地域の子供の面倒は、地域の大人がみるべき - 赤木智弘
※この記事は2018年01月07日にBLOGOSで公開されたものです
昨年12月26日に、文部科学省は「学校における働き方改革に関する緊急対策」を公表した。
その中身には以前から問題になっていた教師の長時間労働を是正し、学校や教師が担うべき業務を明確にするための提言が記されている。(*1)(*2)
その中でも、特に文科省が部活動を学校ではなく、地域に移行するという提言を示したことは、極めて重要である。
以前から学校の部活動は教師の長時間労働を生み出す元凶の1つとして批判されていた。
学校の部活動は、現状その大半が「学校教師に寄るボランティア」によって成り立っているというのが現状だ。しかもそれは「教師なのだから部活動を受け持つのが当たり前」というパワハラ的抑圧による強制である。
顧問は放課後はもちろん、朝練があれば早朝から、土日も練習や対外試合があれば部活動に従事するしかない。仕事であり賃金を受け取っているのだから当たり前だと考える人もいるだろうが、実は部活動は仕事としてはカウントされておらず、教師が得られるのは3、4000円程度の僅かな手当だけである。仮に土日の休みに8時間部活に付き合えば、その時給は500円に満たないのである。
そもそも、部活動の顧問は教師の業務ではない。にも関わらず本来の業務である授業などの他に、部活顧問というボランティアをせざるを得ず、その結果、無理な長時間労働を免れないということが、問題とされている。これが部活問題の基本だ。
この部活問題が解決されないのは、多くの人達が「部活動は学校で」という意識を持っているからだ。 実際、内田准教授の記事(*1)に対する反応を見ていくと、中には「地域に負担を押し付けるべきではない」という反応が見受けられた。
内田准教授の記事(*1)でも分かるように、保護者の9割は部活を「学校が担う」べきであると考えている。 しかし、これまで以上に子供の安全安心に対する責任が圧し掛かる中で、教師にばかり負担を押し付けるのは無理があったし、また教師の人権を考えない状況であったということが明るみになってきた。つまり現状ですでに、教師に過度な負担が押し付けられているのである。
そもそも部活の需要とはどこにあるのか。実際問題として、ごく一部の全国大会を目指すような強豪チームによる部活動を除けば、保護者たちが部活動を必要とする理由は「無料で預けられる都合のいい学童保育」だろう。子供が早く帰ってきても手間がかかるだけなので、夕飯の買い物が終わるくらいまでは学校にいて欲しいというのが少なくない親たちの本音ではないか。
そうした親たちのメリットのために、教師がボランティア労働のようなことを続けるというのは、極めて不公平な状況ではないか。
だからこそ、僕は部活動は学校外のこととし、地域の大人たちが面倒を見ればいいと考えている。
しかし、大人たちも働いている中で、子供の面倒を見る時間など無いという意見もあるだろう。だが、考えてもみて欲しい。教師たちだって教師として責任もって働いているのに、更に部活動で子供たちの面倒を見ているのだ。他の大人がそれをできないわけがないだろう。
え? 朝早く出かけて、夜は残業で大変だって? そんなことは、子供たちの面倒をみるという「仕事」をすっぽかす理由になるだろうか? 自分の子供はもちろん、地域の子供達の面倒をみるのは大人としての「責任ある仕事」ではないか。
責任ある仕事を果たすためには、時間をちゃんと調整すればいい。お父さんたちが午後4時位には家に帰ってくるような労働形態であればいい。通勤に1時間かかるとして、午前8時に家を出て、午前9時に会社について、午後3時位まで働いて帰ってくればちょうど午後4時だ。それから地域の部活動に付き添えばいい。
最近は「イクメン」なんていう言葉で、子供を風呂に入れれば立派だなどという風潮があるが、自分の子供の世話をするなんてのは当たり前ではないか。せめて自分の暮らす地域の子供たちの面倒くらい見てから立派だと思って欲しい。
また、教師の中にも部活動を楽しんでいる教師がいるかもしれないが、彼らがもし部活動をやり続けたいのであれば、その教師が学校から家に帰り、自分の住む地域の部活動に付き添えばいいのだ。
学校にいる教師の数と、地域に住む大人の数。そのどちらの数が多いかは自明である。たくさんの人が自身の責任として子供たちにちゃんと関われば、一人あたりの負担は決して大きくない。
逆に今、教師の負担が大きいのは、会社勤めの人たちが仕事にかこつけて、地域の子供達の面倒をみるという責任を、数の少ない教師たちに一方的に押し付けているからだ。
「自分は立派に働いているから、子供の面倒は教師が見ろ」なんてのは、ただのワガママだ。そうしたワガママを廃し、全ての人が地域で役割をはたすことこそが、真っ当なライフワークバランスの是正であり、真っ当な働き方改革であると言えるのではないだろうか。
*1:学校から部活がなくなる? 完全外部化の是非(Yahoo!ニュース 内田良)https://news.yahoo.co.jp/byline/ryouchida/20180102-00080021/
*2:学校における働き方改革に関する緊急対策(文部科学省)http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/12/__icsFiles/afieldfile/2017/12/26/1399949_1.pdf