたときに、上級生から「お前のお姉ちゃんはいじめられていた」などと言われてしまい、ショックで19日から学校に行けなくなっていることも証言した。
郁美:福島から避難をしてきた子が、(長女がいじめにあう)数年前にいじめを受けて、転校をしています。
そして、国や東京電力に対してこう述べて、締めくくった。
夫「全部を伝えきれていない」が「聞いてくれている印象」
本人尋問後、佐藤夫妻と代理人は県弁護士会館で取材に応じた。尋問を聞いていた幸治さんは「長女がいじめを受けていたのは小学校3年以降、もう4年以上になるため、全部を伝えきれていない。しかし、長女のことに関しては、裁判官もうなづいていたので、聞いてくれている印象があった」と話した。
長女のいじめについては教育委員会で調査委員会が開かれている。当初、報告書は年度内に出るとの見方もあったが、ずれ込むことになった。幸治さんは「提言が出て、実際に動き出すのは時間がかかるはずです。できるだけ早く、結論を出して欲しい」と述べた。
ちなみに、現在、長女は学校に通っている。「将来の夢のために、割り切って登校している」(幸治さん)とのこと。
「自主避難者は、億単位もらっている、というのは勘違い」
尋問を受けた郁美さんは「(福島県から)避難して5年。娘がどんなことをされたのか、どんな心境だったのかは短い時間の中では伝えきれませんでした。私たち家族がどんな苦痛を受けたのか、全部は話しきれていません」と振り返る。
また、「福島からの自主避難者という色眼鏡があったと思います。そうでなければ、ほかの子どもの保護者から、『たくさんお金をもらっているんでしょ?○○財閥ね』という言葉は出ません。福島の自主避難者は、「億単位もらっている」、というのは勘違いです」と主張していた。
代理人「サイバンという言葉はいじめの一環」
被告代理人だけでなく、裁判官も「サイバン」という言葉がいじめとして使われたことを疑問に感じたのか、質問をしていた。長女がサイバンという言葉でいじめを受けたのは、郁美さんがこの訴訟に参加する以前からだ。
この点について、代理人は「避難者のレッテルを張るための言葉として“サイバン”と言われています。“サイバンは普通の人はやらない”というイメージがあります。そのため、いじめの一環として言われたときに、“普通とは違う”という印象を持つのだろうと思います」と指摘した。
なお、長女のいじめに関しては教育委員会の調査委員会が設置されているが、18年1月にも報告書が出る見込みだ。